あなぐら 1/キラ門 見れば見るほど、どこにでもいるただのジジイだ。そう言ったところで誰も否定はしないだろう。箸を握る手には血管が浮かんでいるし、背中は脂肪がついて丸い。頭頂に畦のように残る黒髪もなんだか間抜けだ。長いこと一人でいてこれだけは上手くなったのよと教えてくれた、アイロンを掛けたはずのシャツの襟元だって、夜になればくたびれている。柔らかそうな腹、筋肉の落ちた手足。くたりと垂れて落ち窪んだ目には鋭さも残っていて、それなりに苦労の多い人生だったのだろうと窺える。そこまで考えて、急に自分が恥ずかしくなり、キラウㇱはまばたきをして視線を逸らした。どんな言葉を並べたってそのジジイに欲情している自分がいるだけだ。歯の噛み合わせが悪いのか、いつも下唇を突き出している。それをキラウㇱは食んでみたい。唇の裏まで味わって、歯列をなぞり、その奥まで。それから、とキラウㇱは考える。もしも自分が冬眠をする動物だったら。もしそうだったらキラウㇱは、門倉を穴蔵の中に招き入れたかった。
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