幸運の白と黒の猫 「お姉さん、こっちこっち!」
「ま、待って…!」
はしゃぐように前を行く彼――【村上誉那】くんの背中を追いかける。先日、出会った彼…私よりも年下の彼だがなんだか運命のようなものを感じそれは彼も同じだった。そして彼は学校が終わるといつも地獄やしきに来ては私に会いに来たり家まで贈ってくれたりする。社会人である私としては彼にこんなに心を寄せられることは…そして何より私も同じように寄せてしまっている現状はよくないと思っていた。
「よ、誉那くん…」
「誉那」
「…誉那」
「うん、何、凛」
人懐っこく笑う彼にときめきが止まらない。煩く音を立てる心臓を無視して彼に向き合う。
「話があります」
「話?」
「…私は大人で君は学生でしょう?」
「…まあな」
「それで…あなたは私を好きだった」
「ああ、大好きだ」
「それは私も…君の、誉那のこと好きよ。…特別な意味で」
「じゃあ!」
と、声を上げようとする誉那の唇を自分の人差し指を押し当てた。
「だからこそ…約束をしましょう。」
「約束?」
「誉那が大人になるまでキスもそれ以上もしないこと」
「え!な、なんで!?」
「私が捕まるからよ」
「~~~……でも、でもなあ……、」
そう悔しそうする誉那を見ると哀れなように見えて小さく言葉を紡ぐ。
「まあ…その唇以外なら…それで、外でしないなら…いい、かも」
「本当か!?」
頷くと嬉しそうに笑って私の手を取ってぶんぶん振り回す。そんな犬のように見える誉那の様子に思わず笑ってしまうのだった。
***
「あ!」
大事な話が終わって暫く、ゲームセンターをうろついていた私と誉那。中の景品の一つに夢の中で私が抱いていた黒と白い猫にそっくりのぬいぐるみがあった。
「私、やるわ」
「凛…?」
UFOキャッチャーの景品だった猫のぬいぐるみを狙ってみるが中々難しく、私にしては珍しく散財してしまった。
「と、取れない…」
「仕方ない、俺がやるよ」
そうやって誉那は得意なのか一回目であっさりと取ってしまう。
「ほら、凛にやる」
「ありがとう……タマッ!」
思わず、無意識に自然に口からついて出た言葉のまま私はぬいぐるみを抱きしめる。なんだか、その名前がふさわしい気がして…そのことに誉那は何も言わずただ笑っていた。
その次の朝――、ぬいぐるみとよく似た子猫が私の家の傍に捨てられており私の家族が一匹増えたのはまた別のお話。
-Fin-