最後の夜 「キバナくん、僕と結婚をするにあたってひとつ約束をして欲しいことがある」
日中の疲れを包み込むような、暖かで優しい夕陽が差し込むダイニングテーブル。2人で向かい合わせに座り、登記所に婚姻の手続きをするため書類を作成していた時の事だ。
「なぁに、カブさん?」
カブさんとやっと結婚ができる幸せに舞い上がり終始口元を弛め甘ったるく返事をする。
「もし、ぼくが先に死んでしまっても跡を追わないで欲しい」
窓から差し込む淡い赤黄色の光が反射して、彼のロマンスグレーの髪がキラキラと輝く光景をずっと見ていたから、頭が追い付かない。とても唐突な約束に目を見開き彼に迫る。
「何を突然……」
オレの言葉にカブさんは目を閉じて少し考える。持っていたペンを器用に数回指の間を回した後、重たい口を開いた。
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