鶴月SS 凍てつく小樽の真夜中、偶然かのように兵舎の踊り場で落ち合った二つの影を冷え冷えとした月明かりが伸ばしていた。月島が懐から取り出した文書を受け取り、鶴見はざっと一枚目に目を通すとすぐにコクリと頷いた。身を翻して歩き始めた鶴見のすぐ後ろを月島はついて行く。
「全ては手筈通りか?」
鶴見は前を向いたままヒソヒソ声で口髭を震わす。月島も同じく、辛うじて鶴見の耳に届く声音で話した。
「はい。吉田大尉は酔って電車に轢かれたという知らせが明朝通達されます。この文書の紛失は差し替えた偽文書によってあやふやになることでしょう。隊内で確認したが意味が分からなかったため廃棄した……中央はそんな報告を受けることになるかと」
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