ドラロナっぽいもの 疲労感が全身を包み込む中、ロナルドは重力に逆らうように重たい足を引きずる。
疲れた。眠い。疲れた。
このままフカフカのベッドにダイビングして半日寝てしまいたい。
「ゴホ、ゴホッ……!」
最近は愛用の銃よりも拳で吸血鬼を退治することが多い気がするのに、今日はおまけに喉まで酷使して、喉がカラカラになっている。激しいボケに張り合うように大きな声でツッコミしたせいだ。
掠れた声で数回咳をして喉の調子を整えたあと、スーッと息を吸い込んだ。
「あー、クソッ!」
あと数歩で事務所兼自宅に辿り着くところで、癇癪を起したようにドンと床を踏み鳴らす。
思い出すだけで腹の中で苛立ちがグルグルと渦巻いた。余計に喉を酷使するとわかっていたのに、喉の奥底から飛び出るのはむしゃくしゃした感情だけ。
いつもだったら、機嫌もそこまで悪くならなかった。しかし、この日は不運が重なって、普段なら我慢できるはずの眠気が、最高潮まで達してしまっている。ロナルドは良くも悪くも普通の人間だ。食事と取らなかったら腹が鳴るし、眠たくても寝られなかったらイライラもする。
昨日も明け方まで吸血鬼との戦闘(これは戦闘と言っていい戦闘)。それが終わったら、吸血鬼対策の講習会。そして、ゆっくりできると思った矢先の今夜である。強敵との戦闘であれば、アドレナリンが分泌されて気分も高揚したのかもしれないが、現れたのはただのご近所迷惑な(ほぼ無害な)吸血鬼で、ロナルドは派手に肩透かしを食らった。
そんなこんなで、ロナルドの瞼は限界に近い。まばたきをしてしまえば、そのまま眠ってしまいそうで、なるべく目を閉じる回数を減らしていた。普段の青空みたいな澄んだ水色は、今や濁った沼のようにくすんでいる。鬱憤と睡魔で物凄い剣幕になっていた。
事務所のドアを開けると、真っ直ぐ自室へと進む。もちろん、疲労感でぶっ倒れそうでもメビヤツに帽子を預けることは忘れない。「ビッ」という声を聞いて、帰ってきた気がしてなんだか気が抜けた。
「おかえり、ロナルド君」
その気の抜けた声がロナルドを腑抜けにさせると知らず、ドラルクが笑顔を向ける。
「た、だいま……」
全ての不の感情が一気に浄化されていき、心に残ったのはあたたかい物だけ。
「今日のから揚げだよ」
「ヌー!」
ぐう、と腹の虫が鳴く。
さっきまでの睡魔は、どこかの吸血鬼に負けてしまったようだった。