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    kurautu

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    kurautu

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    一週間ドロライさんよりお題「クリスマス」お借りしました!
    雨とクリスマス 初めての恋にあたふたしてほしい

    #雨想
    fleetingThing
    #雨想版一週間ドロライ
    amesoVersionOneWeekDororai

    雨は 冷たい雨が凍りついて、白く儚い雪へと変わる。そんなことは都合よく起きなかった。僕はコンビニの狭い屋根の下で、雑誌コーナーを背中に貼り付けながら落ちてくる雨を見上げていた。
     初めてのクリスマスだ。雨彦さんと僕がいわゆる恋人同士という関係になってから。だからといって浮かれるつもりなんてなかったけれど、なんとなく僕たちは今日の夜に会う約束をしたし、他の予定で上書きをする事もなかった。少しだけ先に仕事が終わった僕はこうして雨彦さんを待っている。寒空の下で。空いた手をポケットへと入れた。手袋は昨日着たコートのポケットの中で留守番をしている。
     傘を差して、街路樹に取り付けられたささやかなイルミネーションの下を通り過ぎていく人たちは、この日のために用意したのかもしれないコートやマフラーで着飾っていた。雨を避けている僕よりもずっと暖かそうに見えた。視線を僕の足元へと移すと、いつものスニーカーが目に映る。僕たちがこれから行こうとしているのは、雨彦さんお気に入りの和食屋さんだ。クリスマスらしくたまには洋食もいいかもしれない、なんて昨日までは考えていたけれど、冬の雨の冷たさの前には温かいうどんや熱々のおでんの方が魅力的に思えてしまったのだから仕方がない。
     スマホの画面を確かめてみたけれど、雨彦さんからのメッセージは届いていなかった。出発をしたという連絡はもらっているのだから心配はしなくていいのだけれど。落ち着かないな、と溜め息をつく。白く浮かんだ息がふわりと溶けていく。
     雨彦さんは、どうなんだろう。こんな風にそわそわと……そう、そわそわとしている、僕は。認めたくはないけれど、認めない方が情けないような気もする。雨彦さんがこうなっている所は想像ができなかった。見た目よりも完璧ではないという事を僕は知っているし、知っているから、こうなっているわけなのだけれど。だとしてもやっぱり雨彦さんは十分に落ち着いた大人だった。こういう時に、かっこいい事をさらっとやってしまう姿が似合うと思ってしまうぐらいには。でも、かっこいい事って例えばどんな。いくつか思いついたそれはどうにもキザすぎて、多分、雨彦さんでもさすがにちょっと似合わない。
     とりとめのない空想を浮かべては散らしていく。雨は少し弱くなったけれど、相変わらず寒かった。マフラーに鼻から下をうずめる。スマホをまた取り出してみたけれど連絡はない。さっき確認をしてからたいして動きがあるわけでもないSNSを開いて、なんとなく画面に指を滑らせてみる。……遅いな、雨彦さん。

    「北村」

     その響きだけで、それが誰の声かを考えるよりも、わかるよりも先に僕は顔を上げた。濡れたアスファルトはイルミネーションの明かりを弾いて星空のように見えた。深い色の傘をさした雨彦さんはその中に立っていた。星を抱えている、と思った。白い息が寒さで赤らんだ鼻先を撫でていく。僕の視線に気がついたのか、雨彦さんは片腕に抱えたものを少しだけ掲げて見せた。

    「クリスマスなんでね」

     キラキラとしたパッケージのお菓子を溢れそうなほどに詰めた長靴が、そこに描かれたサンタクロースが、挨拶をするようにぴょこんと揺れた。雨彦さんはその長靴を僕に差し出した。傘を差していない僕は両手でそれを受け取った。サンタクロースとその隣にいたトナカイの丸い目が僕を見上げている。

    「ありがとうー。……寒空を、眺め揺られるトナカイとー。袋に入れてもらえばよかったんじゃないかなー?」
    「ああ……まあ、そうだな、そう思ったんだが、それもなんとなく味気なくてな」

     傘を閉じて僕の隣に立った雨彦さんは、少しぶっきらぼうにそう言った。雨彦さんは手袋を外そうとしたのか右手を持ち上げて、けれど結局外す事はなく下ろした。それだけと言えばそれだけの仕草。だけど、もしかして、雨彦さんも僕と同じなのかもしれないと思った。少しだけ特別な日の待ち合わせに、うまく馴染めずにふわふわとしているような。僕はここに来た時の雨彦さんのように長靴を片手で抱えた。傘を開く。

    「行こうか、雨彦さん」

     雨の中に踏み出した僕を見て、雨彦さんは目を瞬かせた。

    「……そのままでかい?」
    「雨彦さんと同じだよー」

     浮かれている、という自覚はあるけれど。明日の朝思い出して、頭を抱えそうな気もするけれど。でも、雨彦さんだって人の事を笑えないのだからいいのだ。恥ずかしい二人でいい。こんな日ぐらい。
     雨彦さんは目元を緩めて、さっき閉じたばかりの傘を開いた。ぱらぱらと鳴る音は、目を閉じてしまえば星の降る音にだって聞こえるのだろう。

    (END)
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    kurautu

    DONE2020年4月頃の話。こちらの世界と同じ事が起きています。
    REBOOT 部屋はもうすっかりキレイになっていた。まるで雨彦さんが掃除をしてくれたみたいに。テレビもつけずに、スマホを手に取る事もせずに、僕は畳の上に転がって天井を眺めていた。少しだけ開けた窓からは爽やかな風が流れ込んでくる。今すぐ電車に飛び乗って、あてもなくふらりと、どこかへ。そんな気分になる季節だった。それが叶うだけの時間もあった。だけど、できなかった。目に見えないそれはどこを漂っているのかなんてわからないのだから。
     大学の授業は休講になった。決まっていた仕事も軒並み延期か、中止になった。予定していたライブも……やりたい、だなんて、言えるはずがない。レッスンすらできずに僕たちはそれぞれの場所にいた。こうなる前に、最後に丸一日家から出なかったのはいつだっただろう。何をしようかと楽しみにしていたあの時の気持ちは今の僕の中にはなかった。読みたい本はたくさんあるけれど、観たい映画もあるけれど、今はそれを心から楽しめる自信はない。こんな気持ちで触れるのはどうしても気が進まない。そうやってたくさんの選択肢を潰した結果、僕はこうして何もせずに転がっていた。時間が過ぎていく。焦るというよりももっとぼんやりとした、けれど大きな何かが体ごと押さえつけているようだった。
    4706

    kurautu

    DONE王子様としての一歩目の話です。みのりさん誕生日おめでとう!
    おうじさまのはじまり 足の裏に伝わるのは硬い床の冷たさだ。大きな窓から降り注ぐ光は明るいけれど、広々としたこの場所の空気を温めるのには時間がかかる。開場して人が集まれば消えてしまう温度を存分に味わう事ができるのは、出演者である俺たちの特権だ。俺たちといっても、今ここにいるのは俺だけだけれど。
     夢の中だった。裸足で歩いている俺も、スタッフさんの声一つ聞こえないこの場所も、ありえないのだと知っている。それならばいっそ、この空間を楽しむだけだ。願えば床を一蹴りするだけで簡単に飛べそうだけれど、俺はそれを選ばなかった。それよりもここを歩いていたかった。
     穏やかな日差しの中に並ぶフラワースタンドを一つ一つ眺めながら歩いていく。夢の中のフラワースタンドたちは、俺が目を覚ました世界のどこにもない。だからこそ目に焼き付けたい。作り出しているのは俺の記憶だとしても、それを作り上げているのは今までに触れた花たちだ。もらった花、贈った花、誰かが贈るための手伝いをした花。花の中には俺たちの名前も、俺の名前も掲げられていた。それを当たり前のように思い描けるほどに、たくさんの気持ちを受け取ってきた。手を伸ばして花に触れれば、水を含んだ冷たさが伝わってくる。大事な舞台を前にした緊張と高揚をそっと鎮めてくれるような温度だ。
    1937

    kurautu

    DONE一週間ドロライさんよりお題「クリスマス」お借りしました!
    雨とクリスマス 初めての恋にあたふたしてほしい
    雨は 冷たい雨が凍りついて、白く儚い雪へと変わる。そんなことは都合よく起きなかった。僕はコンビニの狭い屋根の下で、雑誌コーナーを背中に貼り付けながら落ちてくる雨を見上げていた。
     初めてのクリスマスだ。雨彦さんと僕がいわゆる恋人同士という関係になってから。だからといって浮かれるつもりなんてなかったけれど、なんとなく僕たちは今日の夜に会う約束をしたし、他の予定で上書きをする事もなかった。少しだけ先に仕事が終わった僕はこうして雨彦さんを待っている。寒空の下で。空いた手をポケットへと入れた。手袋は昨日着たコートのポケットの中で留守番をしている。
     傘を差して、街路樹に取り付けられたささやかなイルミネーションの下を通り過ぎていく人たちは、この日のために用意したのかもしれないコートやマフラーで着飾っていた。雨を避けている僕よりもずっと暖かそうに見えた。視線を僕の足元へと移すと、いつものスニーカーが目に映る。僕たちがこれから行こうとしているのは、雨彦さんお気に入りの和食屋さんだ。クリスマスらしくたまには洋食もいいかもしれない、なんて昨日までは考えていたけれど、冬の雨の冷たさの前には温かいうどんや熱々のおでんの方が魅力的に思えてしまったのだから仕方がない。
    1915

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