Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    cue(久屋商会)

    身内だけのカラオケみたいな感覚でやってます( ゚Д゚)< リアクションアリガトウゴザイマス

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    cue(久屋商会)

    ☆quiet follow

    黒鷲おたおめ~!誕生日を祝われる社畜の話を書きました。
    ※プレイヤーの外見は本家動画より

    #シャイニングニキ
    shiningNikki.

    シャイニキ黒鷲/変わりゆくもの、変わらないもの雑踏にひっそりと咲く花のような、地味だが小綺麗な服に身を包んだ女性だった。華奢な縁無し眼鏡越しに、怯えたような水色の瞳が私を見上げる。少し震えた声で彼女は尋ねてきた。
    「すみません、お仕事中でしょうか」
    「そうだが」
    「少しだけ、よろしいですか」
    「仕事中だ」
    「……少しだけでいいので」
    「…………」
    紅葉した街路樹を見上げる。ラダンの高層ビル街の中でも目を引く、燃えるような赤。カエデの葉が一枚、風に吹かれて落ちてきた。
    「綺麗ですよね。肌寒さから少し寂しい気持ちになるけれど。わたし、秋が一番好き」
    言葉の端々から水彩画のように滲み出る色香。まるで公衆の面前で「人肌恋しい」と言われているようだった。
    たかが落ち葉だろうと思っていたが、あまりにきらきらした目で地面を見つめるのが気になり、かがんで落ち葉を拾い上げた。かさついて少し欠けた葉に物悲しさを感じる。まじまじと見ることもなかったが、確かに悪くない。
    「カエデをモチーフとした秋物スカートも良いかもしれません」
    「デザインにご興味が?」
    仕事柄、とだけ答える。
    「ご自分でデザインなさるんですか?すごいですね。でしたら、絵とか興味ないですか?この近くで有名デザイナーの版画展やってるんですけど。今から一緒に見に行きませんか?ほら、芸術の秋ですし」
    それまで言葉を選ぶように話していたのが一変、水を得た魚のように話し始めた。

    「それで、一時間遅刻したのか?このクッッッソ忙しいハロウィン直前に?」
    マーキュリー財団が経営する大型ショッピングモール。ハロウィンという絶好の商機を逃すまいと、財団本社の社員たちも朝から準備に駆り出されていた。モール内はオレンジやパープルを基調とした華やかな飾り付けがされ、専門店街の店員たちも揃いの黒猫のカチューシャをつけている。
    「偵察だ」
    「だったら10分で切り上げろよ」
    同業者に騙されかけるなんて、お前も焼きが回ったな、と同僚は溜息をついた。
    「こちとら騙す側だろ」
    「亡者横丁の路地裏でくすぶっているような連中と一緒にするな。ただの白黒コピーのくせに、シルクスクリーン版画の水墨画だの何だのと。我々マーキュリー財団は崇高な意識を持った組織だ。先日の第2四半期報告会でもボスは」
    「さっきと言ってたこと違くないか?あーもう、今日は定時で上がって飲みに行くんだろ?ハゲタカくんの楽しい誕生日パーティーだ!サプライズ用意してるから期待してろよ~?」
    同僚は手に持っていたカボチャ頭の帽子を機嫌よさそうに黒鷲の頭に被せ、歯を見せて笑った。

    翌日。平日だというのに結局同僚たちと明け方近くまで飲み、二日酔いのまま出社。午後2時の会議での頭痛は最高潮だった。
    日中の外回りでたっぷり承認欲求を満たされ、ご機嫌な同僚が乾杯の音頭を取る声がまだ頭に鳴り響いている。あいつはいいよな。イケメンだからショッピングモールで働くパートの主婦やアルバイトの学生たちにもモテモテで。私も一度ぐらい「社員さん~」ともてはやされてみたい。
    一次会では居酒屋でありがちなミニケーキとフルーツの盛り合わせにスパークリングキャンドルが添えられたものがデザートに出された。白いプレートにはチョコレートで「Happy Birthday 黒わしさん」と書かれている。画数が多いので仕方ないが、「黒ひげ危機一髪」のような字面に脱力感を覚える。おそらく「黒」まで描いて心折れたのだろう。
    男ばかりの誕生日パーティー。むさ苦しい男たちが狭い個室にひしめき合い、だみ声でバースデーソングを合唱し、所狭しと並べられた女子力の高い料理を頬張りながらハイボールをジョッキで浴びるように飲んでいる。
    「このグラタンすげー美味いな!アイツに食わせたら喜びそう」
    「ケーキの味も悪くなかったな。あー、再来月の誕生日だったらベリー系に変えてもらうか?」
    同僚たちの彼女への誕生日サプライズの練習台と化しつつあるのはどうにかしてほしい。

    眠気から集中力も続かない。いつの間にか定時も過ぎ、今日は諦めて帰るかと思っていると、端末の着信音が鳴り響いた。メッセージ1件。差出人は……
    「あの女だと……?」
    今までさんざん苦汁を舐めさせられてきた、薄桃色の髪の少女。当然、個別のメッセージ交換などする関係ではない。まして、仕事用の端末になど。
    ――大事な話があるの。今すぐ来て
    それ以外には何も書かれていない。呼び出された場所は、本社からそれほど遠くない繁華街のカフェバー。大通りに面していて人通りも少なくないが、何かの罠である可能性も大いにある。
    「……念には念を入れるべきだ」
    マーキュリー財団のスパイたるもの、いついかなる時も慎重かつ大胆に行動しなければ。起動中のパソコンから稟議申請を行うと、数分で承認のインジケータが点灯した。社内の隠し武器庫から拳銃を一丁借り、足早に本社を出た。
    「ここは……」
    指定された場所は本当に普通のカフェバーだった。ただし窓はブラインドが下ろされ、中を覗くことはできない。ドア前に掛けられた黒板には「本日パーティーのため貸切」と書かれている。


    「アイツ、本当に来るの?」
    「うーん、大丈夫だと思うけど」
    お腹空いたし、もう始めちゃおうよと大皿の肉料理に前足を伸ばすモモ。ニキはモモのつまみ食いを止め、小皿に食材の余りで作ったミニサンドイッチを取り分けた。「やったー!ニキ大好き!」と嬉しそうな声を上げ、モモはサンドイッチにぱくついた。
    「ニキ、もう少しだけ待ってみよう。もしかしたら仕事で遅くなってるのかも」
    「そうね、もうちょっとだけ……」
    「お前たち、何をしている?」
    「黒鷲?!」
    ニキたちの背後には、本日のメインゲストが怪訝そうな表情で立っていた。
    「お前、どこから入ってきたのさ!折角サプライズパーティーをしようって皆で企画してたのに!」
    「あんな怪しい入口、正面から入るわけがないだろう」
    カフェの裏口からだと答える黒鷲。「あなたらしいね」と紺色の髪の少女が苦笑いした。
    「メインゲストも来てくれたことだし、そろそろ始めない?」

    「ハッピーバースデー!黒鷲!!」
    クラッカーが鳴り、大音量で軽快な音楽が流される。テーブルには手作りと思しき料理が並んでいる。ニキに勧められ、カボチャの絵が描かれたアイシングクッキーを一口。
    「私の端末にどうやってメールを送ったんだ」
    「ノエルにハッキングしてもらったの。詳しい方法はよく分からないけど」
    「アイが作ってくれた恋愛ゲーム内でのハッキングに比べれば楽勝」と快諾してくれたのだとニキは言った。曰く「InTimeのアカウントからメールアドレスを抜いただけ」らしい。パスワードクラッキングじゃないのか。だとしても、InTimeの紐づけに仕事用のメールアドレスなど使っていない。となれば、そいつのハッキングで他のアカウントも芋づる式に筒抜けになってしまったのではないか。だが、クレジットカード会社からカードを悪用されたなどといった連絡はまだ来ていない。ということは……
    「お前たちも単に宴会したかっただけなのか?」
    「卑屈だぞ黒鷲!ボクたちの誠意をちゃんと受け取れ!」
    黄色い頭巾をかぶった猫は肩に乗っかり、髪を引っ張り始めた。
    「痛い痛いいたいっ!それ以上私の髪を引っ張るな!頭頂部は貴重な植毛だぞ!……ぐはっ、猫のくせにどうしてそんなに重いんだ!」
    「うるさい!お前が謝るまで降りないからな!」
    「どうして私が謝る必要があるんだ!」
    暴れる二人の前に、紺色の髪の少女がおずおずと歩み寄ってきた。昨日遭遇した絵画販売詐欺の女のように一見物静かだが、些か童顔で無邪気な印象を受けた。
    「黒鷲、あの時はありがとう。楽しかったよ」
    花火大会の遊覧船のチケットをくれたお礼だとその少女は言った。そういえば、そんなこともあったなと思い出す。
    「おみくじの結果、どうなったの?」
    「君には関係ないだろう」
    あの場でおみくじを引いたとInTimeには一言も書かなかったというのに。ニキたちにバレても構わないのだろうか。
    黄色い頭巾のデブ猫によってめちゃくちゃにされた髪を手櫛で撫で、箱を受け取る。
    「早く開けてみてよ」
    促され、包みを開ける。
    「えっ、あなたもシャンプーセットにしたの?」
    「あなたもって、ニキも?」
    ほかの皆からもプレゼントを預かってきたと言うニキは、部屋の隅に行くと両手に紙袋を持って戻ってきた。
    「風義堂、ERI、未来領域……全部ヘアケアアイテムじゃないか」
    (終)


    10月25日の誕生花:カエデの花言葉
    「大切な思い出」「美しい変化」「遠慮」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works