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    かわな

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    かわな

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    令和悪魔くん。一郎×メフィスト3世

    出会ったばかりのころの話。ご都合主義

    #令和悪魔くん
    #🥞🎩

    魔法の布巾は上の棚の奥の奥/🥞🎩「お茶請けにはホットケーキがいい」
    そう言ったのは悪魔くんだった。
    出会って三日ほど経った、天気の良い昼下がりのことだ。
    パパとおじさんに引き合わされたのはいいけれど、いったい何をしたらいいのかまだつかみ切れていなかったおれは、なんとなく体にまとわりついてくる居心地の悪さを脱ぎ捨てようとした結果、おやつでも食べようかな、なんて言った。それに対して返ってきた言葉がお茶請けにはホットケーキがいい、だ。まあ、たしかにホットケーキはおいしい。
    「それって、焼けってことかよ」
    「ほかになにがあるんだ? おやつにしようと言ったのは、君じゃないか」
    「それはそうだけど、だれも作るなんて言ってないだろ」
    「そうなのか。じゃあ、チョコバーを買ってきてくれ」
    「いやなんでだよ!」
    おかしくないか? オレはただ、おやつでも食べようかな、と言っただけだ。誘っちゃいない。いや、誘う気はあったけど。気まずかったし。
    でも、さも当然のようにリクエストを要求し、さらには買いに行かせようというのはわがままがすぎるだろ。絶対にそうだ。横暴すぎる。しかも、顔も上げやしないで当然のような口ぶりで言うからムカッとくる。せめて目をみろ、こっちみろ!
    朝から晩までずっと本を読んでいる。たまにラジカセから音楽を流す。パパにもたせてもらったおにぎりとお茶で昼食にして、また本を読む。まだ部屋には開けてもいない段ボール箱がいくつもあるのに、まったく気にも留めない。この三日間、その繰り返しだ。
    なにかしら二人でするべきだろうに、今のところ会話さえうまく成立しない。きっとこいつは、眩しそうに目を細めていたらカーテンを引いて、日が暮れたときにオレが電気を点けていることさえ知らない。
    ため息を吐いた。呆れて立ちあがる。
    すると、悪魔くんが今日初めてちらっと視線を寄越した。
    「なんだ、焼くのか」
    あ、カチンときた。
    「あー、そうだよ。材料買ってくる!」
    おまえが言ったんだろ、ホットケーキが良いって! どっちみち買い物に行かなきゃならないのなら、食べたいほうが良いじゃないか。ついでにチョコバーも買ってきてやるよ!
    ムカムカする気持ちを宥めながら、必要になるかもしれないからとパパにもらったエプロンのひもを乱暴にほどく。はぁーあ、とため息を吐こうとしたき
    「上の棚にある」
    と、悪魔くんがなんともないふうにさらっと言った。
    「は? なにが?」
    「材料だ」
    「へ? うそ?」
    「うそを言ってどうする」
    「いや、だって掃除したときは……」
    ソファにエプロンを投げおいて、飛び出すようにキッチンに向かう。ここに来たとき、パパたちは必要なものは仕舞っておいたよ、と言っていた。フライパンや鍋、包丁、ボウルは下の棚だからね。上の棚は空いているから好きに使いなさい。にこやかなパパたちの言葉を思い出しながら、部屋の隅に置いてあった脚立を持ち出した。
    踏み台の上に足を乗せ、踏みしめる。手を伸ばし、勢いよく棚の扉を引く。うわっ、と声がでた。
    「ま、まじかよ……というか、ホットケーキミックスばかり、多すぎるだろ」
    脚立に乗ってもまだ奥まで覗き込むことができない高い棚の中に、赤が目印の見覚えのあるパッケージが数えるのも億劫になるぐらい重ねてある。パパたちが言っていたスペースなんてものはまったく見当たらない。
    とりあえずミックスを一つ取り出して、まさかと思いながら冷蔵庫も確認してみる。
    予想通り、中には見つけてほしがっているみたいに堂々とした佇まいで、卵とココアと牛乳、さらにバターとメープルシロップが鎮座していた。初日にみたときはすっからかんだったはずだ。いったい、いつ買ったのだろう。
    「えーと、賞味期限はっと……」
    粉系は良いとして、乳製品はさすがに期限に気を付けないといけない。人間だろうが悪魔だろうが、食べ物にはあたってしまう。たぶん。
    卵と牛乳の日付を確認して、ホットケーキミックスの裏側にある作り方を読み込む。指折り数えて、期限内に卵と牛乳を使い切るにはこれから毎日焼いて、それでもなお余る牛乳はほかで活用しなくちゃならないことに気づく。ただでさえこれから毎月家賃を払わないといけないと思うと頭が痛くなるのに、これらを無駄になんてできやしない。
    腕まくりをしながら部屋を横切り、
    「今から焼くから机の上を片づけておいてくれよ。あ、端に寄せるのはナシだからな!」
    と、言いたいことだけ簡潔に伝え、脱いだばかりのエプロンを身に着け後ろ手に結ぶ。もくもくと本を読んでいた悪魔くんはちらっと顔を上げたあと、机の上に視線を落として、ゆっくりと本を閉じた。

    結果からいうと、ホットケーキの出来栄えはさんざんだった。なぜなら、ホットケーキを食べたことはあっても作ったことはなかったからだ。理想と思い出の中にある厚みのある三段重ねのホットケーキは、思ったよりも膨らまず、焼きムラのせいで猫のブチ模様みたいだった。
    「……ほらよ」
    「……」
    なにか言えよな~!
    なにか言ってくれたら言い訳でもなんでもできるっていうのに、悪魔くんはたいして興味がないのか、差し出したお皿に載った不格好なホットケーキにフォークを勢いよくさして、口にした。溶けかけのバターがたっぷりのメープルと一緒に二段目のホットケーキに落ちていくのも気にせず、もくもくと食べている。その食べっぷりが、わりと良いなーなんて思ったりして、ついつい口を滑らしてしまった。
    「ココアも飲むか?」
    「飲む」
    「ちょっと待ってろ」
    「わかった」
    なんだよ、やけに素直だな。
    笑ってしまいそうになるのを隠すようにキッチンへと引き返した。当然のように、棚の下にはミルクパンがあって、これはきっと真吾おじさんが準備したものだろうと考えた。
    ココアは作ったことがあった。眠れない夜に、温かいものが飲みたくてたまに作るからだ。それでも作り方を読み込んで、丁寧に作った。というか、おいしく作ってやりたいなと思った。だからか、ココアはまあまあの出来栄えだったと思う。
    「焼きムラの原因はこれだと思うんだよなぁ」
    ココアをいれたマグカップを差し出し、一応片付いている机の上にホットケーキミックスのパッケージをドンと置く。裏には丁寧すぎるぐらいにホットケーキのおいしい作り方が載っていて、おれはある一点をとんとんと指で叩いた。悪魔くんの視線を指先に感じて、ほんのわずかに声が弾む。
    「熱したフライパンを濡れ布巾に一度置くってやつ。やっぱりしないとだめだな」
    「当然だ。レシピというのは、誰が作っても正しく作り上げられる方法が書かれているんだからな」
    「分かってるよ、それぐらい。でも、布巾が見当たらなかったんだから仕方ないだろ」
    悪魔くんの口ぶりにも慣れてきたのか、おれは反論をしながらココアを口に含んだ。少し多めに溶いたココアが甘い。
    「なあ、悪魔くん。そもそも布巾がここのどこかにあると思うか?」
    まだ開けてもいない段ボールを眺めながら尋ねると、視界の端で悪魔くんがパッと顔を上げた。
    「なんだよ。知ってるのなら教えてくれよ」
    「……知らないな」
    「そりゃそうか。お前、荷ほどきほとんどしてないもんな」
    「一人でしたほうが早いって、メフィストが言ったんじゃないか」
    「はぁ? 言ってないだろ」
    「言った。僕は本を片づけようとしていたのに、君は本なんて後回しで良いと言って、僕のやる気を削いだんだ」
    淡々とした口調で、でもしっかりと記憶が残っているらしい悪魔くんがただただ真実を突き付けるように答える。
    「あー……、たしかに言ったかも」
    「たしかにじゃなく、言ったんだ」
    「……えーっと、その、ごめん!」
    悪魔くんがじっとこちらを見つめる。
    「でもさ、ここはおれたち二人の場所なんだから、二人で使うものを先に片づけたほうが良いと思うんだよ」
    おれはそれっぽいことを言った。悪魔くんは「ふうむ」と頷く。
    「……まあ、理はあるな」
    「だろ? それに、二人でやったらすぐに終わるって! よし、食ったら残りの箱も開けよう、悪魔くん。それで、明日から千年王国研究所を開店させるんだ」
    「ここは店じゃないから、開店はおかしい。言うなら開業だ」
    おれのやる気のある提案に、分かりにくいけれど、たぶん嫌そうな顔をしているんだろう。悪魔くんはちらっと床に置いたらしい本の山に視線を向けて、ため息を吐いた。
    言い忘れないうちに、言っておくことにした。
    「それとな、悪魔くん。机のものを床に置くのは片づけたってことにはならないから」
    視線を遮るように悪魔くんがココアをごくごくと飲んで「机の端には置いてないだろ」と子どもみたいなことを言った。
    ホットケーキもココアも、きれいに平らげていた。


    パパとママと夕飯を食べているとき、悪魔くんはホットケーキとココアが好きなのだということを話した。聞いてはいないけれど聞かなくても分かることもあるということを、あらためて実感した気がする。
    ホットケーキの焼きムラについても聞かせると、パパが絶対にきつね色に焼けるという魔法の布巾をくれた。ただの安い布巾に違いはないけれど、パパの作るホットケーキはすごくおいしいから、これで明日はきれいに焼けるだろう。
    翌日、研究所に魔法の布巾を持っていった。今日からはお昼も作ろうと材料をスーパーで買い込んできたからけっこう重い。しかしそこで、おれはある一つの仮説にたどり着いた。
    それは、悪魔くんは千年王国研究所で会ったその日に、ホットケーキの材料を買いそろえたんじゃないか、ということだ。きれいに陳列された卵と牛乳のコーナーで、賞味期限を確認した結果から導き出された答えだ。けっこう、自信もある。
    荷物を抱え直し、磨いたばかりの研究所の扉を開けると、中から小さく曲が聞こえてきていた。悪魔くんのよく聞いている曲だ。昼食はラーメンにすっからー、と言いながらまっすぐにキッチンへと向かう。返事はないけれど、今日は特に気にならなかった。足取りも軽い。
    しかし、おれはキッチンであるものを見つけて、うわっと声を上げた。
    慌てて口を噤み、両手に抱えた材料をひとまず置くと、無造作に置かれたそれをおそるおそる手に取る。
    値札がついたままの新品の布巾。
    昨日、どの段ボールからも見つけられなかった布巾。
    心の奥が湧きたつような、頭のてっぺんがむず痒いような、とにかくあらゆる良い感情が体中に巡っていく感覚に口がむずむずと動く。
    「……はぁー」
    落ち着け、まだ四日目だ。なんなら、今日が開業初日だ。おれはつとめて冷静に買い込んだ材料を並べていく。
    悪魔くんのことは、まだなにも分かっちゃいない。今日のことは、たまたまかもしれない。でも、今感じている気持ちを出会ったときの印象で差し引かなくてもいいはずだ。だって、おれはけっこう、いやかなり、うれしく思っている。
    顔を上げ、棚の上を睨みつける。パパからもらった魔法の布巾をぎゅっと握り、脚立を引っ張りだして棚の扉を勢いよく引く。
    まだまだ悪魔くんのことはよく分からないけど、できれば今日は昨日よりも、ホットケーキをおいしく作りたいと、おれはそう思っていた。
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