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    花毒の呪術師2 前

    「お、あれ」
    釘崎の声に虎杖が振り向くと、廊下の向こうから春永がやってくるのが見えた。隣には五条が居て、何かを話しながら歩いてくる。二人はこちらに気づいて顔を向けるのに、悠仁は駆け寄った。
    「藤太さん、と、五条先生」
    「僕の方がついで?」
    何やら虎杖のセリフが不服だったらしい五条の言い方に、春永が苦笑する。
    「生徒に絡まないでください。五条先輩」
    馴染んだ様子の二人に仲が良いのだろうかと虎杖は二人を見比べた。
    「どうしたの?」
    柔らかく笑ってくれる春永に五条は肩を組むように腕を乗せて春永にのしかかる。
    「どんな関係か知りたい?」
    揶揄うようにその口元が意地悪く笑んでいるのに、虎杖はあっさり頷いた。
    「知りたい。仲良いの?」
    先輩後輩とは聞いていたが、気になっている人が虎杖を救ってくれた男と仲が良いのは気になるどころじゃない。好奇心とその他のなんだか判然としない感情にせっつかれて、虎杖は口を開いた。
    「良いよ。藤太は僕が可愛がって育てた呪術師だもん。逃げられたけど」
    「そうやって突っつくのやめてください。謝ったじゃないですか」
    はあ、とため息をつく春永は、それから少し後ろで眺めている伏黒と釘崎を見やる。
    「引き止めてごめんね。もう授業は終わったの?」
    「はい。寮に戻るところです」
    「私行って良いですか?やりたいことあるんで」
    「いいよ。あんまり羽目を外して遊ばないように」
    教師らしいことを言った五条の横をあっさりと通り過ぎていく生徒二人に、春永は微笑む。
    「またね。二人とも」
    「はい、失礼します。春永さん」
    「お先に失礼しまーす」
    二人を見送って、春永はいまだに自分の肩を組んでいる五条を見やる。
    「なんか俺にしか挨拶してませんでしたけど、好かれてるって言ってませんでした?」
    「みんな照れ屋だからねえ」
    「そうか?」
    思わず素直に口にしてしまった虎杖に、春永はくすくすと笑う。その春永から腕を離して、五条も数歩歩いて手を振る。
    「じゃ、僕もこれで。外泊は申請しないと駄目だよ。悠仁」
    「え?俺外泊する予定なんてないっすけど?」
    「だってさ。藤太」
    「昏倒させられたいんですか」
    呆れている表情に、なにかの冗談のようだが、春永には意味合いが分かったらしいと虎杖は首を傾げる。
    「五条先輩そういうのやめた方がいいですよ……」
    「あれ?マジで引かれてる?」
    しれっとそう返し、今度は僕も誘ってねー。なんて言いながら去っていった五条を見送り、虎杖は春永に向き直る。
    「悠仁って、吉野家大盛何杯いける?」
    「え?多分五杯は……」
    「なるほど。よく食べるね」
    くすりと笑って、春永は言った。
    「夕飯、食べに来ない?ご馳走するよ、悠仁」
    「それって藤太さんの家?」
    「そう。家」
    「良いの?俺結構食うけど」
    「だからさっき量を聞いたんだよ。それくらいのつもりはあったから、大丈夫」
    頷いた春永に、虎杖は頭を下げる。
    「ごちになります!」
    「はい。じゃあ車用意してあるから、行こうか」
    顔をあげると春永は楽しそうに笑っている。なんだかどきりとして、虎杖は頭に手をやった。



    大きなガラス皿に山盛りのサラダ。鍋にたっぷりの野菜スープにこれまた山盛りに作られたチキンライス。コンソメベースのライスもあるようだ。テーブルにはカセットコンロ。フライパンがのり、バターとたまごが用意されている。
    「オムライスだよ」
    「オムライス?」
    「嫌い?」
    「好きっす」
    即座に頷いた虎杖に、聞いてなかったから嫌いだったらどうしようって今思ったよ、なんて笑う春永は虎杖に言う。
    「とりあえず好きな方のご飯よそってちょっと待ってて」
    言われた通り最初はチキンライスを盛り、椅子に大人しく座った虎杖の目の前でたまごをかき混ぜると、火をつけたカセットコンロにバターを落とした。どうやらオムレツを作っているらしい、と、みるみるうちに、くるくるとフライパンの中でふわふわと跳ねながらオムレツができるのを虎杖は見つめる。フライパンを動かす手首が滑らかで、オムレツが魔法のように形になっていくのが面白い。虎杖も料理をするが、練習しないととても無理だと思った。
    「はい」
    チキンライスの山の上に大きなオムレツをそっと乗せた春永は、それからナイフでそっと中央をまっすぐに切る。とろりと開いたオムレツがライスに被さり、半熟の中身がとろりと流れる。その息を飲むほど美味しそうな光景に、虎杖は歓声を上げた。
    「すっご、藤太さんめっちゃオムレツ上手いっすね!?」
    「味も美味しいよ。五条先輩のお墨付きだから」
    あの人、ぼんぼんだから舌は肥えてるんだよね。なんて言う藤太に目を輝かせ、虎杖はスプーンを握った。
    「いっただっきまーす!」
    「はい、どうぞ」
    自分の分を焼き始めた春永を見つめながら、虎杖はオムライスを口に運んで目を輝かせる。
    「うっっっま!」
    「良かった」
    「これ市販のケチャップじゃないっすよね。なんかトマトが甘い」
    「ああ、分かるんだ。そうだよ。ちゃんとトマトソースを作ったんだ」
    作り甲斐があるね。なんて言われて虎杖は嬉しいと思いながら、春永がそんな手間をかけてくれたこともものすごく嬉しく、オムライスを頬張る。
    「たくさん食べてね」
    目を細めた春永に、うっす!と虎杖は遠慮する方が失礼だと頷いたのだった。


    食べ終わって、虎杖はリビングをぐるりと見回す。アパートかマンションだと思っていたのだが、春永の家は綺麗な真新しい一軒家だった。それに大きい。
    「藤太さんって一人暮らし?」
    「そうだよ。両親はもう他界してるから。……君と一緒だね」
    気を使わせないようにそう続けてくれたらしい春永に、虎杖は少しだけ踏み込んでみることにした。
    「呪術師の家系?」
    「そうなるかな。それほど優秀な血筋じゃないけど、何代かごとに呪術師を輩出しているのは確かだよ」
    へえ、と頷いて、虎杖は出されたほうじ茶を手に取る。
    「藤太さん、聞いてもいい?」
    「どうぞ」
    優しい声音にじゃあ、と虎杖は問いかけてみた。
    「藤太さんって、なんで呪術師に戻ってきたんすか?花屋が本業だったんすよね」
    「五条先輩に見つかっちゃったからね。まあ、僕は人を助けたいと思っているし、花屋の仕事もそこそこ満たされたから、覚悟を決めようかな、と言うところだったんだ」
    「見つかっちゃったって……」
    もしや、あの事件であの街に五条が来たせいか、なんて思った虎杖に、春永は微笑む。
    「それに、君の力になりたくて」
    「え?」
    「僕は五条先輩には到底及ばないけど、そこそこ頼りになると思うよ。サポートするから、頑張ってね」
    君の力になりたい、という春永の言葉を疑わずに素直に受け取った虎杖は、大きく頷いた。
    「はい!よろしくおねがいしゃす!」
    春永はにこりと笑う。
    「じゃあ寮に送っていくよ。今度は伏黒くんたちも混ぜてパーティしよう」
    そんな春永の言葉に、あ、と虎杖は思いつく。
    「俺、料理手伝えるんで、というか俺も藤太さんにご馳走したい」
    「え?」
    「爺ちゃんと二人ぐらしだったから、結構料理得意なんすよ。だから、えーと、台所借りることになるとは思うっすけど、俺にもご馳走させてください」
    その虎杖を目をすがめるようにみて、それから春永は頷いた。
    「うん。楽しみにしているよ」
    「じゃ、約束!今日はごちそうさまっした!」
    「お粗末さまでした」
    完食の虎杖に嬉しそうに笑って、春永は行こうか、と車のキーを取り出した。


    虎杖の背が見えなくなるまで見送って、春永は、車のところに帰ろうと身を翻し、それから驚いて足を止める。気配なく行手に立っていた五条は、軽い調子で口を開いた。
    「どう?殺せそう?」
    あまりにも口にするには鋭い問いかけに、春永は言葉に詰まった。
    「…………性格が悪いですよ」
    「自覚済みだからなんとも思わないねえ。で?どう?」
    逃がさないと言うように問いかけられて、春永は視線を逸らす。
    「良い子ですね。真っ直ぐだ。知っていましたけど」
    「死という永遠の春を与える処刑人の末裔、春永藤太くんにその良い子は殺せる?」
    「毒は効かないんですよね。俺には荷が重いですよ。……でも、すごく……慕ってくれているから、ただ殺すことなら簡単だと思います」
    苦しそうにそう表現した春永も、少なからず虎杖に思い入れがある様子であるのに、五条は満足そうに頷く。
    「だろうね。ま、春永の家が僕側についてくれてるなら、暗殺の心配もないと思って藤太に戻ってくるように声かけたんだよね」
    「……信頼してますよ。五条先輩」
    「まっかせといてよ」
    任せて良いのか心配になる調子だったが、その点に対しては、春永は五条を誰よりも信頼していた。
    約束しちゃったしね、と春永は思う。この胸のつかえは取れないだろうけど、約束を楽しみにするくらいは良いだろう。
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