リアルを愛して(あ、いた…!)
学園内の図書室にてペンを走らせる【彼】の姿を見つけてゆっくりと近づく。隣か正面か迷って正面に音を立てないように座る。真剣な表情がよく見えて思わず見入ってしまう。
「ひだまりの……かみ……」
「ん?」
ふと、マティスくんの顔が上げられ私と視線が交錯する。
「……せ、セレス、さん…?」
「うん、こんにちはマティスくん」
「こ、こんにちは……」
へへ、と照れ笑うマティスくんの笑顔が可愛くてきゅう、と胸が締め付けられるようだった。
「執筆作業は順調?」
「う、うん…でも、まだ…キリがよくないから…」
「キリがよくなったら読ませてくれますか?」
「う、うん…というか、僕から…お願いしたい、です」
「はい!私はマティスくんの物語の大ファンなのですごく嬉しいですす!」
「へへ……僕もセレスさんに読んでもらうの、嬉しいです…」
「マティスくん、何か手伝えることはありますか?」
「すいません…今は、特には」
「じゃあ、何か読んでますので何かあったら呼んでくださいね」
「は、はい…」
そうやって話を切り上げると鞄を席に置くと読みたい本を探し出す。マティスくんのことを男の子として意識し始めてからというもの…恋の詩だったり、恋愛物語に、以前は興味なかったようなものに興味を示していて…気になった一つの文庫本を手に取ると席に戻ってページを捲った。その小説は…以前クラスの子にオススメされたものでありその物語の主人公の恋の相手がどうもマティスくんに似ていて重なってしまう。目の前のマティスくんの様子を盗み見ながらもページを捲る。
優しい男の子。
引っ込み思案で。
でも笑顔が可愛くて。
彼と一緒にいると優しい気持ちになれて。
何気ない、平凡な変わり映えしない毎日が彼といるだけで光り輝いて見えるのだからーー。
気がつくと空が赤くなり始めていて私とマティスくんは急いで荷物を纏めて学校から出た。
「そんなに面白かったですか?」
「え?」
「読んでいた本です。セレスさん、すごく楽しそうで…目を輝かせていたから…」
「ああ…ふふ、そうですね。主人公の恋の相手がマティスんにどことなく似ていて…つい」
「僕に、ですか?」
「はい。とても優しくて、可愛くて、笑顔が素敵な男の子。特別な障害があるような物語ではないんですが…そんな小さな、平和な恋のお話が、とても素敵に思えて…」
「……」
そう話しているとむっとマティスくんは唇を尖らせすねたような顔をする。
「マティスくん?」
「…僕みたいだからそんな顔をするんだったら…僕でいいじゃないですか。」
面白くないと言ったような響きに胸がときめいて止まない。
「わ、笑わないでくださいよ!」
「ふふ、だってマティスくんがあまりにも可愛くて…」
「〜〜っ、もうこうなったらーー…!」
顔を赤くしてあたふたしたと思ったら軽く唇を押し当てられる。
「……ーーこれでも、僕のこと…可愛いって言える?」
そう言われてしまえば顔を赤くするのは今度は私で。
「あははっ、セレスさんってば可愛い!」
「ま、マティスくん!」
加減された力でマティスくんに手を握られる。恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになりながらもそっと手を握り返すのだったーー。
-Fin-