ない前日譚*
毱打ちという遊びらしい。毱を棍棒だか篦だかで打って飛んだ距離や方角を競うらしいが刳屋敷には面白みが分からなかった。己の不明だろうとは思う。
「いやそれでいいんだよ。これね、昔は毱じゃなかったから」
「じゃあなんだよ」
「罪人」
教えてくれた学友の軽やかな囁きを聞いて、少し身を硬くして、それから刳屋敷は彼女を見上げた。京楽はのんびりと丘陵を見上げている。大きくてくりくりとした瞳に柔らかそうな白い頬が穏やかに波打つ前髪に見え隠れする。薄すぎず厚すぎずの頬も少女らしく薄く色づいているところにやや厚めの唇は今日も濃紅が乗せてあった。ひと目では判別がつきにくいがそれが化粧の為であること、その技術もさることながらそのものだって廷内に流通するもののうちでは値の張るものだ。彼女は学生の身分でそれに手が届く、そして歴史を知る、貴族の娘だ。
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