「ロロノアの刀って、妖刀なの?キャプテンと同じ?」
「あァ、コイツはそうだな。分かるのか?」
「変な感じはするよ。触ったら切られそう」
「まあ、コイツは厄介な奴だが。お前、トラ男の刀は偶に持ってるじゃねェか」
「あれは持たされてるの!キャプテン人使い荒いから。でも抜いたりはしないよ。やっぱり変な感じするし」
「トラ男の刀はアイツに従順だから、アイツが信頼してる奴なら大丈夫じゃねェか?」
「えっ、信頼!エヘヘ、そうかなあ」
ワノ国に向け、ポーラータング号は深く潜水し航路を辿る。船体が安定すると、談話室などで寛ぐ船員の姿がぽつぽつと見られるようになった。
クルーからの報告と確認を終え、少し時間の空いたローが人を探して談話室の扉を開けると、何故かウチの航海士に寄り掛かって何やら自分の妖刀を眺めているゾロを見付けて唖然とした。ベポも気にした素振りもなく、下敷きにされたまま頬杖をついてあれこれ横から話し掛けており、時折顔を見合わせては楽しそうに笑い声をあげている。周りの奴らも特に気にしていないところを見ると、これが初めてではないのかもしれない。眉を顰めながら足早に歩を進め、憮然として二人を見下ろすと、ベポとゾロはローを見上げてのんびり声を掛けた。
「あれー、キャプテン。休憩?」
「よお、トラ男。相変わらずひでェツラしてんな」
「お前達……いつの間にそんなに打ち解けた」
「ええ、いつだろう。ロロノア分かる?」
「さァ。前からだ」
「……そうかよ」
どさりと音を立てて、ローはゾロの隣に座った。「狭え」とゾロが文句を言うが知った事ではない。何処となく不機嫌そうなローにゾロはちらり視線を遣り、刀を鞘に仕舞うと顔を向けて首を傾げた。
「何で怒ってんだ?」
「テメェなあ……昼飯食ったら船長室に来いって言ってたろ」
「……あ」
「忘れんな」
「なに、キャプテンってばロロノアにすっぽかされちゃったの?」
「ああ。薄情だよなァ」
「……すまん」
はあ、とローは大きくため息を吐くと、もういいと言って諦めたように首を振った。その疲れた様子に流石のゾロも気が咎める。忙しい恋人が、どうにか共に過ごす時間を取ってくれたにも関わらず反故にしてしまったのに申し訳なさが募るが、元々今日は部屋に行っても寝かせてやろうと思っていたのだ。ならここでも良いだろう。
「トラ男」
「あ?」
「悪かった」
「……ああ」
「詫びは後でする。とりあえず、寝ろ」
そう言って自分の肩にローの頭を乗せ、ベポに体重を掛けながら「良いよな?」と一応断りを入れた。ガタイの良い男二人分の重さをものともしないベポは、自らも睡魔に襲われつつ「良いよ、おれも寝るし」と軽く返事をして仰向けになり寝る体勢を整えている。
ふわふわの毛皮と、ゾロの高い体温に急激に眠気を誘われたローは、微睡みながら「……おれはどっちに妬けば良いんだ?」と呟く。部下と恋人の仲睦まじい様子に喜ばしいやら腹ただしいやら複雑な気持ちであるが、慢性的に睡眠不足のローに睡魔は容赦なく襲いかかる。頭が回っていない様子のローの戯言にゾロがくつくつ笑うと肩越しに振動が伝わった。「ばーか」と言いながら額に柔らかく唇を落とされたのが分かり、ローは満たされた気分で夢の中へ落ちて行った。
了