誓いの騎士と籠の鳥文字通り、籠の鳥となったテメノスを囲って暮らすクリック。誓いを交わしたふたりは、小さな街ですぐに噂になった。
金髪の聖堂騎士の傍らにはいつも美しい人がいたという──
たまに見かける美しい人は車椅子に乗せられたままおだやかに微笑むだけで一言も喋らない。介助している聖堂騎士も笑顔だけど少し怖かった。
ベールに隠された人は足が不自由なようで、聖堂騎士無しには現れない。華奢な体は大小様々な装飾品で彩られ、飾られ、まるで何かに守られるようにそこに在る。
偶然、足元に転がしてしまったコインを拾おうとして仰ぎ見たその人は…かの著名な宗教画のように美しかった。
直後、コインを掴んだ掌の横を鈍色の大剣が貫いた。
「あれっ、外しちゃいましたか?すぐにその不埒な手を罰しますから… 動かないでくださいね。」
全身からどっと汗が噴き出た。無我夢中で身を引いて、足をもつれさせながら来た道を戻る。どうやら追いかけては来なかったらしいが、握りしめていたはずのコインはどこかに落としてしまった。
「これが、わしが体験した恐ろしい話じゃ…」
「全然こわくないよおじいちゃん」
年老いて、孫に聞かせたその話は作り話ではない。孫には想像もつかないのか、聖堂騎士を格好良いなどと抜かしおる。童話の中にでも迷い込んだような、後戻りができないような、形容しがたい恐怖を感じたのだ。二度と会うまいとフレイムチャーチまで逃げた。もうあのような体験はごめんだと、村で出会った薬屋の娘と早々に結婚した。
「あ、おじいちゃん。お客様だよ!」
「どれどれ、今行く……… ッ!?」
「こんにちは、お久しぶりですね。」
目の前に現れた壮年の男は、確かにあの日この手に神の剣を突き立てようとした男だった。年相応に老いてはいるが、面影があり思わず身震いをする。
「おじいちゃん…?」
「可愛いお嬢さんですね。名はなんと?」
「…アジール!」
「とてもいい名前だ。」
「…その子に近寄るんじゃない」
「何もしませんよ。彼女には、ね」
壮年の男は睡眠の瓶詰で孫を眠らせる。柔和な笑みを浮かべながら近づく男。振るう巨剣が一息に体を貫いた。倒れゆくわしの傍らに、あの日のコインが供えられて……
それが、わしの最後の記憶となった。
◇◇◇
「テメノスさん、褒めてください。今日もまたひとり、貴方のことを追い回すカラスを仕留めたんです。」
「カラスですか?最後の一人はこの間…」
「いいえ、まだいたんです。あろうことか貴方の故郷で、貴方に似た意味を持つものを大事にしていた…!まだ、未練があったんです。でも安心してください。ちゃんと、断ち切りましたから。」
「フフ、えらいですね。怪我はしていませんか?君に何かあれば私は生きていけませんから。」
「いつまでも生きて、ずっと貴方をお守りします。…愛しています、テメノスさん。」
「ええ、愛していますよ…クリックくん。」
(哀れな子羊。この子羊の罪は全て私が引き受けます。だからどうかこの先も、私たちが共に在れますよう───)
END