雨宿り ぽっかりと空いた穴から糸のような雨が降り続いているのが見えた。
ジャミルはそれを息絶え絶えに眺める。力を使い果たして体を動かすことも億劫だ。
「大丈夫か、カリム」
カリムは、ジャミルと体二つ分ほど離れたところに転がっている。ジャミルよりもその状態は悪く、腹から流れる血は致命傷になりうるほど流れて血溜まりを作っていた。
「おい、返事しろよ」
「……眠っていただけ。大丈夫だ」
「眠るなよ……もうすぐ応援が来るからしっかりしろ。それまで俺と話でもしていよう。いいか?」
「おう」
息を吐くような返事だった。カリムの声は今や微かに聞こえる雨音にすら負けてしまいそうで、それがジャミルの心を忙しなくさせる。
こんな時くらいカリムが喜びそうな楽しい話をしてやろうと思うのに、感情が逆立って大した言葉も出てこない。こいつのことは何でも知っているはずなのに、俺はこんな時に一体、何を言えばいいのだろう。
結局口を尖らせて、心の中にあった恨み節が出る。
「お前、俺のこと庇っただろ」
「……何のことだよ」
「お前が! その怪我を負ったのは! 俺を庇ったせいだろって言ってるんだ!」
何もこんな時まで怒鳴らなくても、と心の中で思うが止まらない。喉が潰れて苦しかったが、叫んででも言ってやりたかった。聞いてるのか、この野郎! と体が動くなら、殴ってやりたいくらいだ。
「……オレよりもお前が最後まで動けた方が、二人とも助かると思ったからだぜ。現にオレたちはまだ生きてる」
ジャミルはカリムの方を見上げた。カリムの笑う声が聞こえた気がしたからだ。
「それにしても、怒られると思ったんだよな〜。やっぱり怒られた」
「……わかってんならやめろ」
口の中がしょっぱく、ネバついてくる。ジャミルはそれが不快で口をモゴモゴと動かした。
「お前……絶対、絶対死ぬなよ。死んだら絶対許さないからな」
「だいじょうぶ」
じゃあこっちを見ろ、と言いたい。いや言ってしまおうか、いつもは煩いくらいに見てくるくせに、どうしてこんな時は錆び付いた天井ばかりに目を向けているのかって。
「俺のこと、……絶対泣かさないって言ったくせに」
「泣かさねえよ」
そういうと、ようやくカリムはジャミルの方を見た。「愛してるよ」と伸ばされた指先は数センチの距離で届かず床に落ちる。
「もう少し近かったら触れたんだけどな」
カリムがいつもするように、柔らかな顔で笑う。それをジャミルは歪んだ視界の中でじっと、じっと見ていた。