桜時(知己の巷談) 春光を包んだうららかな風が桜の香を帯びて彷徨う。いかに雪深く閉ざされた姑蘇といえど春の訪れを感じられるこの穏やかな季節。春風と共に雲深不知処ではある噂が流れていた。
「なあ、知っているか」
稽古場の片隅、冷たい湧き水で剣術の疲れを癒していた藍思追に、藍景儀が声を潜め話しかける。
「雲深不知処の裏山に一本の古びた桜木があるだろう。そこで好きな相手の服の裾に触れると、二人は生涯幸せになれるらしいんだ」
その漏れ聞こえた話に、魏忘羨は盛大に吹きだした。
「な、なんだよ!魏先輩」盗み聞きするなよ!と詰る景儀に「ああ、なんでもない続けてくれ」こほんと上級者らしく咳をして誤魔化すが、しかし心の中では(流石お子ちゃまたちだな!そんな噂を信じているとは!)と腹を抱えて笑っていた。
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