兄貴が死んだ。そう聞かされた時、最初は信じられなかった。
だけど遺体と対面し、葬儀の準備を進めるうちにじわじわとその実感は這い寄ってきて、全てが終わった後、シンと静まり返った家の中で遺品の整理をしながら、胸の内にぽっかりと大きな穴が空いた事に気がついた。
兄貴はいつでも元気で騒がしくて、兄貴がいるだけでその場は明るく、輝いて見えた。だけど兄貴がいなくなった途端に全てが色褪せ、それは共和国へ、叔父さんたちの所へ行っても続いていて。
しばらくは何をする気にもなれず、この穴を埋めるにはどうすれば良いのだろうかと考えていた。そんなある日、ふと目についたのは共和国の警察官。彼らを見て、兄貴の事件の真相を知れば少しは気持ちも切り替わるかもしれないとクロスベルへ、警察学校へと行く事を決めた。
叔父さんたちにはずいぶん心配されたし反対もされたけど、大丈夫だからと押し切って入った警察学校ではひたすら勉学に励み、訓練に打ち込んだ。そうしていれば、何も考えずに済んだからだ。
休みの日も市内へ遊びに行く同級生を尻目に打ち込んだ結果、友人と呼べるのは同室のフランツだけ。他の人たちからは変なやつだと言われたし、教官陣からはもう少し肩の力を抜けと言われたけれど、そうするとぽっかりと空いたままの胸の穴が痛み、虚無感に襲われる。なのでがむしゃらに打ち込んだ結果、警察学校は無事卒業出来たし、ダメ元で受けた捜査官試験にも合格し。これで晴れて警察官になれる。そう思った。
だけど現実はそう上手くはいかないもので。特務支援課という、新しく発足したよくわからない部署で働く事になり、しかも捜査官資格を持っているからお前がリーダーだと言われ、言われた任務を懸命にこなしたものの、結局遊撃士に助けられてしまい、クロスベルの現実を突きつけられ、散々な、でもいちいち最もな事を言われ。正直もう、ため息しか出てこない。
結局俺は、兄貴みたいにはなれない。
別に最初から全て上手くいくと思っていた訳じゃない。だけど、現実はあまりにも自分が考えていたものと違っていて。
そこでふと思う。俺は何で警察官になりたかったんだろう。
兄貴の事件の真相を知りたいのは確かだ。そして兄貴みたいになりたいというのも。けど、それだけ。市民のためだとか、そんな大層な目的なんてない。だから、配属を辞退しろと言われてこんなに迷う。
そして同僚になるかもしれない面々を思い浮かべる。今日会ったみんなは、それぞれ理由や目的があるようだった。ならばそれを聞いてみようか。そうすれば何か掴めるかもしれない。
なので部屋を出た俺は、まずは隣の部屋へと足を向けるのだった。