○と誠「うーんうーん」
「どうしたんです?さっきからずっと唸って…オオカミさんにでもなっちゃいましたか?」
珍しく難しい顔で唸っている子羊の眉間を、人差し指でぐいと突く。
「や、なんでも…」
「なんでもって顔じゃないでしょう」
「えっと…あの、」
「話しにくいことですか」
なら、と子羊の手を引いてベンチにともに腰掛ける。向き合って手を握ればまっすぐに見つめた。
「ほら、ちゃんと話してくれないとわからないでしょう?」
「いやその。なんというか…」
「いい加減になさい。朝からずっとソワソワして、私が気になるんですよ」
「その、僕、テメノスさんが……」
「……なんです」
もごもごと口を動かして言いかけたが、結局言葉が出てくることはなかった。
「ああ、ダメだ。やっぱり僕の口からはとても言えません…」
「なんなんですか、本当に…」
存外呆れたような声が出てしまったが、煮え切らない態度をする子羊が10:0で悪いのだ。少々むっとした表情をつくって言外に"審問"をする。すると、実に彼らしい答えが返ってきた。
「その、エイプリルフールなので…嘘をついてみようと」
ぽかんと間が空いたあと、急に笑いが込み上げてくる。あまりにもくだらない話で、別れ話でも切り出されるのかと覚悟までしていた自分がおかしくて。
「ふは、あははっ!そんなことで唸っていたんですか?眉間にこーんな皺を寄せてまで?」
「笑わないでくださいよ…。でも、やっぱり嘘はよくないです。こんなこと、嘘でも言いたくない」
「ああもうかわいいですねえ、子羊くんは。…それで、どんなことを言おうとしたんです?」
「貴方のこと、嫌い……だって」
「……ああ、本当におばかさんですね」
「む……」
「だってそれって、私のこと大好きってことでしょう?」
「…………あっ」
「もしや気づいていなかったんですか?」
「いや、その、嘘です!嘘…なので……」
「フフ、君は本当に嘘が下手ですね」
「うぐ」
ばつが悪そうにうつむく子羊にそっと寄りかかる。彼の肩にからだを預け、過去一番かもしれないぐらいに頬をゆるませて。
「私は、そんな君を愛しています」
「……ねえ、結婚しちゃいましょうか?」
「…………!? テ、メノスさ……」
見なくたって表情が伝わる。伏し目がちだった瞼を開いて、ベンチから腰を上げた。
「さあ、休憩は終わりです。今日はこの立派な木の下に死体があるのかを調べにきたのですから」
「まって、まってくださいテメノスさん!今のって、嘘?それとも……っ」
「真実は、炎の中に……なんてね」
「~~~ッッ ずるいですよ!」
END