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    vOoMbf2dziZl3a4

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    vOoMbf2dziZl3a4

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    お蔵入りを公開していい感じにテンションをあげようの回!!!!
    ガロリオとプロメアの話。たぶん10〜20視聴くらいの間に書いていたやつです。

    えらばれしもの「   」
     きこえる。
    「     」
     呼んでいる。
     ふ、と意識が、まるで吸い寄せられるように浮上する。瞼を開いた先には、もう見慣れてしまった天井があった。
     地球を救ったあの日。バーニッシュと非バーニッシュという対立構造が、消えてしまった日。都市部の機能を回復後、結局クレイ司政官の暴走や、リオたちバーニッシュへの境遇も情状酌量の余地があるとして、新司政官のもとへ身柄を数日拘束されたのちに、バーニングレスキューがリオの保護観察を厳命された。
     リオが仮の住まいとして宛てがわれたのはガロが住むアパートで、気がつけばもう三ヶ月ほど暮らしていることになる。
     今日も今日とて都市部の復旧作業に追われていたバーニングレスキューの手伝いと、元バーニッシュたちの居住区へと物資の差し入れを終えたリオは、とろとろとした眠気に身を委ね、眠っていたのだが。
     上体を起こし、ぱちぱち、瞬きを繰り返す。何度見ても、部屋は平時のまま変わりがない。日常生活を送るために必要な資源はだいぶ回復していたが、計画停電が行われるなど節電を強いられていた街は、以前よりも深く夜に呑まれている。暗くて、うすらとした物の輪郭しか捉えられない部屋だ。まだ深夜なのだから、当然といえば当然だが。
     きょろり、見回して、隣で眠る男の姿を確認した。いびきをかいて眠る男は、こうしてみれば随分と端正な顔立ちをしている。ふふ、と青い髪を撫で上げて、くありと欠伸を漏らした。
    「   」
     は、とする。何かが聞こえた。確かに、聞こえた。
     しんとした部屋で耳を澄ませる。
    「 り 」
     音は、先ほどよりも鮮明に聞こえた。
    「 りお 」
     寝室の扉の前に、子どもが立っていた。ふわりとした髪、短い丈のパンツとサスペンダー。
    「……誰、だ?」
     言わなくたってわかる。見たことがあるのだから。 
     それは、リオの幼少の頃の姿だった。
     にこり、それが微笑む。己を写した姿で、にこにこと。
     ぞわりと背筋に怖気が走って、リオは思わずガロの青髪を思いきり掴んでしまう。これは、なんだ。頭の中に警鐘が鳴り響く。
     とて、とて。そうして三歩ほど歩いたところで、それの姿がふっと掻き消えて。目を瞬かせた刹那に、眼前にそれが鮮やかな燐光とともに現れた。
     ピンク色と黄緑の、ちらちらとしたひかり。三角の軌跡。
     ベッドの上、瞬きの間に現れた子どもが、リオにのしかかる。
    「……プロ、メア……?」
     呼吸のような声で呟けば、子どもはうれしそうにまなじりをとろけさせる。子どもがするには不釣り合いな、愛情を溶かして鋳造した笑顔。
    「 あいた かった! 」
     うわんうわんと頭に響く、それは、どうしたって昔聴いていた声のまま。それに思考を奪われていたら、くい、と頭を引き寄せられた。
     ふにゃりと触れ合う、稚いくちびる。プロメアに触れた途端に、燃え盛る炎のエネルギーがくちびるから伝わって、胸の中へと潜り込んで燃焼する。パチパチ、火花が飛び散るような音が聞こえたと思えば、少しだけくちびるが離れて、また隙間なく埋められる。
     抵抗しなければ、そう、思う。
    「ん、ふ……っ」
     なのに、プロメアから与えられる炎があまりにも懐かしくて、動けなかった。うすらと開ける瞼の先に、ずっと慣れ親しんでいたバーニッシュフレアと同じ色の瞳が浮かんでいる。
    「 リオ 」
     夜闇に浮かぶ、慕わしい篝火。どろりと溶けて、なくなってしまいそうな熱さに、バーニッシュであった頃の万能感を思い出した。
     プロメアとシンクロして、思うままに炎を操って。遠くない過去が鮮烈にひらめいていく。
     ぎゅう、髪を掴んでいた指に力がこもる。触れ合うくちびるから緑色の燐光が迸って、ああ、何かを分け与えられている、と察した。
     ようやっとくちづけが終わったときには、どうしようもない熱がリオの身体を駆け巡っていた。プロメアが燃えたいと叫んでいたあの頃のように、蜷局を巻く熱い衝動。くっとくちびるを噛み締めて、プロメアを見る。
    「 むかえ に きたの 」
    「 さび しか った 」
    「 リオ と はなれ て 」
    「 たくさ ん か んがえた 」
     気づけば、プロメアは子どもの姿ではなくなっていた。今現在のリオと全く同じ背丈で、あの頃のライダーズを身にまとっている。瞳だけが異様なほどに生々しく光り、ぼんやりと薄闇にその姿を浮かび上がらせていた。
     微笑む。愛情を蕩かした笑顔。プロメアの傍からぽわりとフレアが発生して、リオの周りをワルツでも踊るように取り囲んだ。
    「 リオ 」
     身動きできない左手をそっと取られる。欠けた薬指の爪を恍惚と眺めたプロメアが、真っ直ぐにリオを見据えた。
    「プロ、メア……」
     咄嗟に、ガロの鼻先を強くつまんだ。ぎり、と爪が刺さるほどの強さで。
    「イッテェ!?」
     飛び起きたガロに、少しだけ安心した。ああ、こいつが寝起きがよくて助かる。人命救助と消防に命を賭けるこの男は、身体がいつだって出動できるようになっているから。
     ガバッと勢いよく上体を起こしたガロが、リオを見る。そしてリオの顎を持ち上げんと手を伸ばしていたプロメアも視界に入れて、けれどリオの左手をはっきりした力でつかんだ。
    「俺のリオに何しやがる」
     引き寄せられて抱き込まれる。ガロのおおきな身体にすっぽりと包まれているリオを見て、プロメアはフレアをほわほわと増やした。むう、とむくれる顔は、子どものそれ。
    「 かえ して 」
     プロメアの瞳が、燃えるような光り方をする。さわさわと髪が膨れ上がって、くちびるが尖る。
    「リオ、なんだ、あれ」
    「たぶんプロメアだ。僕の姿形をしているけれど、あの炎は確かにプロメアのものだった」
    「なんであんな姿をしてる」
    「それは知らない。プロメアは僕を迎えに来たと言っていた」
    「ハァ!? で、今はなんか言ってんのか」
    「……返して、と」
     小声で、素早く言葉を連ねれば、ガロはきっと視線をプロメアの方に向けた。
    「 リオ かえして なん で とる の 」
    「……今もそう言ってんのか」
    「あぁ。……もしかして、ガロには聴こえないのか?」
     首肯が返ってくる。くちびるが動くことしか分からない、そう応えたガロはリオをきつく抱きしめた。
    「プロメア、つったか。お前にゃリオは渡せねえ」
     ぽう、ひとつまた、バーニッシュフレアが増えた。紫色の炎が、ガロを威嚇するように飛び交っている。
     それでも、ガロはずっと静かにプロメアを見据えていた。
    「 かえし てよ リオ は 」
     浮かぶ火玉が、ゆらりと動く。
    「プロメア、」
     少しだけ、リオはプロメアへと左手を伸ばした。
     目を剥くガロを少しだけ微笑むことでいなして、ぐうっと腕を伸ばしてプロメアの髪をそっと撫でた。
    「リオ」
    「大丈夫だ、ガロ」
     だいじょうぶだから、と柔らかに告げると僅かに拘束がよわまる。それでも見上げた先、夜の向こうのガロはへの字に口を曲げているものだから少しだけまた笑ってしまった。
    「プロメア」
    「 リ オ ?」
     プロメアを撫でるリオの手は、まるで空気を掻いているかのように浮つく。それでも炎の熱量が伝わってくるから、そこに確かに「存在している」のだと分かった。
     空気を、熱を、そのおぼろな輪郭をなぞる。きっと上がっていた眉尻が、徐々に下がって、威嚇のためであろう燐光がひとつまたひとつと夜に溶けた。
     ぽわ、最後の炎が現実を舐めるように揺らめいて、リオの側へとやってくる。それもまた撫でてやれば、ぐわりとした熱量が弾けるみたいにリオの中へなだれ込んだ。
    「……っ」
     息を呑む。プロメアの炎はひとを焼く。なのに、熱さだけを感じるのはきっと、プロメアが焼いた端から再生させているからだ。
    「プロメア、逢いに来てくれたんだな」
    「 そ う 」
    「地球は遠かったろう」
    「 うん 」
     ふわ、とプロメアが擦り寄ってくる。その態度はまるで慣れてきた猫のようで、リオはまたふわふわとプロメアを撫でた。
     その間も、ガロは一向にリオを離そうとはしない。リオを閉じ込めたまま、リオがプロメアと戯れるさまを見ているらしい。
    「なあガロ」
    「絶対にここから出さねぇ」
     見上げて名を呼べば、何もかも察したらしいガロに先手を打たれる。残念だ、と素直に思った。
     プロメアの声は、いつも子どものそれによく似ていた。子どもが母を求めて泣くように、いつも「燃えたい」と叫んでいたのだ。だから、バーニッシュはみなプロメアに応えたいと望んでいた。クレイはそれを「プロメアに操られている」と表現したが、リオは少し違うと思う。これは、需要と供給みたいなお話だ。
     リオが男の腕の中から出ることが叶わないことを察したらしいプロメアは、そろりそろりと近づいて、リオの腕に頭を擦り付けるようにする。
    「 あの ね 」
    「ああ」
    「 ちきゅ う とおかっ た 」
    「そうだな。プロメアは、それでも逢いに来てくれたんだな」
    「 そう リオ スキ だ から 」
    「そうか、うれしいな」
     プロメアがへにゃりと笑う。薄ら寒さを覚える愛にまみれたそれではなく、子どもが母に褒められたような笑顔だった。
     初めてプロメアを見た時に感じた怖気はもう、ない。
    「 リオ こない ?」
     ぱち、目が合う。きらきらと光る瞳が、期待に揺れる。
    「 ダイスキ リオ また あそんで ?」
    「 こんど は こっち で いっしょ に 」
    「 リオ と もえたい あそび たい 」
     どんどんと、言葉の連合が確かなものになっていく。プロメアの学習能力とは凄まじい。
     でも、行けない。リオを止める腕がある限り。
    「それは、だめなんだ。すまない」
    「 なん で  ?」
    「大切なものが、たくさんできたんだ。だから行けない」
     そう紡げば、ガロの腕に一際力が篭ったのを感じた。そうだ、おまえが今一等大切だ。おまえが僕を手放さないなら、僕もおまえを手放さない。
     だって、捕まえるようでいて縋るようなこの腕を、置いては行けないくらいには、リオはガロに惚れている。
    「 つれて いけない ?」
    「そうだな。プロメアがいくらすごくても、僕の大切なものは本当にたくさんあるからね。この街も、人も、今ここにいるこいつも、大切だから」
     プロメアが、きゅうと眉間に皺を寄せた。涙の代わりに蝋燭に点るような小さな火がまなじりからこぼれる。
    「 やだ やだ 」
     ほろ、ほろ、涙のような灯火が落ちる。けれど布団に着く前に霧散して、この場の空気だけがほの熱くなっていく。
    「 ボクたち リオ だけ 」
     リオだけ、と、壊れたレコードみたいに繰り返される。ぎゅう、とプロメアを撫でていた手が彼らの両手に掴まれて、熱さが直に皮膚を焼く。
    「ッリオ」
     じゅう、と音が聞こえたのだろう。ガロが焦って声を上げた。
    「平気さ。君は、このままこうしているといい」
    「……ほんとにいいんだな?」
    「ああ。構わない」
     炎は僕らの一部だった。今更怖がることもない。それも、子どもならなおのこと。
    「 ぜんぶ もえたら きてくれる ?」
     プロメアの瞳が鈍く光った。リオの手を捕らえる、実体のない両の腕が燃え盛る。それでも。
    「いいや。全部燃えても行けない」
     いよいよプロメアが悲痛な表情を浮かべる。人間の意志とシンクロするプロメアだから、きっと感情も学習できてしまったのだろう。それははたして悲劇か喜劇か。
    「 もえても こない ?」
    「そうだ」
    「 リオ ちきゅう まち もやしたがっ てた 」
    「昔はそうだった。でも、今はもう僕に燃やす力はないし、例え力があってももう、燃やさなくてもいいと思ってる」
    「 リオ つら かった のに ?」
     不思議な色合いの瞳がこちらを見る。もうそこに、彼らの涙はない。
    「 リオ ないてた ずっと ないてた 」
     プロメアは、多分誰よりも近くでバーニッシュを見ていた。
    「 みんな みんな つらい くるしい もえたい いってた 」
     だから、リオの言葉が理解できないのだろうということも、察することができた。
    「 たいせつ たいせつ ? つらい のに たいせつ?」
    「 ボクたち もえてた みんなと もえてた 」
    「 もやすの たのし かった なのに なぜ ?」
    「 リオ たのしかった よね ?」
     うわんうわん、反響する声。呼応する、己の中の熱。プロメアから分け与えられた炎が、燃えろ、燃えろとじりじりと腹の奥を蝕んでいく。
     衝動性の焦熱の最中、リオは細く息を吐き出した。その吐息すら熱っぽく感じられて、プロメアが淡紅色に頬を染めた。
    「 あつい もえたい ? もえて もえて 」
    「 また ボクたち と もやそ う 」
     恍惚と微笑む、生ける炎。この熱さを、燃やすことで得る快感を、リオは知っている。燃やさなくては生きていけない、その苛烈な衝動を。
     どろりと脳が溶けるような感覚。リオに触れる炎の手が、指先から三角の燐光を生み出す。それを、眺めて、見つめて、そして。
    「――リオ」
     ばちり、と目が覚めた。
     ぱ、とプロメアは振りほどかれた自身の両手を見て、きょとりとする。
    「リオ、」
    「……ガロ、か」
     男の、たった一声が、リオの脳を支配した子どもの声をかき消していく。
    「どんな話してたかは知らねェが、惑わされんな」
     はしりとつかまれる、リオの手首。ガロがリオの手のひらの方を確認すると、プロメアが触れていたそこは、すっかり赤くなっていた。
    「……ありがとう。少し、我を失っていた」
     ガロに詫びれば、神妙な顔での頷きが返ってくる。きっとガロが殆どを無言で過ごしているのは、自分が出る幕ではないことが分かっているからなのだろう。
     ふう、と息をつく。熱は消えないが、こころは冷静だ。
    「プロメア」
     リオの呼びかけに、炎はぱちぱちと目を瞬かせた。
    「確かに、辛いことがたくさんあった。傷ついた仲間が消える様も、力に蹂躙されて色々なものが崩れる様も、山ほど見てきた。そこには確かに、辛さも苦しさも悔しさも存在していた。それは認める。君たちが感じたように、バーニッシュは苦しんでいた」
     差別によって傷つき命を摩耗していった仲間たち。思い出せない顔はない。
    「それに、君たちプロメアのくれる炎を使い、衝動に身を任せることも……多分、快かったのだと思う。それは否定しない。燃やさなくてはという衝動は、ある種僕たちの原動力でもあったんだ」
     目を丸くしながら、プロメアは黙りこくっている。学習途中の彼らには難しかったのかもしれない。けれど、リオは言葉を連ねた。
    「それでも、君たちには酷かもしれないが、それはもう、僕たちにとって過去なんだ。街は、世界は、進み始めている。僕たちも、明日に向かって歩いている。その道程で大事なものも増えたんだ。プロメアには感謝をしているけれど、君たちのところへは行けない。僕は、ここが好きだから」
    「 つら かったの に ?」
    「そういう気持ちも、持って前に進めるのが人間なんだ」
    「 リオ もう もやさな い ?」
    「うん。そうだ」
    「   」
     ノイズのような音。リオの言葉に、ふるふるとプロメアが震える。
    「……ガロ、いいか?」
     手を離してくれ、そう訴える。ガロは、片眉を上げつつも了承し、リオの腹を抱き抱えるような体勢へと変えた。これでリオの両手は自由になる。
     ベッドの上でちらちらとした光を浮かべるプロメアを、両手で抱き寄せるようにぐうっと引きつける。そのまま片手で頭の部分を押さえるようにして、リオはプロメアにくちづけた。
    「!? リ、リオ!?」
    「 ! 」
     くっつけあうくちびるのあわいに、ふうっと息を吹き込む。人工呼吸のそれのように、体内で巡る熱を、少しずつ、呼吸に合わせてプロメアへと還してゆく。これは、この熱は、僕が持っていていいものじゃない。
     僅かにくちびるを離して、またくちづけて。そうしてぐるぐると腹辺りで蟠っていた熱を全て口移しでプロメアに還したリオは、そっとくちづけを解く。ふ、と呼気を吐き出せば、その空気がわずかに緑に瞬いた。
    「 リオ ?」
    「僕は、もう、普通の人間なんだ」
     ごめんね、そう付け加えてリオはぽん、とプロメアの頭を撫でる。
    「でも、たまに遊びに来るなら歓迎するよ。バーニッシュのみんなも、きっと君たちに会いたいだろう」
    「 あそ ぶ ?」
    「まあ、地球のものは燃やしてはいけないけれど。それが守れるなら、僕が恋しいなら、またおいで」
     きっとプロメアには酷な願いだ。彼らの燃焼本能は凄まじかった。ガロとリオとで完全燃焼させたものの、いつまた燃えたい気持ちが暴走するかは検討がつかない。
     だから、突き放した言い方が、「もう来るな」と突っぱねることが、正解なのだと思う。けれど、プロメアに散々絆されているリオには、そう言うのが精一杯だ。
     だって、彼らのことを好ましく思っていなければ、彼らの願いをあんなに必死で、自分たちと折り合いをつけながら叶えようとはならなかったのだから。
     プロメアは、あわあわ、と視線を泳がせて、リオを見て、それからガロを見た。
     そうして、フレアをぷかぷか浮かばせて、こくり、と彼らは確かに頷いてみせた。
    「 がまん がんば る 」
    「そうか。偉いな」
     にこりと微笑めば、誇らしげにプロメアも笑った。
     満足したのか、徐々にプロメアの四肢が空気に解けていく。三角の蛍火がちらちらと舞って、リオの周りをくるくる泳いだ。
    「 でも あきら めな いよ 」
    「 リオ くるまで さそいに くる 」
    「 それで ちきゅ うも みる 」
    「 リオ の たいせつ みてみ たい 」
     笑顔のまま、ゆっくりとその顔が溶けていく。きゃはは、と高く笑い声が聞こえてそのまま、泳ぐフレアがリオの左の薬指に少しだけ触れた。熱は一瞬で、すぐに消えてしまう。
     完全にプロメアが消えた部屋には、しんとした静寂が落ちた。ぱちり、とひとつ瞬きをして、深呼吸。
    「……そうかぁ」
     なんだか、どうしようもない約束をしてしまった気がする。そんな感慨がほとりとリオの胸に落っこちる。
    「……終わったかァ?」
     よっと、という掛け声とともに、リオを自分と向かい合うように体勢をうつしたガロが言う。ガロは極東の島国に伝わるらしい、あぐら、とやらをかいて、リオはその上に乗っているような形だ。
    「……どうだろう。終わったかもしれないし終わってないかもしれない」
    「なんだそりゃ」
    「一旦は納得してくれたみたいなんだが、また来るらしい」
    「それぜってーリオが『僕が恋しいならおいで』なんて言ったからじゃねェか。プロメアは、リオが好きだからわざわざ宇宙からこっちまで来たんだろ、そんなこたァ言われちゃまた来るに決まってる」
     はあ、と溜め息をつかれて少しむっとする。
    「……仕方ないじゃないか、プロメアがいなくなって、身体の半分がなくなったような喪失感がずっとあったんだ」
    「だからキスしたってことか?」
    「あれは、彼らの炎を移されたから還しただけだ!」
    「へぇへぇそうですか」
     口を曲げている男が、気のない返事をするものだから、リオは、そいつの顎をつかんで思いきりよくくちびるをかさねた。
     炎を吹き込む行為ではなく、くちびるをかるく開いて、ガロをそれを舐める。そうして上唇にかみついて、そっと離して。それは正しく、恋人同士のたわむれである。
    「機嫌を直せ、ガロ・ティモス。僕が愛しているのはおまえなんだから」
     きっと、プロメアがやってきても、僕はおまえを、この世界を選ぶのだから。
     そう笑ってやれば、我慢ならないと抱き込まれる。
     そうしてお返しのように熱烈にくちびるを奪われて、腰を強く引き寄せられて。男ががっつく様にリオはくつくつと笑って、細めた目で朝焼けに炙られる街を眺める。その朝焼けの色彩は、奇しくも炎が残していった、ピンクの残光によく似ている。その色を網膜に焼き付けるように目を閉じて、リオは好いた男の髪をくしゃりとかき混ぜたのだった。
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