香りを染めて「こちらを差し上げます」
そう言って唯は掌の上に置かれた小瓶に瞬きを繰り返した。
「これは…香水、ですか?」
「ええ、香ってみてください。」
蓋を開け、匂いを嗅ぐと勢いよく唯は顔を上げ浮葉の顔を見た。
「浮葉さんの香り!」
「…ふふ、ええ。私が気に入ってる香りです、付き合うことになったのですし贈りたいと思って」
「ありがとうございます!す、すごく嬉しいですっ」
興奮気味の唯に浮葉は笑みを返しながらそのまま腕を伸ばし香水に目を奪われている唯を抱きしめた。途端、唯は言葉を飲み込み顔を赤らめたまま浮葉の顔を見た。
「唯さん、これからは…私に会いに来るときはこの香水をつけてきてください。そうやって私色に染まってくれるあなたを待って、そしてこうやって抱きしめたいと…そう、思うのです」
「う、浮葉さんって…意外と、嫉妬深い?」
「おや、知らなかったんですか。私は愛情深くもありますが、それと同時に重くもありますよ。それに耐えきる自信はありますか?」
揶揄うような浮葉の言葉に太陽のように眩しく唯は笑った。
「勿論!」
「ふふ…元気なお返事で」
唯の言葉に嬉しくなり笑みを深めると匂いを確かめるように唇を寄せ唯もそれに応じながら浮葉の背に腕を回した。
***
「あん?」
「うげっ…堂本大我…!」
浮葉の屋敷から出たところで唯、そして浮葉を出迎えたのは大我だった。その顔を見て思わず顔を顰める唯だったがさらに顔を顰めたのは大我の方だった。
「おいおい、お坊ちゃんだと思ってたがお前…」
何か言いたそうにする大我だったがそんな大我にすぐさま立ち去れとでも言うようににっこりと浮葉は微笑む。
「……何か?」
「…いーや、なんでも」
有無を言わさない浮葉の様子にそうやって大我は息を吐き視線を逸らすのだった。
-Fin-