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    「五条悟の唯一無二の悪敵の話」
    独自設定。なんでも楽しめる人向け。
    前に言ってた反呪術師の話。前半。

    五条悟という人間は、夏油にとってそれほど複雑な人間ではない。
    出会った当初こそ、その傲慢なふるまいも、幼稚な煽りや言動も腹を立てていたが、その育ってきた環境や、隠しきれない優しさめいたもの、つまり背景を知れば、嫌煙する必要はなかった。
    狭い世界にいたらしい五条の非常識な言動は感情に余裕があるときだけ指摘してやり、本気で我慢ならないことは殴り合いの喧嘩で対応することもある。人付き合いに関しては器用さを自覚している夏油と、そして適度というには若干ドライだが、放置することが出来る家入が五条の同期だったことは、彼にとって幸いだっただろう。
    基本的に健やかな人間だ。悪感情を持つこともなく、子供っぽく根に持たれることもあるが、禍根を残すことはない。
    さっきもそうだ。
    五条の強引で下手をすれば怪我するような術式任せの攻撃を指摘して、喧嘩になった。夏油の煽りで無下限呪術を解かせての殴り合いに持ち込んで、お互い遠慮のない拳と蹴りに唇の端を切り、頬を晴らしたところで、夜蛾に見つかり、説教を受けたところだった。
    見物していた家入に頼み込んでファストフード店での奢りと買い物の荷物持ち引き換えに治癒してもらい、ようやく一息ついたところだった。
    遠慮なく手を出したせいか五条はけろりとしており、夏油ももう思うところはない。解決したかと言われると、まあ伝わったかな、と思っている。
    だから、そんな人間だと思っていた。

    「ったくお前たちは」

    傷が癒えたのを腕を組んで見守っていた夜蛾はそう呆れたような声を出す。任務で誰も今日はいなかったため、夜蛾が教室に戻ってくるのが想定外だったが、泥試合に持ち込まれそうだったのでちょうど良かったといえばそうだ。

    「悟」

    教室を出ようとしていた背後から夜蛾に呼びかけられて、五条と、つられて夏油も振り返る。

    「悪い知らせだ」
    「は?」

    その話をしに来たらしいと夏油は察した。不穏な夜蛾の言葉に眉を顰めた五条は、それから次の瞬間、目を見開く。

    「東勝絢那が帰ってきた」

    言葉を失った五条に夏油はただならぬものを感じた。五条の瞳に激情の炎が灯るのを見て、夏油は目を見張る。およそ、見たことのない負の感情を宿した五条に、その名前に何があるのかと夏油は夜蛾を見やった。

    「東勝絢那は呪詛師だ。術式は不明。呪力のコントロールをするようだが、詳細は分かっていない」

    夏油の視線を受けて夜蛾が説明をする。呪力のコントロールがどんなことを意味するのかその説明だけではわからなかったが、尋常じゃない術式であることは予想がついた。

    「10年前から活動しているようだ。現れた先で多くの呪術師が殺されている」
    「俺を、唯一、殺せた奴だ」

    言葉を引き継いだ五条の声がひどく低い。たったそれだけの言葉でもその声に潜む感情の重さにこちらも心臓が冷えそうなほどだ。

    「俺の周りにいた、護衛役の人間が8人殺されてる。俺は見逃された」

    声に滲むのは屈辱と怒りだった。五条がプライドが高いのは夏油はよく知っている。生まれの誇りというよりは、自負の意味合いが強いことも知っているが、その五条がそう口にするほどの相手にとはいったいどんな人物なのだろう。五条の護衛役ならば、五条に連なるものであり、それなりの実力があるはずだ。それなのに、それほどの人間を8人も殺しおおせ、そして7歳とはいえ五条悟すらを下して見せたということになる。

    「許さねえ」

    普段の五条からは想像がつかないその様子に、夏油は安易な言葉を口にするのはやめた。何も知らない夏油が口を出すべき空気ではなかった。

    「出遭ったらその時は──」

    言葉の先を聞かずとも夏油には分かった。歯を噛みしめるように口をつぐんだ五条に、空が黒い雲に覆われていくような、そんな予感がしてならなかった。


    ※※※


    嫌な名前を聞いた。
    五条は寮の自室に帰り、目には見えない癒えない傷の上を撫でるように目を閉じる。
    焼け付くような痛みが、今もなお悪夢のように脳裏に刻み込まれている。
    それは、10歳の誕生日より三日後の話。
    あれほど色彩が鮮やかな世界を始めて見た。
    六眼が力を失った世界は、見たこともないほどに美しかった。周囲に飛び散ったおびただしい赤も、地面を黒く黒く染め上げて、倒れ伏した護衛達の着物の色も、肌も。空も庭木も建物も、全て。綺麗で。
    その中で一人だけ平然と立っている白い着物の男が、自分をしげしげと眺めているのに、目を戻す。
    涼し気な表情をしたまだ30には届いていなさそうな男だった。整った容貌は、だがあくがあり、悪役ばかりを演じる俳優を思い浮かべるような佇まいだ。
    呆然と立ち尽くす。

    「お前が殺したのか……?」
    「そう見えるか?」

    ふざけたような返答が返ってきたのに、すぐさま男を攻撃しようと呪力を意識して、何も感じ取れないのに目を見開いた。あれほど自分と共にあった呪力が感じられない。それどころか、世界に呪力が存在していない。

    「な……んで」

    何が起こったのか理解できなかった。通常の景色に呪力の濃さが乗ったように見える世界しか知らない。こんな色彩ばかりが豊かな世界は知らない。

    「さあ、お前が何に驚いてんのか、俺には分かんねェなァ」

    低く揶揄うような声音で男は言う。その手に握られ、男を支えている杖に目を止めた。丸い持ち手は銀色をしている。何の鳥かは分からない灰色の長い尾羽が揺れていて、杖自体はうっすらと赤みのある黒だ。

    「ただ、こいつらはお前のせいで死んだ」

    それは悪意だった。軽い調子で口にされた言葉に潜むのは、嫌悪を抱かせる悪意だ。笑いながら傷つけるかのように、男は言った。

    「っ…………」
    「俺はお前を見に来たから、俺が殺したんならお前のせいだろうよ。ガキ」
    「お、まえ……ッ」

    杖を持っているなら足が悪いはず。大人を呼ぶべきとは分かっていたが、沸き上がった怒りに気づけば地面を蹴り、男に飛び掛かって──、そして気付いた次の瞬間には地面にたたきつけられていた。杖で足を払われ、突かれたのは見えた。早すぎて体がついていかなかった。

    「うっ……」

    突かれた腹がひどく痛んで、だが敵の前で無様に転がっているのだけは許せなかった。無理に身を起こしたその眼前に、杖の先が突きつけられる。
    奇妙なことに、その先端には穴が開いていた。まるで銃口だ、そう思ってから、男の親指の下に、スイッチのようなものがあるのに気付く。

    「仕込み杖なんだよ。カッコイイだろ?さあ、詰みだなァ。ガキ」

    銃口だと気づいたことが分かったのか、ぐり、と額に杖の先端を押し付けられる。男があの簡素な装飾の施されたスイッチを押されれば、あっさりと自分が死ぬことを理解する。今まで生きてきた中で、命の危機なんて死ぬほどあった。だが、こんなあっさりと自分が膝をつく状況は一つもなかった。護衛達は五条の家に関係する呪術師だから強かったし、何より自分だってそうだった。死なないと確信があった。なんでも見えた。誰も自分を欺けなかった。死ぬことなんてないと高を括っていた。呪術師なんて、きっと本気の自分には誰も勝てないだろう、なんて、思って。

    「敗北の味、もしかしてハジメテだったか?」

    くつくつと笑う男に握り締めた拳が震える。
    「処女みたいに散らされた感覚も悪くねェだろ?つってもガキなら通じねえか。六眼と無下限呪術で気分が良い人生に、苦渋飲ませて悪ぃなァ」
    嘲笑うというよりも、面白がっている声により侮辱されているようだ。こんな言葉を投げかけられたことなんてない。なにより、自分が下に見られている経験なんて、初めてだった。どんな敵も自分の六眼を警戒していた。でも、今は何の役にも立っていない。
    黒い髪に黒い瞳の男のその色が、憎悪の色彩になっていく。死ぬことよりもこんな屈辱を受けていることが我慢できなかった。何かしら噛みついてやりたくても、額に押し付けられる銃口に身動きが取れない。
    と、男はあっさりと銃口を離した。
    何のつもりだと男を見ると、男はくつくつと笑う。

    「そう仇を見るような目で見んなよ。言っただろ。見に来たって。殺すつもりはねェんだ」

    それから信じられないほど無防備に身をひるがえして背を向ける。その無防備さが五条を侮っているのを示していて、ぎりぎりと心臓が怒りで締め付けられる。

    「待て!」

    何とか立ち上がって叫ぶと、男はちらりと流し目を送ってくる。

    「東勝絢那。知りたいのはこれだったか?じゃあな、ガキ」

    立ちさっていく男に、殴りかかる気力はなかった。男の姿が見えなくなったと同時に、世界に呪力が戻ったのを感じる。六眼は変わらず呪力をまとう世界を見せてくれる。今なら無下限術式だって使える。
    でも。
    地面に散らばるように死んでいる自分の護衛たちに歯を噛みしめて俯いた。出かけるのが嫌だと駄々をこねて、庭で待っていた護衛達の前にようやく顔を出して、この惨状だった。
    やがて惨状に気づいた五条の家に仕える女の悲鳴で、事は露見する。
    あなただけでも無事でよかったという母親の言葉に、頷くことなどできなかった。


    初めて折られた経験。
    いまだに六眼が機能していない世界のあの赤が鮮明だ。
    海外で活動しているという風のうわさは聞いていたが、日本に戻ってきているらしい。
    随分とうまくなったはずの感情のコントロールが上手く行ってない。呪力を乱すなんて五条の人間ならあってはならないことだが、あの哄笑する悪意のような男のことを考えると、普段感じたことがない憎悪の感情が頭をもたげる。
    らしくはないと思いながらも、幼いころに植え付けられたこの感情を、殺す手段が五条には見つからないのだ。
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