秘密の時間図書室にある、とある一角のコーナー。そこで星塵は今日も一冊の本を読んでいた。真剣な眼差しで本を捲る星塵の姿を見つけた宋嵐は一瞬見惚れると、僅かに口許を緩めそっと隣に座った。
「すまない、待たせたな星塵」
聞き慣れた落ち着いた声に、星塵はハッと現実に戻り本から顔を上げ、相手の姿を確認した瞬間花が綻んだような笑みを浮かべた。
「いや、大丈夫だよ。この本、新刊コーナーにあったからつい手に取ってみて読んでいたんだけど、とても面白くてついつい読み耽ってしまった」
「そうか、お前が楽しめていたのなら良かった」
宋嵐は星塵の触り心地の良い髪を撫でながら、満足そうに告げた。
荷物を片付け本の貸出を終えて出口へと向かおうとすれば、不意に宋嵐が手を引いて星塵の動きを止めた。
「?どうしました、子琛。忘れ物でもありましたか?」
「...そうだな、忘れ物をした。すまないが、一緒に付いて来てくれ」
言い終わるや否や、宋嵐は星塵を連れて書庫へと向かい、更にその奥にある貸出禁止書庫室へと足を踏み入れ、星塵が部屋に入り終えると鍵を閉めた。
「あの、子琛?ここにある本は貸出禁止だから借りられま...」
せんよ、と言い終わらないうちにその唇は宋嵐の噛み付くようなキスによって塞がれていた。
「ん!ん...んぅ、ん...」
突然のことに思わず逃げ腰になった星塵に、逃がさないと言わんばかりに細腰に手を回し、もう片方の手で後頭部を固定して咥内を蹂躙し始める。
「ん...ぁ...子琛...」
(あぁ、子琛に食べられる...♡)
うっとりと目を閉じてひたすらキスを続けていれば、二人しかいない静かな部屋に水音だけが響き、それが更に興奮剤となって一層激しさを増していく。
漸く宋嵐の唇が離れる頃には、星塵は名残惜しそうに吐息を漏らし、銀糸はプツリと切れた。息を整えトロリと蕩けた星塵の瞳はここが校内だということも忘れ、欲を孕んだ眼差しで物欲しげに宋嵐を見つめる。
「星塵...。すまん、これ以上は...俺の家に着いてからでもいいか?」
「こういう時、家が隣同士なのは有り難いですよね」
「それまで、その...我慢出来るか?」
「...子琛から仕掛けたくせに」
「それは...悪かった。本を読んでいたお前の横顔が美しくて、どうしてもキスしたくなった。だが、流石にあの場でこんなキスは出来ないだろうと思ってな」
思わず悪態をつく星塵に、宋嵐は苦笑を浮かべながら角張った指で星塵の唇を優しく撫でて宥めた。
「まさか弓道部のエースがこんな所で淫行に耽っているなんて、君を慕っている後輩達は知りもしないんだろうね」
「淫行って、お前な...。それを言うなら、まさかクラスの委員長がキス一つでこんなに淫らな表情するとは、想像出来んだろうな」
コツンと額を合わせながらクスクスとお互い笑い合い、指と指を絡め合わせ恋人同士の触れ合いを楽しむ。
「最近大会も近かったから中々一緒に居られなかったしな。俺も、まだまだ忍耐が足りないな...」
「...私が平気だったとでも?」
何気なく吐き出した宋嵐の言葉に、星塵は宋嵐の頬から首筋へと指を滑らせながらムスッと頬を膨らませた。だが、宋嵐はそんな星塵を見て、こんな子供っぽい表情を見られるのも恋人の特権だと自慢してやりたい惚気に駆られた。
「私だって、寂しかったですよ...」
チラリと上目遣いに見つめるとそのまま宋嵐のネクタイをクイっと引っ張って触れるくらいのキスをした。
「!星塵...!」
「ふふっ...仕返しです」
恋人からの思わぬ報復に宋嵐は真っ赤になり、悪戯が成功した子供のように楽しそうに笑えば、遠くの方から下校を促すアナウンスが聞こえてきた。
「さ、帰りましょうか子琛」
「あぁ、そうだな星塵」
二人が部屋を出ると、先程の恋人同士の甘い雰囲気から弓道部エースの宋嵐とクラス委員長の暁星塵の顔に戻っていた。