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    yu_kalino

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    yu_kalino

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    2021-02-13 五七版ドロライ お題「バレンタイン」
    ※1時間ではここまでが限界でした。
    ※後日追記します(多分)。
    ※(2021-02-15)追記しました。

    #五七
    Gonana
    #五七版ドロライ
    #五七版バレンタイン
    valentinesDay

    普段、前触れもなくやってくる五条にしては珍しく、事前に約束を取り付けてきた。
    バレンタインだからとアピールして時間だけでなく、七海の部屋に行きたいと主張までしていた。
    一つ年上の恋愛関係にある男ではあるが、学生の頃と変わらない傍若無人さと圧の強さはいつも七海をたじろがせる。
    五条の願いを受け入れるのが嫌だというわけではないが、唯々諾々とわがままを叶え続けるのは調子に乗らせるだけである。そういう思いもあって、時折渋って見せ、仕方がないという風を装い、結局の所は己の男のわがままを受け入れるのだ。

    しかしながら呪術師などという仕事をしていると、突発的な案件にスケジュールが変更になることなどはよくあることだ。
    特に五条のような上層部と対立をしていても実力だけは確かな男は、あれこれ言われながらも重宝される存在なのだろう。約束を承諾した七海としては(反故になるか時間がずれ込むだろうな)と口には出さないものの、これまでの経験則から予想をしていた。期待をしすぎるのは良くない。と、七海は過去の己からきちんと学習している。

    だが、今日に限っては五条ではく七海のほうが約束に遅れることとなった。
    そもそもの話、本来は休暇の予定だったのだが、急な依頼に対応できる近場の術師が七海しかいなかった。
    ひどく申し訳無さそうな伊地知から連絡を受けて、七海は部屋着から仕事着とも呼べるスーツに着替え部屋を出る。連絡をすればきっと機嫌を損ねてしまうだろう五条の顔を思い浮かべてからトークアプリではなく通話を選んだ。

    「七海、どうしたの」
    電話なんて珍しいと、スピーカー越しに聞こえる五条の声が弾んでいるのがわかり、チクリと罪悪感が胸を刺した。
    「すみません。今日のお約束ですが、もしかしたら駄目になるかもしれません」
    仕事が入りました。と暗に告げれば、僅かな沈黙のあと、長くため息を吐き出すような音がノイズ混じりに聞こえて、ぎくりとする。沈黙が苦手なわけではないが、饒舌な男に黙り込まれると寄る辺ない気持ちになる。
    「あの……」
    「──待ってるよ」
    たった数秒の沈黙を怖れて口を開いた七海の言葉を遮るように、五条は口を開いた。
    「七海ん家で待ってる」
    念を押す言葉に、七海は「何時になるかわかりませんよ」と言い訳じみた応えを返すものの、五条は取り合わず「いいからさっさと片付けて、帰ってこいよ。遅くなると暇すぎてと寝室漁っちゃうかもなぁ」と挑発してくる。
    「部屋を荒らしたら、金輪際アナタを出禁にしますからね」
    売り言葉に買い言葉といった応酬は、彼なりの発破なのだろうと結論づけ、スマートフォンを懐に仕舞う。
    まるでタイミングを見計らったように伊地知が運転する車が数メートル先の丁字路に滑り込んでくる。車に乗り込んだ七海は数秒前までとは違う、呪術師の表情をしていた。

    ***

    職業柄、もしものためにと七海が伊地知に預けた自宅のスペアキーはその日のうちに五条の手に渡り、それ以後は彼のキーケースに仕舞われている。
    そもそも五条にとっては鍵などはあってないようなものだが、七海が不在とわかっている部屋に鍵を使って入るのは少し不思議な気持ちになった。
    誠実さ故に嘘を付くのが下手で、けれど表情には現れにくい五条の恋人は諦念というポーズで五条のすることを大抵は許して受け入れてくれる。だからこそ七海が本心で否ということには五条は従うのだ。
    「出禁にするっていうのも割と本気っぽかったなぁ」
    日が落ちて、日中に温められた空気がぐんと下がって五条の頬をなでる。
    外の寒さに肩をすくめ、ファミリー向けであろうマンションのエントランスをくぐり、エレベーターで上層階まで上がった。共用廊下からは市街地と日没の名残を残した夕焼けが一望できた。
    勝手知ったるとはよく言ったもので、玄関で靴を脱いだ五条は抱えた手荷物を慎重にキッチンに運び込んだ。
    冷蔵庫でもいいらしいが、冷凍庫でも凍らないという店員の言葉を信じて七海へのプレゼントを冷凍庫へと仕舞う。

    今まで七海と恋人らしい行事をともにしたことは無かった。
    互いに術師としては多忙で、ともに過ごす時間も一般的な恋人に比べれば少なく、すれ違いのほうが多い。数時間だけでもと都合をつけた束の間の逢瀬は慌ただしいことこの上なく、下手をすると情を交わすだけなんてことすらあった。
    だからこそ、今回は周到に根回しをして七海の休暇を確保して、己も夕方までには仕事を片付ける算段をつけていたのだ。それが仇になり、空いた七海に仕事が振られてしまったわけだが。

    けれど五条のかけた発破は負けず嫌いの七海にはよく効くことは、五条自身がよく知っている。
    あと数時間もせずにきっと無事に戻ってくるだろう七海と過ごす時間に、五条はリビングのソファに腰掛けて格好のつかないニヤケ顔を浮かべた。

    ***
    (ここから追記)
    ***


    「おっかえりぃ~」
    「──ただいま帰りました」
    七海がリビングの扉を開ければ、まるで自宅のように革張りのソファで五条が寛いでいる。
    ただいまと言葉を返すのはどこか面映いが、挨拶を疎かにするのは七海の信条に反するので、なるべく普通を装った。
    本来の約束の時間より遅れること一時間半、五条は大人しく待っていたようだった。無聊を慰めるためだろう、寝室の書架から数冊の本を持ち出してたが、それは咎めるようなことではなかった。

    自室に戻る前に洗面所に寄り、嗽をして念入りに手を洗う。刷毛のようなブラシで爪の間まで丁寧に汚れを落とした。そうしてようやく七海は自室に戻る。コートにブラシをかけ、スーツも同様にワードローブに仕舞う。サングラスはいつも仕舞うトレイに戻し、タイを抜いてこちらもハンガーに掛けた。
    気を使うような相手ではないが、一応は目上かつ年上の相手である。ラフになりすぎないよう、柔らかいチノパンと首元のゆったりとしたネイビーのニットを選んだ。

    洗濯物をランドリーバスケットに放り込みリビングに戻れば、待ち構えた五条に手を引かれ、隣に腰を下ろす。
    造形の完璧さから冷たいと思われがちの五条の体温は、代謝の良さの表れか温かい。
    「僕さぁ、アンデルセンって初めて読んだ気がするんだよねぇ」
    近接戦闘を主とする七海の戦い方は、生傷が絶えない。負傷していないかを探るように指先から肘のあたりまで、ニットをまくりあげ検分しながらなんでもないことのように五条は言葉を紡ぐ。
    「私は、祖父の国の童話ということでよく聞かされたので、日本の童話のほうが馴染みは浅いかもしれませんね」
    満足したのか、するすると袖をおろし、名残惜しげに手を離す五条の指先を少しひっかくように悪戯をした。ぱちくりと生え揃った睫毛が音を立てそうに震える様が愉快で、七海は小さく唇をほころばせた。
    ローテーブルに置かれたままのハードカバーに手を伸ばし、少し毛羽立った装丁を撫でる。幼い頃、祖父からもらったそれは、随分と色褪せている。それでも処分することが忍びなくて七海がずっと手元においているものだ。
    「そうやって七海に大事にされてるのを見ると、本にまで嫉妬しそう」
    七海よりも年重なのに、子供じみた拗ねたポーズの似合う男は、きっと子供であることを許されなかった反動なのかもしれない。そう思えば、少しだけなら甘やかしてもいいような気がした。
    食事を作るのは面倒だが、空腹感はある。
    それよりも前に、まずはこの男を甘やかさねばなるまい。
    「そういえば、晩御飯食べましたか?」
    中華で良ければデリバリー取りますけど、と問いかければ「何がオススメ?」と問い返された。
    「だいたいなんでも美味しいので、好きなものを頼んでください」とマガジンラックに挟まっているメニュー表を渡せば眺め眇めつスマートフォンを片手にデリバリーの注文をはじめる。

    その隙を縫って、七海はキッチンへと向かう。
    バレンタインらしいギフトを特に用意していたわけではないし、菓子づくりも趣味ではない。それでもちょくちょくと訪れる五条のために七海はチョコレートをストッカーに置いている。輸入食材店で手に入れた製菓用のクーベルチュールチョコレートは砂糖が含まれておらず、甘味を好まない七海も酒のつまみに時折齧っている。
    ミルクパンに牛乳を注ぎ、小さく縁に泡が立ちだしたら弱火にしてばらばらとクーベルチュールを放り込んで溶かしていく。
    木さじで焦がさないようにくるくると混ぜ合わせ、とろりとしたホットチョコレートになれば、それぞれのマグカップに注ぎ、五条のものには角砂糖を一つ二つ三つと入れて更に混ぜ合わせた。

    「三、四十分くらいで持ってきてくれるって」
    「そうですか、なら丁度いいですね」
    甘い匂いにつられてキッチンに顔を出した五条に湯気を立てるマグカップを差し出す。
    鼻先に突きつけられたチョコレートの匂いに、嬉しさを噛み殺しきれないといった様子でムズムズと口元が歪んでいるのが可愛らしい。
    せっかく整った顔が台無しだなと思いながらも、その顔を己がさせているのであれば満更でもない。
    「せっかくのバレンタインですので、お望み通りに」
    チョコレートがほしかったのでしょう?と稀有な眸に視線をあわせて問いかければ、大ぶりの牡丹が花開くように嬉しそうに笑うものだから、七海の方まで嬉しくなる。

    マグカップから一口ホットチョコレートをなめて甘くて美味しいと顔をほころばせた男は、おもむろに冷凍庫の引き出しを開けて、冷えたボトルを取り出した。
    「そういえば、僕も七海にプレゼント持ってきたんだった」
    マグカップをカウンターに置いて、差し出されたものを受け取る。日本ではめったに見ることはない蒸溜所のものだ。先程まで五条が読んでいたアンデルセンの名がついたアクアビットのボトルは、薄い金色の液体を蛍光灯の明かりにキラキラと輝かせている。
    「酒の味はわかんないけど、七海の髪の色みたいでだったからついね」
    こういうのガラじゃないんだけどさぁと甘い液体をのみながら、七海の反応を伺う五条はひどく楽しそうだ。先程甘やかしてやろうと思ったものの、調子に乗らせていいのかという反発心も芽生える。
    「有難うございます。食事の時にいただきますね」
    日本では手に入りにくい蒸留酒をもらったのだから、まぁこの位はと己に言い訳をして、七海は素直に礼を述べ、再び冷凍庫へとショットグラスとともに仕舞い込んだ。


    「たまになら、こういう行事もいいかもしれませんね」
    カウンターに二人並んで、なめたホットチョコレートは少しぬるくなっていた。
    そして、七海のカップの中身は無糖にも関わらずほんのりと甘かった。
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    yu_kalino

    DONE2021-03-13 五七版ドロライ お題「ホワイトデー」
    ※バレンタインの続き的な感じ
    ホワイトデーは菓子業界の陰謀である。
     そんな馬鹿げたことを言うつもりはないが、今までの七海にとっては非常に面倒くさい日であった。それは五条も同様だろうとは思うが、放埒を絵に描いたような男はそんなことは気にも留めない。彼にはそれを許される力と圧倒的な美しさがあるからだ。
     七海としても五条からの返礼などは求めていない。むしろ、そんなことをされたら気持ち悪いと一蹴するかもしれない。何しろ七海が差し出したものは、砂糖がたっぷりと入ったありあわせのホットチョコレートだけなのだ。それに対して五条からは一本の酒を受け取っている。これ以上何かを受け取るというのは、貰いすぎている。七海の中で釣り合いが取れないのだ。
     むしろ現時点ですでに釣り合いが取れていないので、五条になにか送るべきなのかもしれないとは思っている。思っているのだが、如何せん五条を喜ばせるのは癪に障るのだ。ただでさえ調子づいた性格であるのに、更に図に乗るのは火を見るよりも明らかである。

    (これはついでです。あくまで、ついでの買い物です)
     仕事の帰路に、夕食を買いに来ただけだと言い聞かせ、実際に夕食になりそうなものをグロッサリーで 1253

    yu_kalino

    DONE2021-02-27 五七版ドロライ お題「喧嘩」パンッ、と小気味の良い音が余韻を残すような静寂。
     それとは裏腹に張り詰めた緊張感が二人の間にあった。

     七海がよく口にする「引っ叩きますよ」はあくまでポーズのつもりであった。
     五条にとって威嚇にも牽制にもならないそれは、謂わば気に食わない、不愉快であると言ったような感情を七海が彼に対して伝える手段でもある。
     恋人相手に手を上げるような野蛮な行為をするつもりはない。しかし、他人の機敏を無視しがちな男相手には、そのくらいの言葉の強さで丁度よいと考えていた。誰よりも強い男は、七海の知る誰よりも面倒くさい性格をしていた。
     
     実際に今の今まで五条は七海に手をあげられたことなど無かった。仕事で少し無理なお願い(無論、七海にならできるという信頼があってのことだ)をしても、ベッドで多少の無茶をしようとも、舌打ちや少し棘のある言葉で五条は許されてきた。
     七海が繰り返すその言葉は、つい加減が効かない己に対するブレーキであるとは理解している。それなのに、ついいつも許してくれるからと調子に乗ってしまったのだ。
    「──ゴメ、」
    「殴ってすみません。頭を冷やしてきます」
     言葉を遮って五条の下から抜 1385

    yu_kalino

    DONE2021-02-13 五七版ドロライ お題「バレンタイン」
    ※1時間ではここまでが限界でした。
    ※後日追記します(多分)。
    ※(2021-02-15)追記しました。
    普段、前触れもなくやってくる五条にしては珍しく、事前に約束を取り付けてきた。
    バレンタインだからとアピールして時間だけでなく、七海の部屋に行きたいと主張までしていた。
    一つ年上の恋愛関係にある男ではあるが、学生の頃と変わらない傍若無人さと圧の強さはいつも七海をたじろがせる。
    五条の願いを受け入れるのが嫌だというわけではないが、唯々諾々とわがままを叶え続けるのは調子に乗らせるだけである。そういう思いもあって、時折渋って見せ、仕方がないという風を装い、結局の所は己の男のわがままを受け入れるのだ。

    しかしながら呪術師などという仕事をしていると、突発的な案件にスケジュールが変更になることなどはよくあることだ。
    特に五条のような上層部と対立をしていても実力だけは確かな男は、あれこれ言われながらも重宝される存在なのだろう。約束を承諾した七海としては(反故になるか時間がずれ込むだろうな)と口には出さないものの、これまでの経験則から予想をしていた。期待をしすぎるのは良くない。と、七海は過去の己からきちんと学習している。

    だが、今日に限っては五条ではく七海のほうが約束に遅れることとなった。
    そもそも 4360

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    _bien_man_

    DONEでえ遅刻だ〜い!五七ワンドロライ参加させていただきます!+1hほどです
    #五七版ドロライ
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    僕は七海に甘やかされている自覚と、経験に基づく自信がある。例えば髪を乾かさずにぼんやりしていると文句を言いながらもドライヤーで乾かしてくれる時。例えば突然味噌汁が飲みたくなり駄々を捏ねると面倒くさい、という顔をしつつきちんと出汁から取って作ってくれる時。
    こういう話を周囲にするとあまり七海に迷惑をかけるな、とか惚気なら他所でやれ元担任と知人の恋愛事情知りたくもねえよ、とか散々言われるし当の七海にも死ぬほど嫌な顔をされる。しかし僕は全く意に介さない。なぜなら、この冷たい周囲の反応を跳ね除けて有り余るほど愛おしい七海の別側面を僕だけが知っているからだ。

    「ごじょうさん」
    「あ〜ハイハイハイ七海ぃ、危ないから今は離れて」
    「いやです、いますぐこっちきて膝を貸しなさい。肩でもゆるします、ごじょうさんなので」
    「ほんと酔い回ると女王様だよなオマエ……」

    疲労が溜まりに溜まった週末、七海はしこたまアルコールを摂取する。ビール、日本酒、ワイン、ハイボールその他諸々何でもありのちゃんぽん祭り。いくら酒豪とはいえ摂取量の上限はあるようで、そうなると普段の鉄面皮はものの見事に剥がれ落ちとんでもない 1912

    yu_kalino

    DONE2021-02-27 五七版ドロライ お題「喧嘩」パンッ、と小気味の良い音が余韻を残すような静寂。
     それとは裏腹に張り詰めた緊張感が二人の間にあった。

     七海がよく口にする「引っ叩きますよ」はあくまでポーズのつもりであった。
     五条にとって威嚇にも牽制にもならないそれは、謂わば気に食わない、不愉快であると言ったような感情を七海が彼に対して伝える手段でもある。
     恋人相手に手を上げるような野蛮な行為をするつもりはない。しかし、他人の機敏を無視しがちな男相手には、そのくらいの言葉の強さで丁度よいと考えていた。誰よりも強い男は、七海の知る誰よりも面倒くさい性格をしていた。
     
     実際に今の今まで五条は七海に手をあげられたことなど無かった。仕事で少し無理なお願い(無論、七海にならできるという信頼があってのことだ)をしても、ベッドで多少の無茶をしようとも、舌打ちや少し棘のある言葉で五条は許されてきた。
     七海が繰り返すその言葉は、つい加減が効かない己に対するブレーキであるとは理解している。それなのに、ついいつも許してくれるからと調子に乗ってしまったのだ。
    「──ゴメ、」
    「殴ってすみません。頭を冷やしてきます」
     言葉を遮って五条の下から抜 1385

    yu_kalino

    DONE2021-02-13 五七版ドロライ お題「バレンタイン」
    ※1時間ではここまでが限界でした。
    ※後日追記します(多分)。
    ※(2021-02-15)追記しました。
    普段、前触れもなくやってくる五条にしては珍しく、事前に約束を取り付けてきた。
    バレンタインだからとアピールして時間だけでなく、七海の部屋に行きたいと主張までしていた。
    一つ年上の恋愛関係にある男ではあるが、学生の頃と変わらない傍若無人さと圧の強さはいつも七海をたじろがせる。
    五条の願いを受け入れるのが嫌だというわけではないが、唯々諾々とわがままを叶え続けるのは調子に乗らせるだけである。そういう思いもあって、時折渋って見せ、仕方がないという風を装い、結局の所は己の男のわがままを受け入れるのだ。

    しかしながら呪術師などという仕事をしていると、突発的な案件にスケジュールが変更になることなどはよくあることだ。
    特に五条のような上層部と対立をしていても実力だけは確かな男は、あれこれ言われながらも重宝される存在なのだろう。約束を承諾した七海としては(反故になるか時間がずれ込むだろうな)と口には出さないものの、これまでの経験則から予想をしていた。期待をしすぎるのは良くない。と、七海は過去の己からきちんと学習している。

    だが、今日に限っては五条ではく七海のほうが約束に遅れることとなった。
    そもそも 4360

    yu_kalino

    DONE2021-03-13 五七版ドロライ お題「ホワイトデー」
    ※バレンタインの続き的な感じ
    ホワイトデーは菓子業界の陰謀である。
     そんな馬鹿げたことを言うつもりはないが、今までの七海にとっては非常に面倒くさい日であった。それは五条も同様だろうとは思うが、放埒を絵に描いたような男はそんなことは気にも留めない。彼にはそれを許される力と圧倒的な美しさがあるからだ。
     七海としても五条からの返礼などは求めていない。むしろ、そんなことをされたら気持ち悪いと一蹴するかもしれない。何しろ七海が差し出したものは、砂糖がたっぷりと入ったありあわせのホットチョコレートだけなのだ。それに対して五条からは一本の酒を受け取っている。これ以上何かを受け取るというのは、貰いすぎている。七海の中で釣り合いが取れないのだ。
     むしろ現時点ですでに釣り合いが取れていないので、五条になにか送るべきなのかもしれないとは思っている。思っているのだが、如何せん五条を喜ばせるのは癪に障るのだ。ただでさえ調子づいた性格であるのに、更に図に乗るのは火を見るよりも明らかである。

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     仕事の帰路に、夕食を買いに来ただけだと言い聞かせ、実際に夕食になりそうなものをグロッサリーで 1253

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