感覚ザーザーザーザー…
最初見た時は、あぁ、ついに起こってしまった…そう思った。驚きはしなかった。別に悲しくないわけじゃない。
ただ、いつかは起こってしまうのではないかと心のどこかで思っていたから。
雨音だけが鼓膜を響いて脳内に伝わってくる。俺の視界は目の前に転がる一つの大きな塊のみを鮮明に写し、後は靄がかかったようにぼやけよく見えなかった。
いつも笑いかけてくれたあの笑顔、自分なんかよりずっと逞しくて大きな身体、そしてよく俺の頭を撫でてくれた温かい手の温もり。それが今は白く濁って焦点の合わない眼、血色感のなくなった青白い肌、肌の色に対比するかのように流れる赤黒い血液と変わり果てていた。
目の前に転がる塊は師匠として自分をここまで育ててくれた、自分が愛してやまない大切な人物の亡骸だったから。
「えっ…うそ、え、…悟飯さん?ねぇ、嘘って言ってよ…ねぇ、悟飯さん、悟飯さん!!!」
そう叫びながら何度彼の体を揺すっても、返事が返ってくるどころか反応一つとして返さない。彼の体を仰向けにした時に自分の膝に乗った腕が、力が入っていないせいかいつもよりもずっと重く感じられた。
「こんなこと絶対嘘だよ……ねぇ、そうでしょ悟飯さん。
置いていかないって、この前約束してくれたじゃん…!」
そして、俺の中を悲しみ後悔、怒りが支配する。
それら全てが入り混じって訳がわからなくなった時、俺の身体を包んでいたのは、これまでこれでもかと望んでいた金色に輝く光だった。
やっと超サイヤ人になれることができたのだ。しかし、こんなにも喜ばしいことなのに、きっかけは大切な人の死である。その事実が受け入れたくなくて、認めたくなくて、自分でも信じられないくらい嫌悪感が湧き上がってくる。
そんな中でも現実とは辛いものを突きつけてくるもので、例え伝説の戦士になれたとしても孫悟飯の死に変わりはないのだ。
異様に冷たくなった彼の身体はとても生きた人間だとは思えなかったけれど、当時の俺はその事実が現実であると受け入れることができなくて、この一連の出来事全てが悪い夢であると信じて疑わなかった。
そこから後のことは今でも覚えていない。
母から聞いた話、俺は動かなくなった悟飯さんを抱えて家に戻り、絶対に回復するから治療をしてほしいと何度も何度も懇願したらしい。勿論、母も悟飯さんがもうこの世にいないことなんて、彼の成れ果てた姿を見れば一瞬でわかった。だが今にも壊れそうな顔をしながら気味が悪いほどに悟飯さんの亡骸に執着している俺の様子を見たらわかったとしか言いようがなかったそうだ。
しかし、貴重な物資を無駄遣いするわけにもいかないので一旦俺を落ち着けるために無理矢理理由をつけて寝かせたんだそう。
翌日になると俺も冷静さを取り戻したので、結果として母の行動は正しい判断ではあったのだけど、けどやっぱり悟飯さんが死んでしまったことは簡単には受け入れられなかった。
悟飯さんを家に運ぶ時に覚えている唯一のことは、ずっと鼻にこびりついて取れない彼の血の匂いだけだった。