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    夢の中でしか想い人に会えない☀️君の話
    中編 了

    「………………」
    「………………」
     カリムは腕を組んで立ち塞がっているジャミルに何と言ったものか、言葉を探していた。
     朝一で飛び起きたカリムは、クルーウェルのところへ行こうとばたばたと自分で支度を始めた。ターバンは持つだけ持ってすることを諦め、部屋を出ようとしたところでジャミルと鉢合わせた。カリムの様子を見て険しい顔をしたジャミルに事情を問い詰められて今に至る。
    「説明をしろ。カリム。なんでこんな時間に起きてるんだ? それにどこに行こうとしていた?」
    「クルーウェル先生のところに行こうと思って……」
    「クルーウェル先生? 追加の宿題でも言われたのか?」
    「……オレのやりたいこと、止めないなら話す」
     考えた末にカリムはそう口にした。
     ジャミルなら、カリムがルディを助けたいといえば、危険なことはやめろと言うに違いない。それが心配からくるものだとわかるが、それでもルディを助けたかった。
     ジャミルはカリムの返事にため息をつき、それから考えるようにする。
    「止めない約束は出来ない。俺はお前を危険に晒す訳にはいかないからな。お前だって、俺の立ち位置を危うくしたくないだろ?」
    「う……。ずるいぜジャミル……」
     ジャミルがこの学園でも従者の責から逃れられないのはカリムも分かっていることだ。それでも。とカリムは手を握った。丁度そのタイミングで、カリムのスマホが鳴り始める。はっとして取り出したカリムは、着信がアズールであることに目を見張り、ジャミルに視線で出ると告げると急いで電話を取った。
    「アズール! フロイドは?」
    『ええ。丁度その話をしようと電話をしたところです。フロイドが目覚めました。ただ弱っているので、クルーウェル先生が様子を見に来ています。オクタヴィネル寮まで来られますか?』
    「すぐに行く!」
    『お待ちしてます』
     カリムの返事を聞いて、アズールは端的な言葉を口にすると電話を切った。
    「ジャミル。すまん、オレ、アズールたちのところへ行かなきゃ」
    「俺も行く。そこで説明してくれ」
    「分かった」
     状況が緊迫していることを察したらしいジャミルに頷くと、カリムは身を翻した。
    「おい。せめてターバンくらいちゃんとしろ」
     魔法でちょっと強めにぎゅっと巻かれて、カリムは思わず頭を押さえる。
    「サンキュー、ジャミル」
     素直にお礼を言ったカリムに、ジャミルはもう一つ、ため息をついたのだった。

    「フロイド!」
     室内に入ると、ベッドにフロイドが身を起こして座っている姿が見えた。昏睡していると聞いていたが、ルディが言った通り起きたらしい。
    「ラッコちゃん、やっほ〜」
     けろっとした声音でそう手を振ったフロイドは、それでもベッドから降りる様子はない。アズールとジェイド、クルーウェル、そしてこの場にはなぜかリドルの姿があった。
    「リドル?」
    「カリム。君も来たんだね」
     リドルの表情は険しい。何かあったのかと問いかけようとしたカリムに、先にクルーウェルが口を開く。
    「アルアジームは聞いているだろうが、昏睡者のもう一人はデュース・スペードだ」
     驚くカリムに、リドルが続ける。
    「デュースはまだ目覚めなくてね。フロイドの話を僕も聞こうとクルーウェル先生に連絡をもらってここに来たんだ」
    「その昏睡というのは、この前のカリムがなかなか目覚めなかったことと関係があるんだな?」
     ジャミルがカリムを振り向くのに、カリムは頷いた。流石に話が早い。状況である程度のことを察しているらしいジャミルに、詳しい説明はまた後でしようと思いながら、カリムはフロイドを見た。
    「フロイド、ルディに会ったか?」
    「ルディって、スカラビア寮長服を着てた奴のこと? 会ったよ。オレを助けてくれたのそいつなんだよね」
    「そうか……」
     言った通りにフロイドのことを助けてくれたらしい。でも、デュースが目覚めていないという事実にカリムの心は重くなる。
    「サバちゃんとも会ったけど、オレが先に弾かれちゃったんだよね」
    「弾かれた? フロイドはどんな夢を見てたんだ?」
    「変な人形のもやと戦う夢。そのルディって奴は魔人って呼んでた。夢の魔人って。オレ最初は校舎で追いかけられてたんだけど、気づいたらスカラビア寮の寮庭に居たんだよね。そこでサバちゃんと、ルディと合流って流れ」
    「夢の魔人……?」
     考え込むクルーウェルに、リドルが口を開く。
    「聞いたことがありますね。御伽噺に出てくる魔人です。魔人に気に入られると、夢から覚めなくなって、夢の世界に取り込まれてしまう。夢の世界に取り込まれた者は誰からも忘れ去られてしまう。……小さい子供の躾に、悪いことをすると夢の魔人がやってくるぞ、と脅かすと聞いたこともあります。ですがそんな魔人が実在するんですか?」
    「……実在する」
     クルーウェルの声に全員が振り向く。
    「ルディという人間のことは思い出せないが、夢の魔人が封じられているという香水瓶が学園内で発見されたことは覚えている。その後どうなったかは思い出せないがな」
    「香水?」
    「絶対に開けてはならないとは言われたが……」
    「学園内ってどこで見つかったんだ?」
    「スカラビア寮の古い物置に置いてあった、はずだな」
     らしくない曖昧な言い方は、消えている記憶が多くあるからだろう。
    「オレ、昨夜もルディに会ったんだ」
    「なっ」
     驚いた顔をする一同に、カリムは続ける。
    「ルディ、オレが昏睡者がいるって言っちまったら、助けるから大丈夫だって言ってくれたんだ。でも、自分は死ぬみたいなことも言ってた。ずっと覚悟がつかなかったって。……オレ、ルディに覚悟させちまったのかも」
     項垂れるカリムに、フロイドが口を開く。
    「じゃあ助ければいーじゃん」
    「フロイド?」
     驚いたジェイドの声に、フロイドは頭に手をやる。
    「オレだって借り作ったままじゃやだし。ってゆーか、そう言う悲劇の主人公みたいなことするやつオレ嫌いなんだよね。つまり自分が犠牲になってオレのこと助けたわけでしょ? そんなの頼んでねーし」
     苛立ったような声音に、でもカリムは逆に安心するようだった。そうだ。憤れば良かったんだ。辛い気持ちが奮い立っていくのに、隣でジャミルがため息をついたのが分かった。
    「クルーウェル先生! なんかねーのか? ルディを助ける方法」
    「あったとしてお前たちには教えない。生徒を危険に晒す教師がいるか?」
    「うっ、でもオレ、ルディを助けたいんだ。ルディはずっとオレの話を聞いてくれてた。楽しかったことも、悲しかったことも、全部。それにオレのことを否定しなかった。全部受け止めてくれたんだ。……自分のことは全く話してくれなくて、だからオレ、ルディのことが知りたいんだ」
     カリムはそれから俯いた。
    「ルディは魔人に取り込まれたから、忘れられちまってるのかな……。学園長たちも知らないって言ってた」
     忘れられるなんてどういう感覚だろう。寂しいことは、間違いないとカリムは思う。
    「恐らくもうすぐそうだろう。写真も偽造じゃなかったから真実だ。だが新聞、あれは手作りのものだな。紙まで用意して丁寧に作られているから本物だと見間違うが、分析した結果、使われているインクは市販のものだった」
     死亡記事が作り物だとすると、用意したのは多分ルディだ。とカリムは考えた。そんなものを用意する理由が分からない。
    「なんでルディ、あんな記事を……」
    「……夢の魔人に辿り着かないように、保険をかけていたんだろうな。ルディという人間が自分を犠牲にするつもりで取り込まれたのなら、それくらいのことはしていくだろう」
     クルーウェルは腕を組んで嘆息した。
    「……子犬ども。勝手に動くなよ。夢の魔人と対峙するなら俺も行く」
    「えっ?」
     カリムが目を丸くすると、クルーウェルは続ける。
    「思い返したが、この学園で過ごした半分以上の記憶が曖昧だ。恐らくルディは俺と仲が良かったんだろう。つまりルディという人間は、夢の魔人に関してこのクルーウェル様に頼らなかったということだ。どういうつもりか問い詰めてやる」
    「そういえば、ルディ、デイヴィスによろしくなって言ってたぜ」
    「……腹立たしいな」
     油に火を注ぐようなカリムの言葉のタイミングに、こちらも苛立ったようにクルーウェルは言う。
    「では、作戦を立てましょう。……その前に、本日の授業はどうしますか?」
     アズールの冷静な声音に、全員がはっと時間を確認する。見れば授業開始15分前だ。
    「授業を休むことは許さん。と言いたいが、事態は切羽詰まっている。学園長には連絡を取っておくから、子犬共は先にスカラビア寮に行け。香水瓶を探すんだ。恐らくどこかに隠されている」
     動き出そうとしたカリムに、ただし! とクルーウェルは引き止めた。
    「見つけても俺が行くまで何もするな。分かったな? 返事をしろ子犬!」
    「お、おう! 分かった。絶対触らない!」
     半ば押されながらの返事を聞き、よし、と頷くとクルーウェルは口を開く。
    「始めるぞ子犬共。心してかかれ」
     それぞれ返事をするのを見やり、クルーウェルは先に部屋を出ていった。
    「アズール、オレ動けないからさあ、代わりに行ってきてよ」
    「そうですね。僕は動けないフロイドの様子を見ますので、アズール、お願いできますか?」
    「……仕方ないですね。三発は必ず当てますよ」
     眼鏡の位置を直すアズールに、三発だって、ウケる〜〜と笑うフロイドにお前たちの分だと思って言ったのに!? なんて言うアズールたちを見てカリムは頼もしいと笑う。
    「リドルはどうするんだ?」
    「寮生の窮地に寮長が動かなくてどうするんだい? もちろん行くよ。ジャミル、君も行くんだろう?」
     ジャミルを振り向いたカリムに、ジャミルはため息とともに頷いた。
    「人命がかかっているんだ。でも出過ぎるなよ。カリム」
    「おう! よろしくな、ジャミル!」
     ジャミルがいるなら間違いないと頷いたカリムに、ジャミルは身を翻す。
    「なら早いほうがいい。スカラビア寮でそれらしい香水瓶なんて見たことないが、探してみよう」
    「分かった! じゃあフロイド、行ってくるな!」
    「よろしく〜〜〜ルディってやつも勝手なことすんなって殴っといて」
    「えっ」
     目を瞬くカリムに、アズールが苦笑する。
    「がんばれの意味ですよ。行きましょう。デュースさんも心配です」
     一同は、スカラビア寮へと向かった。
     寮生たちは授業に出ているせいで、寮内は静かだ。
    「カリム、場所の心当たりはないのか?」
    「うーん、ルディと会う時はいつも古いスカラビアの寮室だったんだよな。あ、でも途中からオレの部屋になったぜ」
    「じゃあ、まずはカリムの部屋だね。と言っても、あったらジャミルが見逃しそうにないけど」
     リドルの言葉に、ひとまず行ってみようとジャミルはカリムより先に歩いて部屋へと向かった。一度足を止めるように言ってからドアを開け、何もないのに中に入るように言う。警戒しているジャミルの様子に、カリムも気を引き締めながらきょろきょろと周囲を見回した。
     最後にあった時はソファのあたりでぐったりしていたけど、やはり香水瓶は見当たらない。
    「そもそも香水のような匂いもしませんよね」
    「ルディはオレが夢みるのは、ルディと属性や波長が合うからって言ってたぜ」
     思い出しながら言うカリムに、アズールは考える素振りをする。
    「魔力的な要因ですか……。となると、香水瓶は存在しない可能性もありますね」
    「そもそも、スカラビア寮は大規模な改修工事が行われていて、昔のものは残っていないはずなんだ」
    「…………なあ、床壊したら怒られるかな」
     ふと思いついたカリムがジャミルを見やるのに、ジャミルは眉を顰める。
    「何か心当たりがあるのか?」
    「確かに古いスカラビア寮ではあったけど、窓の感じから、ルディがいつも座ってたのってこの部屋の中央くらいなんだよな。だからここに何かあるかなって」
    「良いんじゃないか? 壊しても直せばいいだろう」
    「何で壊しますか? 魔法? と言っても香水瓶があった時に壊しかねませんね」
    「思い切りがいいな、お前らは……」
     呆れたような顔をしながら、ジャミルは三人を止めずにこう言った。
    「俺の部屋に、ちょっとした工作道具なら置いてあるから少し待て。錐で穴を開けてそこからある程度床を剥がせるかやってみよう」
     すぐに出ていったジャミルが戻ってきて、提案通りに床に穴を開けた四人は床下を覗き込む。
    「っ、あった!」
     転がっているのは、薄いピンクで美しいガラス細工の香水瓶だった。デザインを見るに、薔薇の国のものだ。御伽噺とリドルが言っていた通り、薔薇の国にまつわるものらしい。
    「取っても良いと思うか?」
    「触らないって約束しちまったしな。このまま待とうぜ」
    「そうだね。その方が良いだろう。少し対策を話しながらクルーウェル先生を……」
     リドルの言葉が止まったのに、その視線の先の香水瓶を見下ろしてカリムたちは息をのんだ。
     ゆっくりと香水瓶がひとりでに開いていく。はっとしたジャミルがカリムを引っ張った。
    「全員部屋の外へ……!」
     その声に反応した瞬間、ころりと蓋は開く。
     次の瞬間、あっという間に世界は色褪せ、セピアのフィルターが掛かったような景色に変貌していた。
    「ローズハート寮長!?」
    「デュース!」
     驚いた声の持ち主は間違いなくデュースのもので、部屋の角に座っていたデュースが驚いたように立ち上がる。
    「良かった、無事だった……とは言えるのか分からないけど、ひとまず会えて良かったよ」
    「どうしてここに……」
     目を瞬いているデュースに、カリムは近寄る。
    「デュース、ルディを見なかったか? スカラビア寮長服を着てる奴なんだ」
    「ルディさんを知ってるんですか?!」
    「デュースも知ってるのか! 教えてくれ、ルディは今どこに……」
     言いかけたカリムに、デュースは切羽詰まった表情で肩を掴む。
    「アルアジーム先輩! あの人を助けてください! もうボロボロなのに僕を庇って、魔人の気を引いて外に行っちゃったんです! 僕が弱いばっかりに……!」
     歯を噛み締めるデュースが握っているマジカルペンは、ブロットが溜まって濁っている。それを見たリドルが口を開いた。
    「君は弱くない。良くここまで頑張ったね。あとは僕たちに任せてここに居るんだ」
    「はい……」
     悔しそうにしながらも頷くデュースに、ジャミルが問いかける。
    「魔人と言っていたが、戦っているのか?」
    「本来なら戦わない方が良い相手みたいなんですが、何も知らずに敵だと思って攻撃してしまったんです。夢の魔人は取り込んだ人間の魔力を吸って糧にすると言っていました。攻撃するとその分相手が強くなるって」
     デュースの情報に、それぞれが視線を交わしてまたデュースに向ける。それが本当だとしたら、厄介な相手だ。
    「それじゃあ、ルディは……」
    「ルディさんは、相手の魔力を自分の魔力にする、っていうユニーク魔法を持っているんだって言ってました」
     カリムは初めて聞く情報に、ルディの顔を思い返す。
    「なるほど。だから奪われた魔力を奪うことで抗ってるんだな」
     納得したようなジャミルに、デュースは俯く。
    「何かするつもりみたいなんですが、僕には教えてくれなくて……」
     ルディらしいと思いながら、カリムは窓の外を見やる。
     遠くで砂煙が上がっているのが見えた。ルディがいるのはそこだろう。
    「リーチ先輩はルディさんがなんとか逃したみたいなんですが、僕が追い詰められててルディさんが庇いきれなかったみたいなんです。魔人は僕たちを完全に取り込むつもりで攻撃してきます」
    「向こうは攻撃出来るのに、こちらが攻撃すると強くなるなんて、どう対処するべきでしょうか」
     思案するアズールの視線を受けて、リドルは頷いた。
    「ひとまず、僕のユニーク魔法を試してみよう。魔法を封印する魔法なら無力化できるかもしれない。ずっと封じられれば良いけど、難しいだろうね」
    「だがその間にルディに話を聞けるはずだ」
     ジャミルがそう引き継いだのに頷いてカリムは、デュースと視線を合わせた。
    「大丈夫だ。デュース。ルディは絶対オレたちが助ける! だからここで待っててくれ」
     頷いたデュースに、カリムは拳と握るとよし、と窓の外を見た。
    「行こう!」
    「の前に打ち合わせをするから待て、カリム」
     冷静なジャミルの静止にがく、とカリムは膝から力を抜く。
    「焦っては成功するものも成功しませんよ」
    「まず落ち着くんだね。カリム」
    「う、すまん……」
     反省したカリムに、だが場の緊迫が和らいで心地の良い緊張感へと変わる。
    「さて、落とし前をつけさせてもらいますよ」
    「マフィアみたいだよアズール」
     そのやりとりに思わず笑い、カリムは待っててくれ、ルディ、と心の中で呼びかけた。
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