幼馴染さねぎゆ(現パロ)ぎゆには毎朝の日課があった。いつも決まった時間に起き、隣の家に向かう。ぐっすりと眠っている男のあどけない寝顔にゆるりと眉を下げ、肩を揺すった。
「さねみ、朝だ」
「んー…おぅ、」
さねみは朝に弱い。夜遅くまでバイトをしているからかもしれないが、それを差し引いても苦手のようだ。反対にぎゆは朝が得意だった。寝付きの良さも相俟って、いつも決まった時間に目を覚ましていた。そうして気付いた時には、ぎゆは毎朝さねみの部屋に向かい、あれこれと世話を焼いていたのだ。
「そろそろ起きないと遅刻にする」
「…んなギリギリじゃねぇだろォ…」
「さねみ」
「…あー、わかったわかった」
少し愚図るような素振りを見せつつものっそりと上半身を起こし、ぎゆは口元に小さな弧を描く。
「よし、布団から出られたな…あぁ、髪がボサボサだ。おまえ、昨日乾かさずに寝ただろう」
「ふぁ、…別にお前と大して変わんねェわ」
「俺は結うから問題ない」
「へーへー」
ぼんやりとしたままのさねみの台詞にぎゆは小さなため息をついたが、いつものやり取りだ。ぎゆは手慣れた様子でさねみの制服を用意して着替えを手伝い、隣に並んで学校に向かう。
それがぎゆの、朝の日課だった。
ちいさな、特別だった。
~略~
ある日の朝。いつものようにぎゆはさねみの部屋に向かい、ドアに手をかけた。と、その時。扉の向こうから、話し声が聞こえてきた。どうやら弟である、げんやと話しているようだ。しかしそこで、ぎゆは少しだけ不思議に思う。さねみを様子がいつもと違う気がする。寝ぼけている声音ではなく、はっきりとした口調だ。ドアを少し開けて覗けば、服は一人で着ているし、髪だってボサボサではない。その光景を見たぎゆは、すとん、と自身の中で何かが落ちたような、抜けたような気がした。
(なんだ…)
自分がいなければ、なんて。そんなのは、ただの独り善がりにしか過ぎなかった。
とんでもない勘違いをしていた。ああ、はずかしい。
それから、ぎゆは朝の日課をやめた。
――さねみは朝に弱い訳ではなく、単純にぎゆに会いたくて演技をしていた。ぎゆに起こされるのも、着替えを手伝われるのも、髪に触れられるのも。全部、すきだった。当然だ。さねみはぎゆの事が、好きなのだから。
さねみの告白に、ぎゆはポカンと口を開けて、目を丸くして驚く。そうして、ぎゆは自身の想いに気付き、「おれも、」と小さく呟いた。――おれも、お前が好きだ。
ぎゆには、毎朝の日課がある。
「さねみ、朝だぞ」