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    かおる

    @8ruwoka8

    月鯉です

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    かおる

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    月鯉
    空前の🦊ブームに乗っかって、昔の書きかけを供養します。
    ど〇ぎつねパロです。色々とファンタジー。
    書きかけですが最後はハッピーエンドになる予定です。

    出汁まで愛してその日の朝、目覚めた時から月島基にはことごとくツキがなかった。
    無意識にスマホのアラームを止めていたようで、気付いた時には家を出る時間になっていた。急いで髭を剃ろうとしたら、手が滑って剃らなくても良いところまで剃っていた。
    揃いの靴下が見つからず、やっと家を出たら出たでエレベーターがどこかの階で止まっていてなかなか来ない。月島はイライラしながら非常用の階段を駆け下りるはめになった。
    駅までダッシュをキメ、これで始業時刻にはギリギリ間に合うはずだと胸を撫で下ろしたのも束の間、前にいたサラリーマンが改札で何度も引っ掛かる。何とか改札を通過し、ホームに駆け込んだ時には無常にも目の前で電車は駅を出発していった。
    それでも何とか次の電車に乗り込み、息を整えながらぼんやり外を眺める。このままだと少し遅刻だろうか。会社に到着する前から既に家に帰りたかった。
    とりあえず、一緒に外回りをする予定になっていた部下には遅刻の旨を連絡しておこうとスマホを取り出す。
    その時アプリの広告に書かれていた(今日の占い第一位は牡羊座!)という文字が月島の目に飛び込んできた。
    いつもの月島ならそんなもの気にも留めないのだが、この日は何故かその広告をタップしてしまった。あまりにも朝から運がなかったせいで、せめて占いぐらい良い結果を見たいという深層心理が働いたのかもしれない。
    (今日の一位は牡羊座のアナタ!運命の相手との出会いがあるでしょう!ラッキーアイテムはカップ麺!)
    本当にプロの占い師が占ったのかとツッコミたくなるその一文を読んだところで次の駅の到着を知らせるアナウンスが流れ、電車がゆっくり速度を落としてホームに滑り込む準備を始める。
    月島も慌ててスマホをカバンにしまい、下車の準備をする。
    占いなど一ミリも信じない月島だったが、駅から会社までの道のり、この占いの文句はいつまでも頭に焼き付いていた。
    (……まぁ占いの結果に関係なく、さすがにこれ以上悪いことは起こらないだろう)
    そうタカをくくっていた月島だが、しかし会社についてもなお不運は続いていた。
    昼食にコンビニ弁当を買ったら箸が付いていなかった。
    煙草を吸おうとしたらライターのオイルが切れていた。
    コピーを取ったら紙が詰まり、保存する前に作りかけの資料データが消えた。納期を間違えていた後輩のミスにより、電話口で謝り倒すはめになった。
    そんなわけで、仕事を終えて家路に向かう月島はとにかくすこぶる非常に疲れていた。
    夕食もとれていなかったので腹の虫がやかましく鳴るが外食する気力もない。コンビニに寄ることすらも面倒臭く感じ、とりあえず一刻も早く家に帰って休みたいと思った。
    (そういえばダンボールで買いだめしていたカップ麺があったはずだな……晩はあれでも食おう)
    ふと月島は朝に見た占いの結果を思い出した。
    (カップ麺がラッキーアイテム、か……何が一位だ、運命の相手だ、ふざけるなよ)
    たかが占いの結果に一瞬でも一喜一憂してしまった自分が今となっては恥ずかしい。
    家路を急ぐ月島だったが、ある場所の前で不意に足を止めた。そこは狐の像が境内に鎮座している、よくある稲荷神社の前だった。
    月島は別段信心深いわけではない。しかし近所にあるからという理由で以前気まぐれに参拝したところ、次の日に大きな契約が決まったことがあり、それ以来気が向いた時に参拝に訪れていた。
    ここまできたら神頼みでも何でもしてやろう。フラフラと境内に入り、小銭を賽銭箱に投げ入れる。
    (本当に今日は疲れた……もう運命の相手でも何でも良いから誰か今の俺を労って癒やしてくれ)
    しかしこんなくだらないことを神様に願うなんて余程疲れているに違いない、頭を振りながら重い足取りで神社をあとにする月島の後ろ、狐の目が月の光を受けてキラリと煌めいて見えた。



    帰宅した月島は、腹ごしらえのために台所の下の棚から段ボールを取り出した。
    いざという時のためにネットで買いだめしておいたものが役に立つ時が来たようだ。ガムテープをはがし、箱を開けて深い緑色のパッケージをしたカップ麺を一つ取り出す。
    蓋に印刷されている、出汁を吸った薄茶色のお揚げの写真が食欲をそそる。まぁ空腹の今なら何を食べても美味く感じるだろう。
    (そういえばカップ麺久しぶりに食うな……)
    とはいえカップ麺を作る工程なんて、目を瞑っていても出来るようなものだ。鍋に湯を沸かし、蓋を開けたカップの内側の線まで一気に注ぐ。
    箸を咥えながらカップ麺を机まで運び、重石代わりとしてその辺りに散らばっていた雑誌を無造作に蓋に乗せる。
    テレビのスイッチを入れ、内容が全く頭に入らないまま液晶をぼんやり眺めているといつの間にか五分が経過していた。
    雑誌を取ると、ペリペリと緑色の蓋を全てめくり取る。箸を手に取り、さぁ待ちかねた遅い夕食を──と、次の瞬間、ボワンという効果音と白い煙とともに、着物姿の男が月島の目の前に現れたのだった。



    人間、自分の身に想像を超えた出来事が起きると何も反応出来ないものだということを月島はその時初めて知った。
    「……?????」
    突然月島の目の前に現れた男は長い睫毛に切れ長の目と艶のある黒髪、そして褐色の肌をした一言で言うと顔の整った青年であった。
    街中にいたらイケメンがいる!と騒がれること間違いなしの顔貌である。
    しかしそんなことより何より、この男には最も注目すべき点があlった。彼にはふさふさした耳と尻尾が生えていたのである。
    ──月島の体感にしては数分、しかし実際には数秒たらずの間があった後、まず第一に月島の脳裏には(警察に通報しなければ……)という考えが浮かんだ。これはしごく当然のことであろう。
    いつの間に侵入されたのだろうか。耳と尻尾なんてふざけた仮装をしている泥棒なんて聞いたことがない。しかしこの僅かな隙に侵入してきた男のことだ、プロの強盗か逃走中の極悪犯なのかもしれない……
    男を睨みつけながらスマホを手にした月島を見ておもむろに青年が口を開いた。
    「突然驚かせてすまなかったな、月島!物取りなどではないから安心しろ。私は狐の精霊なのだ」
    せい……れい……?
    月島の耳はその言葉の意味が正確に理解出来なかった。
    が、月島の脳が次に別の答えを導き出した。
    「なるほど、これは幻覚だ……」
    「つきしま?」
    「狐男の幻覚が見えるなんて、予想以上に疲労がたまっていたのかもしれない……皆には申し訳ないが明日は有給をとらせてもらって、病院に行くべきか……」
    どこか遠くを見つめながらブツブツと呟きだした月島に、狐耳の青年は少し慌てた様子を見せた。
    「待て待て月島ぁ!私は幻覚や物の怪の類ではないぞ!私は稲荷神社のお狐様に仕える狐の精霊なのだ!名は音之進ち言う!さっき月島は願い事をしただろう?いつも我が神社に参りに来てくれる月島のために、私がそのうどんに入っているお揚げに宿り、お前の願いを叶えにきてやったのだ」
    はぁ?神社?願い事とは……?月島は必死で記憶を再生した。
    「そういえば誰か俺を労ってくれだの癒やしてくれだのと思ったような気がしますね……」
    ここで月島は、正気に戻ったように目の前の狐男……確か音之進と名乗っていたはずだ……をじっと睨みつけた。
    「待ってください、ということは貴方は俺を労いに来てくれたのですか?今の所全く労われても癒やされていないどころか余計に疲れましたけど?精霊ってお化けじゃないですか?」
    矢継ぎ早の質問にも、音之進は全く動じる様子がなかった。
    「まぁ落ち着け月島!精霊はお化けとは違うぞ、失礼な……それよりもお前はまだ癒しを得ておらんのか?おかしいな、大抵の者は美しいものを目にしたり愛らしい動物を見るだけで癒やされると思っていたのだが……」
    何やら考え込んでいる青年の耳がリアルにピクピクと動いているのを見て、月島は考えるのをやめた。もし何かのドッキリや嘘であったとしても、ここまで精巧に作りこまれているのだ。その手間を評価してやっても良いのかもしれない。
    「あのね、突然見も知らぬ男が目の前に現れたら驚きはすれど癒されはしないでしょう……しかも美しいものってアンタ男だし、愛らしい部分も耳と尻尾だけだし……」
    「むうっ!耳と尻尾だけでも十分ではないか!この顔面だって人間の中にいたら美しいと言われるであろう!まぁ良い、ところで月島、とりあえずその目の前のうどんを食べてはどうだ?」
    狐の精霊とやらにもそれぞれ個性があるのかは分からなかったが、少なくともこの狐は何かと騒がしいタイプらしい。
    音之進に言われ、そういえばまだカップ麺に手をつけていなかったことに気付く。あまりにも突然の出来事に忘れかけていた空腹がじわじわと戻ってくる。
    「そうですね、このままだと伸びちまいますね……では遠慮なく。いただきます」
    目の前の男に気を遣う必要はないはずだが何となく断りを入れて、まだ湯気のたっているカップ麺をすする。少し麺は伸びかけていたが、コシがあって美味い。揚げにも出汁がよく染みており、噛むと口の中に甘い味が染みわたった。
    空腹だった身体に、美味くて暖かいうどんはとても染み入った。
    気持ちに少し余裕が生まれ、改めて目の前の狐男を観察してみる。
    改めて見てもやはり顔の良い青年、という印象は変わらない。実は俳優かモデルやってます、と言われても信用してしまうほどの見目だ。
    着ているものは何てことのない紺色の紬であるのだが、思いの外引き締まってがっしりとした身体をしているせいかとても良く似合っている。
    それに神の遣いだの精霊だのと聞かされたせいかもしれないが、どことなく気品が溢れており気高ささえ感じられる青年だった。
    「何だじろじろ見おってからに……何か気になることでもあるのか?」
    月島の不躾な視線に気付いたのか、音之進が眉間に皺を寄せて問うてくる。
    この少しばかり不遜な態度も精霊たる所以であろうか。
    気になることだらけであるが、とりあえず月島は麺を完食することに全力を尽くすことにした。


    出汁の一滴まで残さず腹に収め、手を合わせて顔を上げる。まだ音之進は真っ直ぐにこちらを見つめていた。
    「あの、一つ質問しても?」
    「なんだ、遠慮なく言え」
    「ちょっと気になったのですが、あなたが本当に揚げに宿った精霊なのであれば揚げを食った時点で消えるはずなのでは?何でまだいるんですか?」
    月島の問いに音之進は少し考えた後、こう答えた。
    「その辺りのことは私自身も良く分からん。だがたぶん……月島は労われたい、癒しが欲しいと願ったのだ。だから月島が癒やされたと感じ、願いが叶った時点で消えるのではないだろうか」
    「はぁ、なるほど……?」
    しかしこの謎の青年が家の中に居座る限り、癒しを得ることなど不可能に違いないと月島は密かに思った。
    「まぁ細かいことは良いではないか!そんなことより次は風呂にでも入ってこい!」
    腹も膨れ、確かにそろそろ風呂に浸かりたいと思っていたので立ち上がって風呂場へ向かう。しかし服を脱ぎながらもシャワーを浴びながらも、どうにも狐のいるリビングが気になって仕方ない。
    いつもは長風呂の月島だが、この日は珍しく烏の行水になってしまった。
    急いで歯磨きまで済ませ適当なスエットに着替え、おそるおそるリビングに戻った月島が見たものは、誰もいない部屋だった。
    あぁ、やはりあれは疲れからくるリアルすぎる白昼夢だったのだ。やはり明日は有休をとって睡眠をとったほうが良いのかもしれない。
    そう考えながら寝室へ向かった月島を待っていたのは、なんとあの狐男であった。
    「はっ?何でまだここに……」
    「早いな。もう上がったのか?もっとゆっくり浸かっていても良かったんだぞ」
    「いえもう大丈夫です……それより!あんたそこで何してるんですか」
    狐男は月島のベッドに潜り込み、月島の布団をかぶって横になっていた。
    「風呂から出たらすぐ横になるかと思ってな、月島のために布団を整えておいたぞ!」
    「……ありがとうございます」
    月島はもう本当に何もかも考えるのをやめ、とにかく早く身体を休めることにした。
    「あの」
    「何だ月島ぁ」
    「えっと……何故あなたまで布団に入っているのですか?」
    「ん?良く眠れるように添い寝をしてやろうと思ってな」
    「はぁ、そうですか……」
    一人暮らしの男の布団に、大の男二人が余裕を持って横になれるわけがない。どちらかと言うと添い寝する側の音之進の方が布団を占領しているような気がする。
    しかし布団に潜り込むとどっと疲れが押し寄せてきて、細かいことはどうでも良くなった。
    男の方を向くと端正な顔をした狐耳の青年がこちらを見つめている。時折その耳がピコピコと動くのを見ていると、どうにも触れてみたい衝動に駆られる。どうやって頭にくっついてるんだそれは。
    月島の視線に気付いた音之進が、何だとばかりに小首を傾げて見せる。
    そのあどけない仕草が何とも可愛らしくて、月島は一瞬言葉に詰まってしまった。
    可愛いなどと思ってしまった、この精霊の思うつぼのような気がした。しかし耳に触れてみたい衝動には抗えなかった。
    「あの……その耳に触っても良いですか?どうなっているのか気になっていたんです」
    「ふふ、それしきのことお安い御用だ」
    持ち主の許可が下り、月島は恐る恐る耳に手を伸ばしてみた。
    そっと触れたつもりだったが、月島が耳に触れると狐は一瞬びくっと体を震わせた。
    「あー、すみませんやっぱり嫌でしたか?」
    「……いや大丈夫だ。もっと触るがいい」
    動物の毛というものは実際に触ってみると見た目よりも硬くごわついていることが多いが、この狐の毛はむしろ想像より柔らかくしっとりとした手触りをしていた。
    さすがに狐を撫でたことがなかったが犬や猫と同じように耳の後ろを優しく引っ掻くように撫でてやる。
    撫でられている音之進は気持ち良さそうに目を細め、月島にされるがままになっていた。
    布団からはみ出した尻尾が、嬉しそうにゆっくり揺れている。
    柔らかな毛皮と温かい体温、どこからか香るほのかに甘い香りに包まれ、耳を撫でていた手にだんだん力が入らなくなり、月島の意識が遠くなっていく。
    「月島おやっとさぁ、今日も一日良く頑張ったな。どうだ、良く眠れそうか?」
    音之進の声がどこか彼方から聞こえる。眠りの淵にいる月島に答える力はもう残っていなかった。
    「ふふ、おやすみ月島」
    その声を聞いたところで、月島の意識は完全に途絶えた。



    気付いた時にはもう朝だった。スマホのアラームがバイブレーションと共にけたたましく鳴っている。随分と良く寝た。これほど寝覚めがスッキリとしている朝は久しぶりかもしれない。
    (そうだあの狐男……!)
    そこで昨夜の出来事を思い出し、月島は飛び起きて辺りを見回した。
    しかしそこには狐の姿も青年の姿もなかった。昨日のように別の部屋にいるのではないかと念のため全ての部屋を回って確認したが、やはりこの家の中に存在するのは月島ただ一人だけだった。
    この部屋に隠れられる場所などもないことは月島が一番よく知っていた。
    (そりゃそうだ、カップ麺開けたら狐の耳が生えた男が現れたなんてそんなおとぎ話、現実にあるわけがないだろ)
    それにしても随分とリアルな夢だった。この掌にはまだ柔らかな毛皮の手触りが残っているような気さえする。
    (いつまでも夢のことを考えている場合ではない、早く出勤の準備をしなければ……)
    そこで月島の視線があるものを捉えて固まる。
    昨日音之進と名乗る狐男と添い寝をしていたシーツの上、そこには薄いお揚げ色をした狐の毛が残されていた。
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