ぱふぱふ レックがぱふぱふを覚えたらしい。
ダーマ神殿で転職し、レックが遊び人になってしばらく経つ。他の職よりも速くマスターできるスーパースターになって、そして早く勇者になるのだ、というレックを止める仲間は誰もおらず、オレも、頑張れ、と声をかけたが、しかしたまに戦闘中に見せる奇行というかおふざけというかを見せられると、若干どころかかなり心配になるのも事実だ。
遊び人から別の職に転職したら、ちゃんと元に戻るんだろうな? さすがにこのままってことは……ないよな?
そんな心配をしながら過ごしていたある日、レックが「ハッサン、オレ、ぱふぱふのスキルを覚えたぞ!」と笑顔でこちらに報告してきた。
ぱふぱふ。
を、レックが…?
「……その、薄い胸でか……?」
と、そのへんのぱふぱふ屋の姉ちゃんたちより豊満とは言いがたいが、普通の男よりはまあそこそこ鍛えられたレックの胸を見下ろしながら言うと、レックは、「おい、なんだよその目は!」と言って悔しそうに地団駄を踏んだ。
「いいの! 戦闘スキルのぱふぱふはちょっと色っぽいポーズするだけなんだから胸の大きさは関係ないの! それにオレはそんなに貧相じゃない! ハッサンが巨乳すぎるんだよ!」
「巨乳って言うな! 胸筋だこれは!」
「くそっ、オレのぱふぱふをくらいやがれ、ハッサン!」
そう言ってレックは色っぽく流し目をし、悩ましいポーズで胸を寄せ、こちらにバチッとウィンクをして…
「………まあ、そんなに悪くねえんじゃねえか」
似合うかと言われると似合ってない気がするが、オレに一矢報いようと頑張るその感じは嫌いじゃない。むしろ一周回ってけなげというか、かわいらしくて好きかもしれない、という気さえしてくる。
「うぐっ……なんか、逆に悔しい……!」
レックは悔しそうにそう言うと、ハッサンのバーカ! と、ガキのような悪口をオレに投げつけ、走り去って行った。
そして、仲間に次々とぱふぱふを試し……って何やってんだ、あいつは!
「あはははは! レック、何してんの!?」
「れ、レックさん、それはちょっとどうかと…!」
「レック、もうそのへんでやめておいたら…?」
と、苦笑混じりでレックに話しかける心優しい仲間たちを見ながら、オレはため息をつきつつ、レックに近づく。
「もういいだろ、レック。気は済んだか?」
オレがそう言ってレックの頭をぽんぽんと叩くと、レックは、うう、と唸り始めた。
「ぱふぱふってもっと、相手を魅了するようなスキルじゃないのかよ!?」
「残念ながら、レックのぱふぱふは相手のHPを下げる効果があるみたいね」
「なんで!? オレのぱふぱふ、そんなにダメなのか!? …あっ、本当だ、皆HPが下がって……ん?」
皆の状態をチェックしたレックが怪訝な顔をしたのち、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてオレの顔を見てくる。
「……なんだよ、その顔」
「ハッサンだけHPが減らずに魅了がかかってる! なんだよ、それならそうと正直に言えばいいのに、オレのぱふぱふ、よかったってさあ」
そう言って得意げな顔でオレを見上げてくるレックを、オレは目を丸くして見てしまう。
「は……はあっ!?!?」
魅了なんて、……別に、特にいつもよりレックが輝いて見えるとかそんなこと全然ねえし、普段と変わらねえのに、そんなのかかってるとは思えねえんだけど!?
「いやいや、気のせいだろ……」
「そんなことない、ちゃんとかかってるって」
「だって普段と全然変わらねえぞ、オレ」
そんなオレたちの会話を聞いて、 ミレーユがにっこりと微笑んだ。
「ハッサンは、レックに関しては普段からずっと魅了がかかってるみたいなものだから、あんまり変わらない気がするだけなんじゃないかしら」
ミレーユの言葉に、オレは首をかしげる。
ええっと、それは、どういうことだ?
別に、そんなもんかけられた記憶も、意識も全然ねえんだけどな……。
思わずレックを見やっても、レックも首をかしげて、不思議そうな顔でオレの顔を見上げてくるだけで。
「知らぬは本人たちばかりってやつね」
「ほんと、さっさと付き合えばいいのに」
「えっ、おふたりって、まさか、まだ……?」
オレたち以外の3人がこそこそと何やら言い合うのを、おい、何言ってんだよ、と咎めても、ため息をつかれたり、肩をすくめられたりするばかり。
「なんだよ、一体なんだってんだよ……」
「わかんねえ、なんなんだろ?」
揃って首を捻るオレたちを見て、ミレーユが「きっと、わからないからずっとこんな感じなのよね…」と苦笑し、バーバラとチャモロは、全くだとでも言いたげに、うんうん、と頷いたのだった。