Kiss 「キスして欲しい場所があるなら特別にしてやってもいい。――どこがいい?」
顎を上げるように掴まれ、指先でザフォラは唇をなぞりながらそう言った。
「へっ…えっ……あだっ…!?」
動揺しすぎて壁に頭を打ち付けてしまい頭を押さえる。
「く…、くくっ……お前って本当ムードや色気ってものに無縁だな」
くっくっと笑いだすザフォラに腹が立って頬を膨らませる。ぷい、とそっぽを向けば笑い声は止み近づいた気配がした。気になってザフォラの方を見れば海色の瞳がじっと私のことを見ていた。
「こっち見たか。気が済んだか?」
「気が済んだ、って…」
「恥ずかしがって事故るお前もそれはそれで面白くて飽きないが…そろそろ慣れてもいい頃合いじゃないか?」
「な、慣れないよ!だ、誰かと付き合う…とか、そういうのザフォラがはじめてだし…慣れる自分が想像できないっていうか…」
もごもごと言う私にふっとザフォラは笑うと顎を掴み無理矢理また私の顔を上げた。
「だったら否が応でも慣れてもらうしかないな」
「えっ…えっ…!?」
気づいた時には視界はぐるりと回転し、私はザフォラによって押し倒されていた。こういう時は他の皆に比べると華奢に見えるザフォラだって男の人なのだと実感する。
「お前、失礼なこと考えてないか?」
「そ、そんなことないよ!?」
「…まあ、いいか。」
顔が近づきぎゅっと目を閉じると額に温かなものが触れ、ぱちぱちと瞬きを繰り返した後目を開く。
「時間はたっぷりとあるんだ。ほら、ティファリア。どこにしてほしい?」
こういう時、とびきり優しいザフォラはそう言って普段見せないような笑顔を私に向けた。だから、そんな笑顔に溶かされ私の虚勢心もなくなってしまい、素直に口に出して言ってしまう。
すると優しく微笑んだザフォラの顔が近づいて――、私とザフォラはとてもとても幸せなキスを交わした。
-Fin-