傷の手当や、事故後の処理はその日の夜までかかった。フリスクは多少擦り傷を作ってはいたが、トリエルに至っては驚いて尻もちをついただけで全くの無傷。
フリスクは事故後の容態を心配したトリエルによって強制的に翌日一日の安静を命じられていた。
ノックの後10秒待っても返事が無いドアをサンズは薄く開く。さっと目を走らせても部屋の中に特に変わったところはなく、キルトのマットがかけられたベッドの上でうずくまる塊が見えた。
「おーい、ちびっ子?」
声をかけると、フリスクが寝返りを打ってうめくような返事を寄越す。入室の許可を得たことにして、サンズはズカズカと部屋に入り込む。ベッドの隣、フリスクが日頃使っている勉強机に備え付けられた椅子を引いて座った。
パジャマ姿のフリスクは毛布を蹴飛ばし、身一つで縮こまるようにして眠っていた。トリエルを庇った時に出来た左腕と左膝の擦り傷にはガーゼが貼られ、タンコブが出来たという額には保冷剤がくくりつけられていてなかなかにヘンテコなスタイルだ。
あまり良い夢を見れてはいないらしい。眉が寄せられて、苦しげな表情に見えた。
ベッドから落ちた毛布とキルトを拾って肩まで引き上げ、ついでに目にかかる髪の毛を骨の指で撫でるように除けてやる。と、フリスクが薄く目を開いてその手に擦り寄ってきた。珍しいこともあったものだ。
「悪い、起こしたか」
「ん…嫌な夢見た…」
「疲れてるだろ、まだ寝てな」
「また怖い夢みる…手繋いでて、お父さん」
小さな熱い手が骨の指を引き止めて握り込む。縋るような強い力にサンズの胸の内で何かが跳ねた。
毛布を身体に巻きつけるようにしてフリスクは深いため息をつき、しかし次の瞬間にはガバリと勢いをつけて起き上がった。
ぱっと放り捨てるように手が離される。
「…………サンズ?」
「よう」
まだ理解が追いついていないのか、フリスクはサンズの顔をまじまじと見つめて顔を顰めている。切長の目がサンズを上から下まで睨め付け、記憶を辿るように頭に持ち上げられた手が保冷剤に気づいてそれを包帯ごと乱暴にむしり取った。