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    人間になりたかった悪魔の話

    #書きかけ添削無し
    noWrittenCorrections

    人間になりたかった悪魔の話   悪魔と呼ばれた子ども


    「悪魔の子を逃がすな! 殺せ!」
    「そっちに逃げたわ! はやく捕まえるのよ!」
     怒号が木の葉を貫いて、空に響き渡る。
     悪魔を殺してやると息巻いた大人たちから逃げるようにひたすら走り続ける。
     僕は人間になりたかった。

     落ち葉の溜まった地面を踏みしめると、混じった枯れ木が折れた。その音は、フクロウの微かな鳴き声と、微かに風が木々を揺する音しか聞こえない森に響く。
    「あっちに逃げたぞ!」
     一人の男の荒々しい声が、静寂を乱すように反響し、それを聞きつけたフクロウは木から飛び立った。僕は身を隠す余裕もなく足を動かし、肩の辺りまである背の高い雑草をかき分けながら必死に逃げている。
    (僕は何もしていないのに!)
     悲鳴は誰にも聞きいれてもらえない。
     銀の髪は月の光を反射して僕の居場所をバラしてしまう。森にさえ僕の味方は居ない。
     銀の髪がなんだというのか。
     赤い目がなんだというのか。
     僕は決して母を殺してはいないし、人に殴られるのが嫌で、少し突き飛ばしただけだった。
     転んで膝を擦りむき、血を流した己の子を見た彼の母親は僕を指して叫ぶのだ。
    「悪魔の子!」と。
     周りの子どもが許されることでも、僕は決して許されない。
     日を浴びることも、友と駆け回ってはしゃぐことも、親と手を繋いで笑い合うことも。
     ただひっそりと、誰にも迷惑をかけずに一人きりで生きることも。
     だから僕は、人間になりたかった。
    「っ、あ」
     走るうち、森の最深部に辿り着く。大きな老木が目の前に現れ、根に足をひっかけた僕は、頭から勢いよく転倒する。
     草で切れた皮膚からは血が微かに滲んで、手のひらも膝も擦り切れて血まみれだった。
    「やっと追い詰めたぞ」
     そうやって下卑た笑みを浮かべる彼らは傷一つもない。
     僕は、僕が世を語るにはあまりにも幼いことを知っている。だけど、この状況が如何様な理由を述べたところで理不尽でしかないことは、火を見るより明らかなのだ。
     後ずさり、農具を振り上げる彼らを見る。
     ああ、僕はもう死んでしまうのだ。
     どうしようもない悲しみと、漠然とした寂しさと、言い表せないほどの怒りがあった。
    「死ね! 悪魔め!」
     そう言った男は僕を殺すだろう。僕は、誰も殺していない。
     はたして悪魔は誰だったのだろうか。
     地に伏せた僕は、ゆっくりと目を閉じる。
    (次に生まれるなら、どうか、にんげんに……)
     反転する意識のなか、あかい、あかい、炎が、みえたきが、した。


       赤い男


    「ッ」
     跳ね起きた振動でベッドが悲鳴をあげる。僕は浅く息を繰り返す。お腹が引きつって呼吸は落ち着かない。胸を叩いて視線を忙しなく動かす。カビの匂いがする、古めかしい木製の床に、白い塗装の禿げた同じ木材の壁。家具はほとんどない。僕が眠っているベッド、青銅のランタンが置かれたサイドテーブル、五段のオープンシェルフと、その三段目に小さな置き鏡。鏡に映る僕は、包帯まみれだった。
     ゾッとする。僕は、そう、人が怖くて、僕を罵る人達から逃げて、森に入って……順序だてて思い出すも、その後の記憶がない。恐ろしいものに襲われた気がする。
     思い出すと、全身の傷がじくじくと痛みだして、たまらずに泣いてしまった。

     外に意識を戻した時、この部屋に一つしかない扉の向こうから、規則的に床の軋む音が聞こえた。僕に存在を知らしめるようにそれは近づいて、ぴたりと扉の前で止む。――足音だ。
    (殺される!)
     咄嗟に僕は全身を丸めて布団を被った。恐怖で歯が鳴って、己に縋る指先は冷えきって痙攣する。
     三回のノックが響いた。僕はその向こうには恐ろしい怪物がいるのだと思って、黙っている。
     蝶番の軋む音がして、再び足音は僕に近づく。よりいっそう近い場所で足音が止み、何かの気配が僕の傍で息を潜めているのを知った。ついに僕は声を漏らし、すすり泣く。
    「起きているならでてきなさい」男の声がした。
     合唱で言う、バリトンパートを歌っていそうな、低い声だ。静かで、厳かで、恐ろしくない声だった。
     マットレスと布団の隙間から、息を潜めて外を伺う。僕を見下ろしている男は、僕と同じ銀の髪をしていて、鋭くて赤い目をしている。服は赤と黒の奇抜な格好で、町にいた人達の誰にも合致しない格好だ。赤い皮のケープに小手、どこもかしこもベルトまみれで、胸元にはこれまた赤いブローチ。
    「泣いているのですか」
     男は問いかけたあと、数歩だけ離れて静かに僕の様子を伺う。僕は相変わらず硬直した身体を解くことが出来ず、男を見つめる。
    「私が、恐ろしい?」喋らない僕に、男はやや俯いて目を伏せた。罪悪感が湧いて咄嗟に布団を放り投げた。つんのめりながら首を振る。口をはくはくと動かせど、声は出ない。男はささやかに驚いてから「そう」と零した。
     僕が投げてしまって、ベッドから半分ほど垂れた布団を拾う。僕の涙が染みていることに気づいたのか、ぴくりと眉が動いた。怒られるかと身構えるも、僕を咎めることはなかった。
    「階段を降りた先の左の扉がダイニングルームですので、朝食はそこに用意してあります」
     男は布団を三つ折りにして小脇に抱えてから言った。わざわざ朝食が用意されていることに、男の目的が知れず、困惑する。怯えるには何か違う。
     僕のことなんか気にしないで、男は部屋から出ていった。毛布は持ち去られて、肌寒い。手を擦り合わせながらベッドから降りる。傍には靴底が擦り切れた、泥まみれの僕の靴がある。地面を歩いているのと変わらないその靴に足を押し込んで、部屋を出た。
     ダイニングルームは僕が寝ていた部屋よりも生活感があった。 スカスカの食器棚に、隣接したキッチン。人並み使用されているのか、程よく汚れている。ダイニングテーブルは黒っぽい木で出来ていて、一脚の椅子の前には食事が置かれていた。
     大人用の椅子に座るのは慣れてないから、よじ登る形で着席する。自分の体重を支えるために伸ばした腕が、じくじくとした痛みで痺れた。
     並べられた皿の上には分厚いビスケットが十枚乗せられていて、傍らの木製のボウルにはスープが入っている。匂いからしてコンソメスープで、何種類かの豆が沈んでいる。
     なんだか犬の餌みたいだと思った。それでも立ちのぼる湯気を見て、前よりはマシだと思いながら木製のスプーンを手に取る。
     暖かいスープは身体の内側をも温めるのだと知って、僕は生まれて初めて感動した。今まで食べていた湿気ったパンなんか目じゃないくらい美味しかった 。ボウルの縁に口をつけ、ゆっくりと傾ける。行儀が悪いと怒る人は誰もいない。
     飲み干して、空になったボウルを見て、寂しくなる。僕は次にビスケットを手を伸ばす。
    「あ、ぁ、ぐ……ン」
     このビスケットを噛み切るのにずいぶん時間がかかった。厚みの通り固くて、干からびたパンみたいだった。味も別に美味しくなくて、口の水分が無くなってしまう。スープを先に飲み干したのは間違いだったのだ。
     三つ目のビスケットを飲み下した時、ダイニングルームの扉が開いた。
     さきほどの赤い男が、僕の目の前に立つ。僕は持ち上げた四つ目のビスケットを皿において、縮こまる。
    「……食べていても構いませんが」
     男が怪訝な顔をする。僕はビスケットに手をつけない。聞きたいことはいくらでもあった。
    「……僕を、助けてくれた、の?」怖々と言った。
    「ええ、そうなります」男は頷いた。
    「ここはどこ?」
     再び尋ねると、男はキッチンの横にある勝手口の扉を開いて、僕に指先を動かしてみせる。椅子から半ば落ちるように降りて、男の隣に立ち、外を見る。大きい木があってあたりはひらけている。地面には草など微塵も生えていない。まるで焼けた跡のようだった。
    「ここは『罪の森』の最深部。お前が死にかけていたので連れてきました」
     『罪の森』とは、悪魔が住み着いていると専らの噂で、立ち入れば二度と出てくる人はいない、別名帰らずの森とも言われる場所だ。その最深部に、人間が住めるものだろうか?
     改めて男を観察する。銀髪に赤い目。服装も奇抜で、よく見れば腰のベルトには薬品らしき瓶やナイフが何本か下がっている。僕が散々と罵られた、悪魔と形容される姿をしている。
     考えつくのはひとつだった。
    「まるで悪魔を見たような顔ですね」
     涼しい顔をして男は言った。僕を見透かしたのが恐ろしくなって、思わず後ずさる。本当に彼は悪魔で、僕は食べられてしまうのだ、なんて妄想でいっぱいになって、体が震える。
    「……お前も私を恐れるか」
     そんな僕を見て、男の鋭く赤い目が揺れた。僕は息を飲んでそのありさまを見る。眉がうっすら下がって、男も沈黙する。
     僕は悪魔じゃない。銀髪と赤目が悪魔の証明になるはずもない。もしかして、彼も故郷を追われたのか。
     僕は僕の嫌う人達と同じになってしまったことが恥ずかしくて、地面に視線を落とす。
    「ごめんなさい」
    「……いいえ、慣れていますから」
     何も言えず、そのまま固まっていたら、男は僕の使った食器を片付ける為に、再びダイニングルームへと向かう。
    「帰らないのですか」
     片付けが終わっても立ちすくんだ僕に、男は腕を組んで壁に寄りかかりながら言った。
     帰る、と言葉を反芻して気づく。僕に帰る場所なんてない。僕を育ててくれていたオヤジの元に戻れば、きっともう、オヤジにも被害が出るだろう。
    「……お前は、どこから?」
    「×××って、町……」思い出すのも忌々しい町の名を答える。
    「ここから北ですね。送っていきましょうか」
     男が近づいてきて、僕の腕を掴む。
    「嫌だ!」悲鳴をあげて咄嗟に両手を突っ張って男を突き飛ばした。と、思ったのに、男は岩を叩いたみたいにビクともしなかった。当たり前だ、子どもと大人じゃかないっこない。
     それでも、男は察したのか僕の腕を離してくれた。
    「ご、ごめんなさい。でも、僕、帰れない……帰ったら、こ、殺される!」
     大袈裟に言った自覚はあった。
    「帰る場所がないのなら孤児院を知っていますが」
     孤児院と聞いて浮かぶのは前にいたスクールのクラスメイトだ。僕を見つけると意気揚々と近づいてきて、髪をつかみ、突き飛ばして、口汚く罵ってくる。それは男子だけには留まらない。
     孤児院となれば同い年に限らない。きっと十を超えた人間が何人もいる。彼らが僕を殺さないなんて誰が言える? そうやってまごついて、僕が孤児院にさえ嫌な顔をすると、男は何も言わずに勝手口の扉を閉めた。
    「名前は」男はなんの感情もない顔をして尋ねる。
    「び、くたー……」途切れ途切れに答えると次は「ファミリーネーム」と投げやりに言う。
    「グランツ、です……」
     スクールに入ったばかりのころ、クラスメートの視線に晒されて声も出せない僕に、事務的に名を問う先生と似ていた。
    「ここに置いても構いませんが、条件があります。一つ、スクールに通うこと。二つ、その名を名乗ること。三つ、ここで暮らしていることを公言しないこと」
     男が立てた三つの指を眺め、ゆっくりと頷く。
    「部屋は先程の部屋を使いなさい」
     そう言って男が出ていこうとするから、僕は慌てて彼を引き止める。
    「まって!」
    「何」
    「ど、どこいく、の?」
     男がこのまま帰ってこない気がした。そうだ、僕のようなやつ、そばに置いておくなんてどうかしている。きっと置き去りにするんだ。そう考えると、僕は途端に目の前の男が憎くなった。
     ありったけ眉間に力を入れて、男を睨んだ。じんわりと目頭が熱くなる。閉じた口の中で奥歯がかちかちと鳴った。
    「仕事が二件あります。夕方には帰ります」
     聞こえたと同時に、頭に僅かな重みを感じた。それが男の手だと気づいたのは、出ていってしまった時だった。
     この家には男しか住んでいないのだろう。残された部屋には何の物音もしない。
     僕は床に座り込んで、彼の名前を聞きそびれたことを思い出しながら自分の髪をさする。



     夕方ごろ、ドアベルの音がした。
     与えられた部屋のベッドから降りて、階段を降りる。玄関には男が立っていて、ものの詰まった麻袋を抱えている。
    「お、おかえりなさい」
     階段の中腹あたりで男と目が合った。男は赤くてトゲのついた凶悪そうなマスクの下で、変な顔をして、黙って麻袋を僕に差し出した。そろりと近づいて麻袋を受け取る。麻袋は僕の両腕にずっしりと乗っかる。
     麻袋にはイモやニンジン、何種類かのナッツなんかが入っていた。
    「風呂へ行きます」
     男はフラフラと歩いて、ガラス戸の奥に消えていく。僕は抱えた麻袋をキッチンに持って行って、戸棚の前に座り込む。
     戸棚を開けると、缶詰やあの硬いビスケットが詰まった箱が入っていた。食材らしい食材は無い。戸棚の奥の方にはスープ缶が並んでいて、ひとつは僕が食べたのと同じだ。これじゃあどこに食材を仕舞えばいいかわからない。
     麻袋をひっくり返すと、野菜、ナッツ、香辛料、パンがごろごろと落ちる。種別ごとに分けて、シンクの横に並べておく。よくよく見ると、立てかけてあるまな板は使われた形跡がないし、包丁は刃先がわずかに錆びている。料理はしないようだ。自分が作れる料理を挙げて、ろくなもんがないと首を振った。だいいちキッチンには踏み台がない。あの男の身長に合わせられたキッチンじゃ、シンクの中を覗くのも精一杯だ。
     分けている最中、パンの包装が緩み、その隙間から甘い匂いがした。人工甘味料とは違う、バターの匂いだ。昔に食べたことがある、オヤジが買ってきてくれたパンと同じ匂いだった。
     オヤジには、もう二度と会えないだろう。僕を拾って育ててくれた『父』は、今頃なにをしているだろう。心配してくれているだろうか。そんな姿は思い浮かばなかった。

     風呂から上がった男は首にタオルをかけ、未だ湿っている髪をそのままに、キッチンで料理を始める。錆びた包丁を忘れようと奮闘しながら僕は椅子に座ってチラチラと様子を伺う。男はたまに僕を見て、再び手元に視線を移す。
     この家には一人分の家具しかない。ただ一脚の椅子は僕が座っている。
     男は出来上がった料理を僕の前に置いて言った。
    「スクールの手配はお前の怪我が治ってからします。服や日用品は明日用意します。必要なものがあれば都度申告すること」
     料理は一人分だった。
    「……何か?」
     料理に手をつけず男を見つめていると、視線に気づいた男は首を傾げる。
    「ごはん……食べないの?」
    「……外で、食べました」目を逸らした。
     それが嘘であることはわかった。持って帰ってきた食材を見るに、あれも一人分だ。居候が居ては、いつもの量で足りないのも当然だった。
    「ごめん、なさい……」
     肩を落とす。僕はどこへ行っても邪魔者なのだ。
    「……ビクター・グランツ」名を呼ばれる。
     顔を上げると、男は僕の傍に立ち、そっと僕の髪を撫でた。
    「気にしないでいい。私がお前を育てます。それは私が決めたことで、お前に責はありません」
     その手つきに、僕は何も重ねることはできない。撫でられるのは、初めての、ことだった。


       先生

     朝を迎える。分厚いカーテンを開けると、強い光が僕を射抜いた。目が慣れるまでぎゅっと瞑っていると、僕を起こしに来た男が僕を見て不可解そうにしていた。
    「怪我はどうですか」
     包帯を解くと、赤い痕がいくつも覗いた。それらは掠ったような傷から……打撲痕に、火傷跡。見るだけで顔が歪んだ。痛むのは何も外傷だけではない。
    「痛みますか」
     僕は首を振る。目に見える怪我の痛みは、なんてことない。
    「火傷はともかく、打撲痕はまだ消えるのに時間がかかりますか……まあ、動けるならいいのです。手伝いなさい」
     男は傷薬を塗って包帯を丁寧に巻き直すと、僕を立たせて外へ連れ出される。
     久しぶりに見た空は青く、いくらかの雲が散らばっている。辺りを見回すと、いくつもの箱が大木の周りの更地に置かれているのが見えた。その箱の横には白い服を着た人と、髭の濃い、黒い服を着た男がいる。白い服の人は、男……僕を拾った男、赤い男を見ると手を挙げてひらひらと振っていた。
    「顔を合わせるのは久しぶりだね、イソップ? 昨日の報酬といい、今回は子ども服といい……どういう風の吹き回しかな」
     白い人が喋る。声を聞くに男だ。穏やかで聞き心地のいい声なのに、どこか威圧感のある声だった。僕は好きじゃない。赤い男の声の方が好きだ。
    「あんま威嚇してやんなよイライ。そこのガキンチョ見えてないのか?」
     黒い服の男が言う。こっちは軽薄な感じで、怖さはない。が、関わりたくない。
    「見えているとも、カヴィンさん。私は怒っていないよ」白い服の男は笑った。
    「ただね、何かあったらすぐに相談してくれてもいいじゃない。キミだけの問題じゃない。子どもを育てるにしたってね? 万年独身のキミに育児ができるのかな、と思うじゃないか」
    「頼んだものはありますか」赤い男は言う。
     白い男が肩を竦めると、箱を指さして言った。
    「二人で運ぶのは大変だったんだよ」
     腕を組んで男は拗ねたようにそっぽを向く。よくよく見れば、顔の上半分は金で出来た目隠しをしていて、青い宝石が嵌められていた。白地に金の装飾は、太陽の光を弾いている。
     神様みたいな人だと思った。
    「火傷していた男は? 子どもといえ、あの体躯なら力仕事は出来るでしょう」
     赤い男は白い男のことなど気にせず、箱の中身を確認している。内輪の話は僕にはわからないし、どうすればいいかわからず赤い男の後ろに隠れていると、黒い男が僕の前に屈んで話しかけてきた。
    「よー坊主。お前、アイツの世話になんだろ? よく似てるなあ」
     快活に笑って、男は僕の頭を掴むように撫でる。そのまま、髪を引っ張られると思って身を引くと、話し終えた赤い男が黒い男を軽く押した。たまらず僕は赤い男の腰に抱きついて、頭を隠す。守って、くれた?
    「怒んなよ。悪かった! ちょっと痛かったな。にしてもそうしてると本当の親子みたいだ」
    (親子……)
     黒い男の言葉を聞いて、心臓を擽られた気分になる。もし僕の真っ当な父が居たら、こんな風に守ってくれたかな。
    「ああ、挨拶がまだだったよね」
     白い男が手を叩き、黒い男を押しのける。ぶつくさと文句を言う黒い男を無視して中腰になり、青い宝石で僕を覗き込んだ。
    「私はイライ・クラークです。キミの通うことになるスクールの教師だよ。こっちはカヴィン・アユソ。彼も教師だから、よろしくね」
    「よろしくな」
     赤い男の背から覗いて、頷いた。
    「さて、歓談したいところだけど……私たちにも手続きがあるからね」
    「ありがとうございます。クラーク。代わりに依頼を増やしてくれて構いません」
    「考えておくよ。それから……イソップ、あまり抱え込まないように」
    「“考えておきます”」
     イライと名乗った男が、腕を胸に当てて綺麗にお辞儀する。カヴィンと言う男と二人で、帰っていく。いくつもの荷物と僕たちは残される。
    「……家に運びますよ」
     僕は頷いて、箱を持ち上げる。まあまあな重量を腰で支えて振り返ると、僕は初めて赤い男の家の全貌を見た。
     相当な時代もののボロ小屋だった。お化け屋敷みたいで、入るのがはばかられるほどだ。思わず眉が痙攣した。扉の隅には苔が生えているし、雨で削れた屋根は角が丸くなっている。一体何年前からここにある家なのか。
     いつまで経っても動かない僕に、赤い男は箱を三つも持って振り返り「早く来なさい」と声をかける。
     僕は慌てて追いかけて、男の隣に並んで家へ戻った。あんな景観を見たら、軋む床に冷や汗をかくのも仕方の無いことだ。



     ダイニングにはテーブルが一つ、椅子が二脚設置された。それから、僕の部屋には衣装箪笥と勉強用の机と椅子が用意されている。イライさんとカヴィンさんが置いていった箱を全て運び終える頃には日が暮れていた。
     残ったひとつの箱を開けると、そこには綺麗に畳まれた衣服が詰まっている。底の方には、僕が履いてるものよりもずいぶんとしっかりした同じデザインの靴が二足おさまっていた。足の横に並べると、サイズは問題ないように思えた。
    (寝てる間に測ったのかな)
     靴先をなぞると、自然と頬が緩んだ。
    「今日着るぶん以外は箪笥にしまいなさい」
     言われたとおり、僕は真新しい木の匂いがする箪笥を開いて、服を詰め込む。服はどれも僕が持っていたものよりも丈夫で清潔だ。
    「風呂場はこっちにあります。湯は……沸かさないといけないので、入る時は言いなさい」
     風呂場には浴槽と桶があって、桶の中には使いかけの石鹸が転がっている。僕は自分が数日の間、風呂に入ってないことを思い出した。
    「……せっかくなら今入ってしまいましょうか」
     僕の身なりを見て、男はそう言った。錆びた蛇口を捻ると、ガタガタと揺れながら水を噴出する。それが浴槽に溜まっていくのを見ていると、自分の姿が映った。忌々しい顔が間抜けにこちらを覗いている。
     男が浴槽いっぱいの水を沸かし終えると、僕に服を脱ぐように言った。従えば、全身の包帯やガーゼを剥がされる。真っ裸で立っているのが恥ずかしくて、顔が熱くなった。
     そうやってもじもじしていると、男も服を脱ぎ始めた。他人の裸なんて見たことない僕は、慌てて目を逸らす。ゴトッとか、ガチャガチャ、とか、僕の知る衣服と違う音が止むと、男が僕を抱き上げた。
     驚いて声を上げた。驚いたのか配慮なのか、男はぴたりと動くのをやめる。つまり、僕を抱き上げた状態だ。脇に通された手が何だか擽ったい。
    「……はいりますよ」
     男がそう言うと、ゆっくりと湯船に体が沈められる。まるで赤子のようで嫌だったけれど、傷口が痛んで口を結ぶ。僕を浴槽に入れると、男も隣に入ってきた。水がやや溢れて、浴槽の外側を濡らす。
     少し熱いけれど、我慢できないほどではなかった。そうして耐えていると、じんわりと身体の芯に熱が溜まって、眠くなる。ウトウトと船を漕いでいると、身体を揺すられて、起こされた。
     僕は眠らないように男に気を向ける。男は足を畳んで入っていて、いくらかの生傷が伺える。髪が肩にかかるくらいには長い。細いように見えて、筋肉はうんとあった。
    「なんですか」
     じろじろと彼を見ていたら、気づいたらしい。男は畳んだ体をより丸めて僕を睨んだ。全裸で睨まれてもな、と思って、僕は笑う。
    「……その、名前。なんて、よん、よんだら……?」
     僕は意を決して聞いた。
    「イソップ・カール。です。好きに呼んで」
     視線を外しながら男が言った。この人はよく目をそらす。僕も人の目は苦手だから、不満に思うことは無い。
     名を提示されるも、なんと呼ぶのが正解なのかわからず空気を噛む。それから、小さく彼のファミリーネームを呼べば、彼は静かに返事をした。本当はカヴィンさんの言葉のように、父と称してみたかったけれど、勇気がない。
     ちゃぷちゃぷと水面を揺らして遊ぶ。もう少しだけ湯船に浸かっていたかったけれど、男……カール、さん。が、それを許さなかった。僕を軽々引っ張りあげて、浴槽の外に立たせる。カールさんは石鹸を捏ねて、僕の痩せっぽちの身体を撫でる。打撲痕はともかく、切り傷や擦り傷にはとんでもなく染みて、僕は悲鳴をあげた。カールさんはそれでもやめない。
    「い、い、たい、いたいよ、か、カールさん!」
    「我慢しなさい」ぴしゃりと切り捨てられて僕は歯を食いしばって耐えざるをえない。
     どこをどのようにされたのか覚えないけれど、気づけば僕は浴槽に腰掛けたカールさんの膝に乗って、足の先まで洗われていた。残り湯を体全体にかけ終わったあと、カールさんは再び石鹸をとる。泡立てたあとに僕の頭に触れる。
     髪を分けて僕の頭に手の指を立てると、ゆっくりと擦った。痛くはなかったが、少し擽ったくて身をよじる。
    「痛いですか」
    「ううん」
     かすかに息を吐く音がしてからカールさんは僕の頭を洗った。襟足から、耳の後ろまで。僕はたまらない気持ちになって、目を細める。
     頭の先からつま先までをすっかり綺麗にして、僕とカールさんはタオルで身体を包む。カールさんの身体を丸々隠せるバスタオルは、僕が纏うと結構な面積を引きずった。
     身体の水分を大まかに拭って、バスタオルを二つ折りにしてから頭に被せる。カールさんが僕より先に着替えてどこかへ行く。僕は寂しいから、さっさと服を着てしまって、カールさんを追いかける。
     ダイニングルームにイソップさんは居た。正確にはキッチンの上の戸棚を漁っている。戸棚の中から小さくて青いクッキー缶を取り出すと、それを僕に手渡す。僕はカールさんの顔を見て、四回ほど瞬いた。
    「食べなさい。痛かったでしょう、から」
     カールさんは僕にクッキー缶を押し付けて、深々とダイニングテーブルに備わった古い方の椅子に腰を下ろした。
     倣って僕は着席し、浮ついた気分でクッキー缶の蓋に手をかける。一度、二度と蓋を捻る。開かない。カールさんを見ると、頬杖をついたカールさんが僕を眺めているところに珍しく視線が合う。
    「カールさん、開けて……」
     差し出された手にクッキー缶を載せれば、ポンと勢いのいい音が響く。容易く開けられた缶を覗き込むと、小さなバタークッキーが詰まっていた。
     ひとつを口に入れると、想像通りの味がした。嗜好品を食べた回数は片手で数えられるくらいだった僕は、咀嚼するのすら勿体ない気がする。歯を立てると、容易く割れたクッキーが口の中に散らばって、いっぱいに甘いのが広がる。あっという間に飲み込んで、クッキー缶を見下ろす。やはり一気に食べてしまうのは勿体ない。毎日、いや毎週一粒ずつ食べるくらいがいい。
    「気に入りませんでしたか」
     カールさんは依然、頬杖をしたまま僕を見つめている。
    「ち、ちがう。美味しいけど……食べ切るの、勿体なくて」
    「……そんなに気に入ったならまた貰っ……買ってきますよ」
    「本当」
    「ええ。だから、食べてしまいなさい」
     僕は必死に頷いて、二つ目を口に運ぶ。やっぱり美味しい。美味しいものを食べた時は頬が落ちると言うけれど、その実僕の頬はつり上がるばかりだった。
     いくらかのクッキーをつまみ上げた時、僕はカールさんを見た。いつまで経っても僕から目を逸らしていないカールさんは、イカついマスクをつけたまま。
     たぶん、もう数秒すればまたぶっきらぼうに「なんですか」なんて言うに違いない。その前に僕は摘んだクッキーをカールさんに向けて差し出した。
    「……なんですか」結局言われてしまった。
    「どう、ぞ。美味しい、から」
     間をもって、カールさんはクッキーを受け取る。器用に片手でマスクを外すと、不健康そうな薄い唇が見えた。僕みたいに一口で、ではなく、ネズミみたいに隅っこを齧る。途端、目を見開いて口を抑えた。たぶん、美味しかったんだと思う。かじり掛けのクッキーを全て口に含んでから、僕がにやついてることに気づいたカールさんは、マスクと同じくらい赤くなってしまった。
    「おい、しいです、ね……」
     咳払いをしてからマスクを付け直す姿が可愛い。そういえば、この人は何歳なのだろう。僕はこの人のことを何も知らない。いつか知れるといい。そして、知って貰えたらと思う。その上で、一緒に居れたら……夢物語でなければいい。


       スクールメイト

     カールさんが良しとする程度に怪我が治る時には一週間が経っていた。僕はスクールバッグとして与えられたショルダーバッグを肩からさげて、イライさんに手を引かれて森の中を歩いている。イライさんは相変わらず神様みたいな格好をしていて、死にに行く気分だ。
    「スクールは一週間に五回あります。迎えは私か、スクールの者が来るからね。朝六時には起きて、ご飯を食べておくんだよ。それからこの森に住んでることは言ったらダメだからね」
     説明を受けながら歩いていく。緊張で足取りが重い。今朝もカールさんが僕の背中を押すまで一歩だって踏み出せなかった。
    ――気持ち悪い! 悪魔め!――
     木の葉が擦れる音に混じってそんな幻聴まで聞こえてくる。恐怖はまだ染み付いたままだった。もしまたいじめられたらどうしよう。でも、かよわせてくれるのだから、上手くやらないと……。
    「大丈夫。スクールと言っても小規模なものでね。孤児院付属のスクールなんだ。孤児院の子たちや、普通のスクールに通えない子しかいない。もしよければ、孤児院にだって来ていいんだよ」
    「……ケッコウです」
    「はっはっはっ、受け答えがイソップくんに似てるね。すばらしい悪影響だ」
     のし、とイライさんの手が僕の頭に乗る。叩く目的じゃないにしろ、やっぱり苦手だった。

    「ここがスクールだよ。孤児院も敷地内にある。あっちは運動場だよ。狭いし少ないけど遊具もある」
     そびえる建物は、一見して教会のようだった。というより、教会だった。ネームプレートには『赤の教会』と書かれていて、名の下には『創始者エミリー・ダイアー』と書かれている。入ってすぐは礼拝堂で、ステンドグラスから降り注ぐ光を浴びるのは女神像だ。僕は女神を崇拝する人達に酷い目に遭わされているので、いい気はしない。
     イライさんは礼拝堂から繋がる教室の一つへ僕を連れていく。道中ではカヴィンさんを含む何人かの大人が僕をじろじろと見てくるから、逃げてしまいたかった。
     ある扉の前で、イライさんは三回ノックをする。扉を開く時間がやけにスローで、心臓が張り裂けてしまいそうだった。鼓動の音が自分の耳にさえ聞こえて、冷や汗が伝う。
    「みなさん、おはようございます。今日は前々から話していた新しいクラスメイトを紹介しましょうね」
     イライさんの手が僕の背をぽんと押す。肩を縮こまらせて、恐る恐る顔を上げる。叫ばなかったことを褒めて欲しかった。部屋には僕より幼い人もいれば、大人と変わらないような人もいる。そして彼らは全員、僕を見ている!
    (あ、無理、だ)
    「おい」
     僕の身体は重量に従って地に伏せて、気絶した。
     目を覚ました時、僕は真っ白い部屋にいた。いわゆる、保健室だ。身体を起こすと、そばに居た背の高いシスターが僕を覗き込んで微笑んだ。
    「目が覚めたのですね。緊張からくる貧血ですが、頭はぶつけていませんか?」
     頷くと、シスターは頷いて用紙に何か記入をする。失態を思い出して赤面した。ああ、今ごろ教室では僕の悪評が広まってるに違いない。
    「今クラーク先生を呼ぶので、まだ横になっていても大丈夫ですよ」
     内線で一言二言交わすと、デスクに向かって書類を触り出す。窓の外をみると、同年代くらいの人達が走り回っていた。
    「失礼します」
     丁寧な動作でイライさんが入ってくる。僕は怒られると思ってシーツを握った。
    「アン先生。ありがとうございました」
    「いいえ、構いませんよ」
     アン、と呼ばれたシスターと会話を終えると、イライさんは僕のいるベットにの肩を撫でる。怒られる気配はなさそうで、少しだけ力が抜けた。
    「大丈夫かい?」
    「……ごめん、なさい」
    「いいんだよ。私も配慮が無かったね」
     やっぱり僕がスクールに通うなんて、無理なんじゃないか。落ち込んでいく気分は治まらず、僕を苛む。カールさんは、なんて言うだろう。
    「しつれいします」
     ノックの音が響いて、扉が開く。強制的に思考が遮断されて、顔を上げる。扉から覗いているのは、限りなく白に近いクリーム色の髪が顔半分にかかった、気の弱そうな少年だった。
    「クレスさん、どうかされましたか?」
    「ルカが、ころんで……膝をすりむいたから、ばんそうこう……」
     歯切れ悪く喋る男の後ろから、もう一人、茶色の髪を高い位置で結んだ、いかにもやかましそうな少年が現れる。
    「血はでていないけどね!」
     茶髪の男がケラケラと笑って入室した。釣られて気の弱そうな少年が入ってきて、目が合った。
    「あ、おまえ……さっきの」
    「うーん? ああ。新しいクラスメイトの!」
     怪我をしているはずの少年はイライさんの隣に乗り上げて、手を差し出す。気の弱そうな少年はイライさんにお辞儀をしてから、僕を見る。
    「私は、ルカ・バルサー! よろしくね」
    「ぼ、ぼくはアンドルー・クレスだ……あの、身体、だいじょぶなのか?」
     言葉に詰まって、しどろもどろに声を上げる。名前を、名乗らなきゃいけない。それから、よろしく、と言う。差し出された手は、あ、握手。
     順序だててこなそうとすれば、より混乱して声が出なくなった。
    「彼はビクター・グランツくん、だよ。大勢の人と話すのは慣れてなくて、びっくりしちゃったんだって」
     助けてくれたのはイライさんだ。
    「へー、そうなの」
    「わかる、ぼくも、苦手だ……」
     アンドルーさん、と、ルカさん。脳内で反芻する。呼べるか分からないが、覚えておかないといけない。
    「グランツくんは慣れてないから、先輩として仲良くしてあげてね」
    「はあい」
    「せん、ぱい……!」
     アンドルーさんはどことなく嬉しそうだった。
    「では私がここを案内してあげよう! えーと、だれだっけ?」
     あざとく首を傾げたルカさんに、アンドルーさんは呆れて「び、ビクターだよ、ばか」と言う。ルカさんがああ! と声を上げて、僕の手を強引に掴んだ。
    「行こう!」
    「え、あ、うん」
    「いやだったら、いやって言えよ……」
     僕の前にはルカさんがいて、右隣にはアンドルーさんがいる。リンチするためじゃなくて、案内するため。捕まれた手はちっとも痛くない。

    「ここは教室。あっちから一組、二組、三組。一組はだいたい五歳から十歳、二組は十から十四、三組は十五から十八歳くらい。キミが見たのは全員だけどね」
     歩きながら扉を指し示す先を確認する。三人で肩を並べて歩く中、何人かとすれ違う。大体がルカさんが相手をしてくれて、僕は会釈するだけで済んだ。
    「ぼくたちは一組だ。としで分けられてるけど、べんきょうをがんばれば別の組になれるし、できなかったら……うん」
     アンドルーさんがそこまで言うと、あっと声をあげたルカさんが僕に問う。
    「ビクターは何組か聞いてるかい?」
     全く聞かされた覚えがない。いや、たぶん、ホームルームで聞かされるはずだったのだろう。それを僕が気絶したから……。
    「えっ、と……や、聞いてない」
     首を振ると、続けざま歳を聞かれる。
    「……八」と答えると、アンドルーさんが嬉しそうに「じゃあ、いっしょだな!」と言った。
     喜んでいるアンドルーさんに、僕もなんだか嬉しくなって、笑ってみた。

    「では今日は加法、減法、乗法、除法を混ぜた計算式を解いてみましょう」
     白いチョークが黒板を叩く音が教室に響く。書かれた数式は前のスクールの教科書に載っていた気がする。
    「ではアンドルーさん、12+5×8=の答えは?」
     白くて長い髪を編んだすらりと背の高い先生が、丸いメガネを指先でくいっとあげてアンドルーさんを指名した。
    「は、はい! えっと……よんじゅう……52です。せんせい」
     アンドルーさんが精一杯答えると、先生は笑って「正解です」と軽く手を叩く。アンドルーさんは頬を染めて着席する。
    「ちゃんと乗法を優先しましたね。では次です……」
     再び黒板に数式が刻まれると、クラスを一望した先生と目が合う。どきり、として視線が揺れた。
    「20÷4+(26-9)=? そうですね……ではビクターさん」
    「ッ……と、22、です」
    「はい、正解です。括弧がある場合は先にそちらを計算しましょう」
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