眠れる竜と満月になり損ねた魔女③【眠れる竜と満月になり損ねた魔女】
Ⅲ.
その日は満月の明るい夜だった。
夜帳はもうすこしすれば陽の光に変わるだろう。
都合の良いことに砂浜は誰もいなかった。
ただ静かに波が凪いでいる。
パシャリと水が跳ねる音がして振り返る。
えむが岩場に座り尾鰭で水面を叩いていた音だとわかると、ほっと胸をなでおろす。
寧々も司も人間にこの状態で見つかってしまうのではないか、と気が気ではなかった。
『えむ、静かに……まだ人に見つかったらまずいの。』
寧々が窘めると、えむは元気にはーいと手を挙げる。
もはや静かにするという概念はえむには存在しないようだった。
分かりきっていたことではあるがあまりに緊張感が欠如している。
寧々から本日何度目かの溜息が溢れる。
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