オールドローズの咲く頃緊急時以外は走るなと厳命されている早乙女研究所の廊下を、ガツガツと叩きつけるような荒い音が響く。
走ってはいない。
誰も追いつけないような速度で所長神隼人が歩いているだけだった。
浅間山の山頂一体をその敷地とする広大な研究所の廊下を誰か探しながら歩いているようで、鋭い眼差しを向ける方向に運悪く立っていた若い所員はたまたま目が合ってしまったようで直立不動の姿勢でその場に固まっている。
「ただでさえ人相悪いんですから、若い連中を脅さないでくださいよ」と軽口を叩けるのはD2部隊隊長の伊賀利くらいのものだが、当の本人は「それくらいの度胸もない奴がこんなところに居られるか」と直す素振りもなかった。
猛烈に忙しい人だから早足気味なのはいつものことで、さすが元二号機乗りと言われることもあるくらいではあったが。
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