猫の悪戯 にゃあ。
「あら…?」
【死神】と呼ばれる自分に近づく動物…ましてや、子猫が近づき足に巻きつくように擦り寄ってくるとは思わずセレスは身を竦めた。
「ちょっと…あなた、怖くはないの」
にゃあ?と子猫は首を傾げ、それに息を吐いたセレスはしゃがみ込んだ。
「…こんなに間近に猫を見たのはいつぶりかしら」
はじめてかもしれない、と頬を緩めていると子猫は早く撫でろというようにセレスの手のひらに頬を擦り寄せた。
「かっ……かわいい……」
動物との触れ合いに飢えていたセレスは傷つけないようにと細心の注意を払いながらそっと撫でる。それだけで甘えたような声を上げる子猫が愛おしくてたまらなかった。
「あなたってなんでこんなに可愛いんでしょうね」
にゃあ?
「ふふ、そうよね、分からないわよね」
くすくすと笑っているとしゃがみ込んでいたセレスの顔に影が差す。
「こんなとこで何をやっているんだ、お前は」
「しっ…シアンさん!?な、なんでここに…」
「なんでって…まだここ研究区だぞ。俺としてはなぜお前がまだ残っているのかが不思議でたまらないのだがな?」
「す、すみません…」
思わず萎縮してしまうセレスの近くに子猫がいるのを見つけシアンもセレスと同じようにしゃがみ込む。
「研究区に野良猫とは珍しいな」
「そうなんですか?」
「ああ。研究施設があるこの区域は薬品のにおいが染み付いているからな、動物たちは好き好んで来るなど稀だ。むしろーー…庶民区の方がいるんじゃないか?」
「それは…まあ、そうですね。でもこんなに懐いてくれるのははじめてなので…いつもは、逃げられてしまうので」
「…そうか」
シアンは隣で子猫に対してふにゃふにゃの笑顔を向けるセレスはじっと見つめる。こんなに間抜けに笑うセレスを見てそれを引き出したのは自分でないことに少々苛立ちつつも思わず笑みを浮かべた。
しかし、それも最初だけでーー。
あれからしばらく経っても子猫と戯れあってばかりのセレスに深くシアンはため息を吐いた。そして、セレス。と滅多に呼ばない名前を呼ぶ。呼ばれて、嬉しさと驚きの混じった表情で顔を上げるとそのままセレスはシアンに噛み付くようにキスをされる。
「っっっ……?!」
セレスの手から子猫はするりとすり抜け、シアンにやれやれ…と言った顔をさせつつどこかへ行ってしまい…。
「お前が悪い」
そんな一言に顔を真っ赤にして口をパクパクさせるしかなく、満足したシアンによってもう一度唇を塞がれてしまうのだったーー。
-Fin-