サクラ「見てくれ、ファング、アーモンドの花だ!」
こんなにたくさん、と木の下でくるくる回ると、ファングが溜息がちに肩を落とす。
「サクラだ。ちょっと違う」
「ふうん、違うんだ?」
ほんのり薄ピンク色の、優し気な花びらが舞う。おいしそうな匂いがする。花びらはきっと食べられないけれど。
「オレだって詳しいわけじゃねーよ」
「まあ、そりゃそうだよね」
ファングが花に詳しいだなんて、そんなハズがない。仕事で庭園に寄ったって、見向きもしないんだから。セブンだって笑うはずだ。
「……あ」
「どうしたの?」
「バラ科だな、アーモンドもサクラ」
「へえ」
胸の紋章が躍る。僕らは薔薇に囲まれて生きている。血を吸って真っ赤な、絢爛な花。
「どっちだっていいや。依頼者もターゲットも、この花を知らずに死んでいくんだろうから」
地面に落ちた花びらを掬って、ぱっと頭上に広げる。ヴェールみたいだ、と笑みがこぼれた。眉間に皺を寄せているファングは心底不機嫌そうで、僕のお遊びが終わるのを待っている。
「気が済んだかよ」
「そうだね。あ、ファング」
ついてる、と言って、彼の髪に触れた。嫌がられたけど仕方ない。花びらが新しいチャームポイントになってしまうよりよっぽどいいだろう。
「……ね、花の命って、短いよね」
「オマエはしぶといだろーよ」
「どういう意味!」
儚げな花の影から覗く鋭い眼光に、そういうキミもね、と返す。僕たちは地獄行きは決まっているけれど、まだ当分行く予定はない。
「……ね。地獄で会ったら、キスしようね」
「ハッ、誰が」
僕の頭から花びらをひとつ摘まんで払った彼の手を取って、木々の真ん中まで歩いた。
「誓いのキス」
「それよりタバコが吸いてえ」
「僕の唇より重要なワケ?」
そんなことより、と遠くの匂いを嗅ぐファングに、ハイハイ、と返事をする。僕らは、今日も明日も、血まみれの花。
僕たちの胸に散る真っ赤なシルシは、空から舞う薄ピンク色では隠せなかった。