『深夜に甘い、ひとときを』「……」
現在時刻、午前三時。私はベッドの中で身動きが取れない状況で目を覚ます。
「んー……しののめ……」
その理由は人の名前を寝言で呼んでへらりと笑顔で浮かれている大きな子犬が思い切り抱きついてきているからで。仰向けに大の字で眠る時もあれば、本当に子犬のように丸まって寝息を立てている時もあり。今日はこのパターンですか、と溜めた吐息をゆっくりと吐き出す。
「……幸せそうな顔」
ぽそりと呟いて何とか動かせる掌で彼の柔らかな髪に触れればそっと撫でて。寝直そうにも少し目が冴えてしまったこの状況を少し楽しむことにした。
「神谷」
甘く、名前を呼んで。彼からの反応が何か返ってこないかと触れる髪に指を通して。
「……動けないんやけど、そのまま朝まで寝る気ですか」
目を覚さなくてもいい、そう思いつつこちらだけ意識を起こしてしまった状態に僅かにさみしさが募って。
「キス、しますよ。起きないなら」
言ってからならいいでしょうと、顔をゆっくりと彼へと近づける。後僅か。吐息のかかる距離まで顔と顔を寄せたところで。
「して」
「!? な、いつ起きたんや」
ぱちっと開いた紅茶色の瞳と突然目が合えば、寝起きのせいかいつもより低めの甘い声色の一言で強請る相手にびくりと大袈裟な反応を見せてしまい、気恥ずかしくなれば言葉に方言が混ざる。
「朝まで寝る気ですかって、お前が少しさみしいんだろうなって声でひとりごと言ってるのは聞こえたよ」
目覚めて欲しかったはずがこちらの感情もバレた状態で起きてしまった相手に心拍数が上がり、みるみる顔が熱くなるのを感じて。自分が目の前の存在がなによりも愛おしい事に気付かされる。
「……人を抱き枕にして幸せそうに寝ているんですから、別にそのまま寝ていてもええとは思いましたよ。でも確かにこちらは目が覚めたのでさみしくはありましたね」
「抱き締められてても?」
「……意識があるのとないのとでは、違うでしょう?」
「さみしかったんだな」
「やかましい」
ポンポンと弾む会話、赤くなった耳に触れられれば擽ったさに首を竦めて。
「可愛い。……キス、するんだろ?」
ほら、と添えた言葉と共に瞼を閉ざす神谷にほんまにずるい男、と心の中で思いつつ。唇を数秒重ね合わせればまた両腕で身体を包み込まれ。その心地よさにこちらからも腕を回した。
「……まだ朝までは時間がありますから」
「うん、する?」
「アホ」
寝直すんですよ、と彼からの誘いに軽く頭を小突けば冗談だ、と笑う姿にまったくと呆れた声を返しながら擦り付いて。
「おやすみ、東雲」
「おやすみなさい、神谷」
深夜の甘いひとときを堪能すれば、夜が明けるまで二人で再び眠りへと誘われた。