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    きよう

    @kiyou_nn

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    きよう

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    にょた作ちゃんが嫉妬であいちゃんと拗れる話です。山緒さんにアドバイスいただきながら書きました。

     授業が終わり、いつものように教室を出る。放課後の廊下を歩いていると、窓から校門の手前に小さな人だかりができているのが見えた。
     そのほとんどは女子のようだが何があるのかはここからではよく見えない。ただ人が集まっているだけなら特段興味は無いので通り過ぎるところだったのだが。
    「あ、来た!遊作ー!!」
     もうすっかり耳馴染んだ声が俺の名前を呼ぶ。そして人だかりの中からは思い浮かべた通りの人物が出てきた。ここにいるはずのないその人物に思わず声を零す。
    「Ai、どうして学校に…」
    「買い物終わったら授業が終わる少し前だったから寄ったんだ。一緒に帰ろうぜ」
     にこにことそう言いながら買い物袋を見せてくる。校門で生徒に囲まれていたのは今日は掃除をしたいからと家に残ったAiだった。真っ直ぐこっちに向かってきたものだからAiに集められていた視線が自然と俺の方に向けられる。校門付近にいる生徒全員に見られるのは居心地が悪い。
    「それは構わないが…無駄に目立つな」
    「えー、俺待ってただけだって」
     文句を言えばAiが口を尖らせる。学外の人間なら待っているだけでも人の目線を集めることくらい分かるはずだ。デュエルディスクは持ってきているのだから終わって暇ならそっちに来ればいいのに、何故わざわざSOLtiSで。
     草薙さん曰くAiは一般的に美形の部類に入るらしく、それに加えて親しみやすい物言いから人に好かれやすい。それで女子達が周りに集まっていたのだろう。たくさんの女子生徒に囲まれていたAiを思い返すと、ちり、と胸に何かが走った。
    「帰るぞ」
     投げ捨てるように言って、Aiに背を向けて歩き出す。そんな俺をAiは慌てて追いかけてきた。
    「遊作何か怒ってる?」
    「別に」
    「怒ってるじゃん。嫌なことでもあった?」
    「違うと言ってるだろう」
     しつこく聞いてくるAiに自分でも無愛想と分かるような言葉を返す。嫌なこと、というAiの言葉は合っている。Aiが女性に囲まれているのが嫌だった。Aiが彼女達と話すのが嫌だった。でも、何よりも嫌になるのはこんなことを思う自分だった。

     帰ってからもさっきの光景が忘れられず、気を紛らわせるために今日出された課題に手をつける。けれどどうしても気が散って何度も手が止まってしまう。これではいつまで経っても終わらない。そんなふうにして過ごしていると、夕飯を作っていたAiに呼ばれた。
    「遊作、ご飯できたー!」
     食卓に向かうと既に食事の用意が整えられて向かい側にAiが座っている。今日はねー、なんて作ったものの説明をされるが頭にはほとんど入ってこない。こんな気持ちを抱えたままではAiと顔を合わせるのも何だか気まずい。それでも食事の時くらいはなるべく考えないようにしようと思いながら手を合わせた。
    「なあ、放課後のことなんだけど」
     黙々と夕食を食べていると、そんなふうにAiが正に今考えないようにしようとしている話をピンポイントで蒸し返させてきた。わざとやっているのかと思いかけて、いやそんなこと知らなくて当たり前なのだからと苛つく気持ちを抑えて返事をした。
    「しつこい、何も無い。怒っていたように見えたならお前の勘違いだ」
    「ふうん。何も無い、ねぇ」
     俺の答えにAiが不満げに眉を顰める。納得がいっていないのだろう。自分でも下手な誤魔化し方だと思う。いつもならこれが美味しいだとかじゃあまた作るだとかそんなことを話すのに、それ以降無言のままなるべく急いで食事を済ませた。Aiの作る食事はいつも通り美味しいし、こうやってAiが話しかけてくるのだっていつものこと。違うのは俺だけだ。
    「ごちそうさま。今日は疲れているから早く寝る」
     そう言って空になった食器を持って席を立つ。あからさまにAiとの会話を避けている俺に対して不満そうな目線を送るAiを横目に食器を洗った。

    「絶対何かあるじゃん…」
     本当に早くにベッドに入ってしまった遊作を見つめながら呟く。今日の遊作は変だった。口数は多い方ではないけれど、こんなふうにあからさまに会話を避けられることは初めてだ。課題だっていつもならさっさと終わらせてしまうのにやけに時間がかかっていたし。
     やっぱりおかしいと思って、今日の遊作のことを振り返ってみる。様子がおかしくなったのはたぶん、俺が迎えに行った時くらいからだ。あの時何か変わったことがあっただろうか。俺が生徒達に質問攻めにあって、少ししたら遊作が来て、そのまま帰って…うん、それだけだ。俺が女の子に囲まれてたから嫉妬したとか?いやまさか、遊作に限ってそんなこと。ありえないとそんな考えを打ち消す。
     あと思いつくのは校門で思いっきり目立たせてしまったことくらいだ。本当に大人しく待っているつもりだったし、あそこまで生徒が寄ってくるのは予想外だったのだ。あの場にいたほとんど全員が一瞬だが遊作を見ていた。目立つことが苦手な遊作には耐え難い苦痛だったのかも。それで怒ってしまったのかもしれない。
     明日謝ろう。そう思って俺も遊作に合わせて早めにスリープモードに切り替えた。

     翌日になってもまともにAiと話すことができなかった。昨日の夕飯の時のことも手伝って、顔を合わせられないまま登校の支度をする。会話をしたのは家を出る直前だけだった。
    「今日はこの前遊作が気に入ってたおかず入れてあるぜ」
    「そうか」
    「なあ、遊作…」
    「いってきます」
     差し出された弁当を受け取って、何かを言おうとするAiの言葉を遮り扉を閉めた。
     自分と同じように登校する女子生徒達を見る。アレンジされた髪に可愛らしい仕草。同じ年頃、同じ性別でも自分とは全く違う。女らしさは余計なものだと切り捨てた。可愛げなんてどこにも無い。俺はああはなれない。
     自分は異性に好かれるような女ではないのだろうと思う。そんなふうになりたいとも思わなかった。でも、Aiも"そういう相手"を作るならああいう子達の方がいいのだろうかと考えてしまうのだ。そして自分はそうなれないとも。だからと言ってAiに女性と親しくならないでほしいと思うのは間違っている。なのにそれを願ってしまう自分がどうしても消えない。

     帰っても朝と同じようにAiが何かを言おうとする度に逃げて、最低限の言葉しか交わさず一日が終わっていく。そんなことが何日も続いたある日。
    「遊作、何かあったのならちゃんと言えよ」
     食事の後、また黙って立ち上がろうとする俺の手をAiが掴んだ。その声は不安そうで、顔を見なくても心配してくれているというのはすぐに分かった。
    「だから何も無いと何度も…」
    「そんなわけないだろ。今日こそ聞き出すからな」
     こんな気持ちを抱いているなんて知られたくない。放っておいてほしい。そう思った瞬間勢いよくAiの手を振り払った。
    「黙れ!俺の気持ちも知らないくせに!!」
     冷静になったのはそんなことを言い切ってしまった後だった。
    「あ…今のは…」
     慌てて見たAiの顔は酷く悲しそうで。そう言えば、まともに顔を見たのも久しぶりかもしれない。声をかけようとしたがすぐに口を噤む。自分勝手に悲しませた張本人がいったい何を言うというのだろう。
    「すまない…頭を冷やしてくる」
     それだけ言って、スマホをポケットに入れて家を飛び出した。

     外に出たところで行くあてもなく、夜の公園でひとりスマホを握りしめる。家を出た時には夕空が広がっていたのに、今目に映っているのは煌々と輝くビルの明かりだ。Aiからの連絡を何度も知らせるスマホの画面には了見の名前が表示されている。
     どうしてあんなことを言ってしまったのだろう、ただの八つ当たりでしかないじゃないか。その前からのAiへの態度のことも思い返してさらに落ち込む。
     そうやって自責の念に駆られているとコールの音が止み、了見の声が聞こえてきた。
    「何の用だ。わざわざ電話をかけてくるということは緊急事態なんだな」
    「…すまない、やっぱり何でもないんだ」
     よくよく考えればこんなこと、了見には関係無い。Aiのことでトラブルがあれば報告していたから、つい癖で電話をかけてしまった。通話を切ろうとして待て、という言葉にぴたりと手が止まる。
    「話を聞くくらいの時間はある」
     そんな了見の申し出にしばらくの間何も答えられずにいた。でもそんな俺のことを黙ったまま待っていてくれて、実は、とぽつりぽつりと話し始めることができた。あの放課後のことからついさっきのことまで。今の俺の見苦しい気持ちも。その間もやはり了見は何も口を挟まずに話を聞いていた。
    「Aiのことが好きだ。この気持ちの抑え方が分からない」
     Aiの一番になりたい。ぐちゃぐちゃになっていた気持ちを整理して出た答えだった。けれどそれは自由でいてほしいという最初の想いと矛盾している。
    「事情は分かった。だがそれは当人同士で話した方がいいだろう」
    「全部聞いてたからな、遊作」
     了見の言葉の後に違う声が続く。スマホを介していないそれが聞こえてきた方を見ると、Aiが公園の入口で仁王立ちをしている。どういうことだと言おうとするとぷつん、と音を立てて通話が切れた。
     ずんずんと歩いてきたAiはむっとした顔で俺の隣に座る。もういい加減逃げる訳にはいかないと腹を括って口を開く。
    「勝手に避けて、あんなことまで言ってすまなかった」
    「それはいいよ。俺が怒ってるのは俺には何も言わないのに了見に相談したこと」
    「…Aiには知られたくなかった、こんな気持ちは間違っている」
     言ってしまえばAiは本当に叶えようとしてしまいそうで。それはAiの繋がりを断つ行為だ。そんな願いを、そして少しでも願ってしまった自分を知られるのが嫌だった。
    「間違ってなんかない。嫉妬なんて誰だってするものだろ」
     嫉妬、というAiの言葉が胸にすとんと落ちる。そしてその次に浮かんできたのは独占欲。大切な人達に自分より大切な人がいるのは当たり前で、それに対してどうこう思うことなんてなかった。けれど、Aiに自分以上の存在ができることを嫌だと思ってしまう。独占欲とはこういうものなのだろう。やっぱり、この気持ちは間違っている。
    「お前をこれ以上俺に縛り付けたくないんだ。心配をかけたのはすまなかった。これからも今まで通り…」
     今まで通りでいようという言葉はAiの声に遮られた。
    「ああもう、このわからず屋!」
     大きな声が静かな公園の中に響く。
    「期待させたんだからつべこべ言わず責任とれ!!」
     不満たっぷりというようにそう言うAi。突然のことで何を言われているのか理解出来ず返事ができないまま呆けていると、そんな俺に構わず更に勢いよく言葉が続けられた。
    「俺は遊作が大好きで大好きで仕方ないからこうしてんの!まず俺のこと好きなら俺に言えよ!なんで他所の男への言葉で告白聞かなきゃいけないんだよ!?それに嫉妬なんて俺だっていくらだってしてるから!」
     全部一気に言い切ったAiは言ってやったとでもいうような顔をしていた。満足そうなAiに対して俺は困惑で頭がいっぱいだった。とても大切なことを言われた気はする。何を言えばいいのか分からずにいると、先にAiが話し出した。
    「遊作、聞いて。俺は遊作が大好きだから遊作のために何かがしたい。それは俺の意思なんだ。遊作は俺の意思を否定するの?」
    「そういうわけじゃ…ない」
     Aiの口調は穏やかなものに戻っていた。答えるとうんとAiが頷く。
    「俺は遊作がそんなに何かを好きになってくれたことが嬉しいよ。その何かが俺だったらもっと嬉しい。だから、遊作が今思ってることを言って」
     Aiにそう促されて、3つを言い始める。
    「…1つ、Aiの隣にいるのは俺がいい」
    「うん」
    「2つ、Aiの1番でいたい」
    「うん」
    「3つ、こんな俺でも…受け入れて、欲しい」
     たどたどしく3つ目を言って俯く。こんな我儘をAiに言うつもりなんてなかったのに。そう思っていると頭の上に手が置かれて、そのまま撫でられる。
    「よく言えました。俺の隣は遊作の特等席だし、俺の1番は遊作だし、そう思ってくれる遊作のことを俺は愛してる」
     顔を上げると、そう言ったAiは嬉しそうに笑っていた。
     少しの間そうしてから、Aiは立ち上がると俺に手を差し出す。
    「帰ろっか」
    「ああ」
     その手をとって、ふたりで帰路に着く。手を繋いで歩くなんて普段なら絶対にお断りだが、今はどうしてかまあいいかなんて思えた。
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