おとしものなくしもの ペンケースの中には、角がたくさんついた『消しやすい』と噂の消しゴムと、方眼の入った定規、シャープペンシルが所狭しと肩を並べている。ティルはそのスポーツブランドが描かれた硬いペンケースを親指でぐっと押さえながら、片側の頬を膨らませた。
机の上に乱雑に置かれた教科書とノート。音楽と書かれたそれはティルの好きな科目だ。だからこそ心踊るはずなのに、片眉をあげてティルは膨らませていた右頬を凹ませる。
──このところ特におかしいと思うのは、自分の気のせいだろうか。
見た目は変わらぬどこにでもあるようなペンケース。白と黒のモノトーン調のそれは、一目で男子高校生のものだろうと推測ができるだろう。ティルがそのペンケースを揺らすたび、小さな赤い花のストラップが机に当たって柔く金属音を鳴らした。
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