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    mugyu1219

    @mugyu1219

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    mugyu1219

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    後から文章の表現を結構直すと思うけど私このラストのシーンがめちゃくちゃ好きです。
    付き合った二人のラブラブな描写が早く書きたいな😂10/7の土曜日まで公開しておくので読みたい方は薄目で読んでください。

    MAGIC is LIGHT 3 前半 Chapter 3
     
    「お前はいい魔法使いになれる」  
     魔法族の由緒正しきお家に生まれた。一流の魔法使いと一流の魔法具に囲まれて育ち、さらには誰からも愛される素質も素養も充分にあった。一流の魔法使いになると玲王自身、生まれてこの方、疑うこともなかった。ただ──これらは自分云々の話ではなく、全て与えられたものだと御影玲王は思っていた。
    「つまんねぇ……」
     毎日毎日、玲王は退屈で仕方なかった。入学も親の名前御影のせいで特に難なく決まって、あと四ヶ月で家を出て寮生活を送ることが決まっていた。教科書は二学年分は一通り読み終わってしまったし予習練習もした。自分を磨く努力は毎日惜しむことなく行い、評価もされた。自己を成長させることを面白いと感じ、人より秀でることはもはや当たり前のことだった。目指す場所はもっと遠く──それにしたって、順調すぎてつまらないのだ。
     あまりに玲王が毎日つまらなそうにしていることに母が心配していたが、父は「学校に行きさえすれば張り合いも出るだろう」と見守ることを提案した。
     父の言われを否定するつもりはなかったが、玲王は十一歳にして諦めの境地に達していた。同年代を見渡せば、そんな希望的観測は持てなかった。父の所有する書庫の本はあらかた読み終わってしまい、国の保有する図書館に赴いた。折角なら持ち出し禁止の禁書にしよう。そのなかの一冊を読んでいたとき、パーセルタング蛇語話者を知った。パーセルタングは蛇語を話せる人のことだ。人間マグルは勿論、魔法使いの中でも蛇語を聞き話せる人は少ないこと、またパーセルタング蛇語話者の中は偉大な魔法使いもいたと書かれている。
    「……面白え!」
     玲王は早速蛇語を習得しようと決めた。しかし、パーセルタングは偏見が根強く残っており、習得するには両親には内緒で行う必要があった。勿論、身近に蛇語を習得するにもパーセルタング蛇語話者がいない。仕方なく古い書籍を読み漁ったり、僅かに残されている映像などを使い習得を試みた。
     玲王は今までにもあらゆるものに興味を持った。天文学、薬学、占い学、変身術、魔法薬学……エトセトラ。未就学にしてありとあらゆるものに首を突っ込んでは周囲を驚かせた。アマチュアの箒の飛行大会(未就学児の部)はその年の優勝を総なめ。玲王より箒が上手に飛べる子はいなかった。箒蹴球クディッチは優秀なシーカーになれるだろうとお墨付きをもらった。
     占い学に関してはこの道のプロがこっちの世界へ来いとお誘いがくるほどだったが、玲王は丁重にお断りした。当時は相当のめり込んで水晶を覗けばその日の災いも天命も予言も聞くことができた。玲王のキラキラとした容姿端麗さも相まって「この子は神の寵愛を受けている」と多くの大人が合掌した。玲王ほど素質のある占い見習いはやっぱりいなかった。玲王は「未来が予め分かってしまう世界はつまらない」と言って占い学を追及するのをやめた。
     御影玲王、と言えば魔法界で知らない者はいなかった。名乗れば魔法使いたちは道を開けた。お家柄の良い魔法使い、それが玲王の第一印象だと決まっていた。みんな玲王の周りに集まってきて、お近づきになりたいと願う。それに飽き飽きしていた。いつも人に囲まれ、目立つ存在だったが、年上とばかり付き合っていた。玲王と同い年くらいで同レベルの存在はいなかったからだ。
    「ばぁや。この動植物園へ行きたい」
    「坊っちゃま、珍しいですね。人間マグルばかりですよ、ここは」
     ばぁやは玲王のお付きの人だ。彼女も相当偉大な魔女で、その鼻は魔女らしく高く大きい。玲王は彼女から丁寧に、そして根気強く多くの魔法を教えてもらった。玲王がこの世に生まれてからずっと玲王の世話係である。
    「ちょっと大蛇と話すだけだし。それに、魔法界でもパーセルタング蛇語話者はそんなに歓迎されないらしいからな」
    「おっしゃる通り、パーセルタング蛇語話者は偉大な魔法使いもいましたが、それより遥かに闇に落ちた魔法使いが多かったことが事実でございます」
    「だから人間マグルの世界の方が都合がいいだろ? 独学だから上手くいくかわかんねーし」
    「左様ですか」
     玲王は全てにおいて秀でいた。両親にも愛情もって育てられ、何一つ不自由はなかった。だからこそ、夢中になれる【何か】を探していた。
    「それに……たまには俺のことを誰も知らない場所に行きたい」
    「……かしこまりました。では準備をして、一時間後に出発しましょう」
     玲王は元々人間マグルの生活圏にあまり興味がない。魔法も使えずのうのうと暮らす庶民くらいにしか捉えていなかった。だから何かに期待して行った訳では決してなかった。
     ──凪誠士郎と出逢うまでは。
    「お前、パーセルタング蛇語話者か?!」
     凪を一目見て俄然、興味が湧いた。それから玲王は、凪誠士郎という存在に夢中になった。
     
     ⌘
     
     杖も箒も全て玲王と同じ特注品を凪にプレゼントした。他の魔法使いが見たら全て羨むものばかりだ。人間マグルである凪はその価値が一つだってわかりゃしないし、凪誠士郎という男は仮に価値を知っていたとしても同じような態度を取るということを玲王はだんだんわかっていくことになるのだが。
    「凪、ほら。杖振ってみろよ」
     凪は辿々しく杖をもつ。「本当に初めて杖を持つのか」と玲王はほくそ笑んでしまう。玲王は三歳から杖を持って魔法を使っていたというのに。
    「え、どうやって?」
    「こうやって……」 
     豪邸である玲王の屋敷の自室は様々な魔法具が置かれていた。
    「Meteolojinx《メテオロジンクス》」
     玲王が杖を振って呪文を唱えれば、シャンデリアのついた天井から雪がチラチラと降り出した。
    「ま、こんな感じ?」
    「レオ、すげーね」
    「いや、杖も呪文も持たずに物を浮遊させてたお前には負けるけどな! 凪もやってみろって」
    「えー、なんて言えばいいの?」
    「呪文なんていーよ。とりあえず、杖を振ってみろよ。使用感とか見たいし!」
     杖を振るだけで玲王には使用感が分かるらしいことに凪は首を傾げたが、凪は天才だった。凪は玲王がやったように真似して杖を振れば、玲王の降らせた雪がくるくると竜巻のように集まって雪の山を作った。
    「ふはっ! なぁぎっ! お前、マジで天才かよ〜!!」
     玲王は凪の肩に抱きついて頭をわしゃわしゃと撫でた。玲王は凪に雪を降らせる呪文を教えた。勿論玲王だって、一発で出来たわけじゃない。凪はふーん、と言いながら玲王を真似て杖を振った。
    「……Meteolojinx《メテオロジンクス》」
     ドサっと、玲王の頭と肩には大きな白い塊が落ちてきた。それはまごうことなき雪の塊であった。
    「あ、ごめん」
     凪は「まさか、そんなことになるとは……」という顔をして玲王の頭の雪を手でパッパと掻き分けた。
    「ふっは! お前、ホントおもしれえなぁ!」
     アハハハ、と腹を抱えて笑う玲王に凪は口をバッテンにして玲王の身体にかかった雪をいそいそとどけた。漫画だったら空中に汗を掻いていた。凪は口数も表出する表情も少ないが、悪い奴じゃない。玲王を気遣う姿はとても辿々しく、なんの下心も感じさせない。凪の仕草一つでも玲王の好奇心をくすぐっていた。
    「なぁぎ、俺に気を使うんじゃねーよ? 同い年なんだし」
    「え?」
    「お前はそのままでいーよ! ふ……っ、ハハハ! お前、いいな!!」
     凪は玲王がなぜ笑うのかを理解出来なかった。一つ感じたことといえば、玲王の笑い顔はいいな、ということだけだった。
     凪誠士郎はずっとめんどくさがり屋だった。生まれて初めて友達から「面白い」と言われた。いや、玲王が生まれて初めての友達だった。
    「これから俺がお前にいろんな魔法を教えてやるからな! 超楽しみだぜ!」
     玲王は新しい玩具を得たかのように生き生きしていた。天体望遠鏡で初めて惑星を見た時、水晶に初めて予言が見えた時、初めて箒に乗れたとき──そのどの体験より、凪という存在は玲王をワクワクさせた。

    「来週箒蹴球クディッチのW杯があるんだよ! ゲストシート! 凪も一緒に観に行こうぜ!!」
    箒蹴球クディッチ?」
     凪は玲王の思った通り、玲王と同じくらい……いや、それ以上に魔法使いのポテンシャルがあり、箒に乗って家の周りを自由に飛ぶことくらい造作もなかった。どちらかというと、うまく箒を乗りこなした後、地面に足をつけた凪が「落ちたら死ぬかと思った……」と無表情で呟いたことが玲王にとってはちゃんちゃら可笑しく、腹が捩れるほど笑った。
     玲王は凪に魔法を教えることにハマっていた。凪はそのどれも軽く習得していくので気持ちよくて仕方なかった。
    箒蹴球クディッチは、マグルの世界で言えばサッカーとラグビーの融合したみたいなもんだな。箒に乗って球を奪い合う」
    「へぇ……。人間の世界のことまで知ってるんだね、レオ」
    「まぁ、マグル学は教養ぐらいだけどな〜」
     凪の面白いところは普通の魔法使い見習いなら練習に練習を重ねて習得する魔法を簡単に習得するくせに全然面白くなさそうにしている点だった。たまに言う「びっくりした」も表情からは全然読み取れないから面白くて仕方なかった。
    「凪も箒蹴球クディッチの素質あると思うぜ。俺の勘だけど」
    「結局スポーツでしょ? めんどくさそう……」
    「お前、いっつもそればっかな?!」
     何かやろうと企てれば凪は口癖のようにめんどくさいと言った。しかし、玲王は凪をノせるための力を惜しまない。
    「絶対面白ぇから。試合もだけど、キャンプ基地も結構楽しめんだよ。サポーターがフェイスペイントして応援すんだけど、野外でバタービール飲んで騒げるんだぜ」
    「……ごめん、俺多分そういうの全然興味ないと思う」
    「ふーん? そうか」
     凪は家にいることが一番好きだった。外出はよっぽどのことがないと行きたくないと言う。
     ……と言って、御影玲王という人物がそこで引き下がると思ったら大間違い。勿論家族総出でのスポーツ観戦なので不参加は認められない。
    「なーぎ♪ これ触れよ?」
     魔法のことを何も知らないのをいいことにポートキー瞬間移動鍵を使ってあっさりW杯会場に連れて行き、帰ってこれないようにして凪に箒蹴球クディッチの試合を観戦させた。うおおおー、と図太い歓声が上がる中、強引に一列目を陣取った。これもスポンサー契約がある御影の力だ。
    「……レオ。俺、興味ないって」
    「いーからいーから! 箒蹴球クディッチを知らねぇ魔法使いなんて凪くらいなもんだせ? 常識だ常識!」
    「えー、横暴〜」
    「あれが俺の好きなチームマンシャイン・シティのシーカーだ。あの水色のユニ着てる奴!」
     へぇ、と興味なさそうに凪が言う。
    「俺も在学中に絶っ対W杯に出てやるんだ……!」
    「レオは箒蹴球クディッチ好きなの?」
    「当たり前だろ?! 魔法界で一番メジャーなスポーツだし、何より金の匂いがプンプンする」
     ? と凪は思ったが、玲王が目をキラキラさせてお気に入りの選手を目で追うのはちょっと面白くない。
    「これってどうやったら勝ち?」
     凪が珍しく興味を持ったらしいと玲王は嬉しくなって凪にあれこれ教え始める。
    「最終的にあの金の飛行羽根スニッチを捕まえた方が勝ちってわけ!」 
    「ふーん……」
     シーカーと言われる選手がものすごい速さで飛行羽根スニッチを捕まえるところを見て凪は自分に置き換え想像した。最近箒を乗れるばかりになった凪だが、そこまで難しそうな気がしなかった。
    「普通、魔法学校一年生で箒蹴球クディッチのレギュラーになれることはないんだけど、天才的な魔法使いでたった一人いたらしい。俺はその地位を狙ってんだ。勿論、プロの指導を受けて練習をして、だけどな」
     結局試合は玲王が応援したチームが飛行羽根スニッチを獲得して逆転勝ちした。
    「制限時間があるから、両チームとも飛行羽根スニッチが捕まえられないこともあんだよ。だからチェーサーやビーターも大事な役割。シーカーは目立つし格好いいけど俺はやるならチェイサーが向いてるかなって思ってる。なぁ、少しは興味持った?」
    「うーん、どうかな」
    「お前はシーカーだろ。天才シーカー、凪誠士郎。なんかよくね?」
     凪は無言で会場の試合を面白くなさそうに眺めていた。凪が自分の好きなものに興味持ってくれたら楽しいのになぁ、とぼんやり考える。箒蹴球クディッチW杯は玲王の言っていた通り大盛り上がりで幕を閉じた。
     凪と玲王は魔法学校に入学するまでの四ヶ月間、ほぼ一緒にいた。教科書や魔法具など、御影のお家には翌日には届いたし、玲王の屋敷には玲王の家庭魔法教師が毎日出入りして魔法を教えていたので、凪も後方から見様見真似でそれらを習った。箒蹴球クディッチの練習はずっと玲王の練習を見ていた。御影のお屋敷はとても広く、一番てっぺんの部屋は夕日や星空が綺麗に見えた。その部屋の更に上に登った屋根に凪と玲王は二人で腰掛けた。
    「つまんねーなぁって時はよくここに登って星を見てたんだけど、お前が家に来てからすっかり忘れてたわ。ついに明日出発だな〜楽しみ!」
     凪は玲王の「つまらない」という言葉が引っかかった。凪は人間界での生活を面倒だと思いこそすれ、つまらないと思ったことはなかったように思う。
    「そういえば今日、レオのパパさんに『玲王をよろしく頼む』ってお願いされた」
     凪をいきなり連れて来て玲王の両親は勿論怪訝な顔して反対したが、ばぁやの説得と玲王の明らかに変わった生活態度に納得した。生粋の魔法族の家系の玲王の両親だったため、人間マグル出の凪をどこまで信頼して良いのか計りかねていた。それでもたった一人の息子は可愛いかったのだろう。第一に玲王が前より明るくなったことと、変わらず魔法学に精を出して努力していたことを鑑み、凪のことを認めた証であった。
    「……へぇ。親父、やっと口開いたんだな〜」
    「玲王のボディガード的な意味でよろしくってことかなって俺は思った」
    「ボディガードぉ?! 凪に守られてちゃ世話ねーだろ、俺!」
     確かに、と思うと凪は玲王の両親の意図を考えてみる。凪は人の感情の機微など読み取れるはずがなく早々に思考はフェードアウトした。
    「あー! いい夕焼けだなぁ!」
     箒を乗れるものしか味わえない夕焼けだった。眼下に広がる御影所有の広い庭、自家栽培されている農園、誰かの家一個分くらいある倉庫。御影の家は人間の世界と比べったって桁違いのお家だ。それくらい凪も感じ取った。
    「この場所くらい箒で飛べなきゃ、まだまだ魔法使いとしてひよっこだな、って親父に言われてさ。怖かったなぁ、ここまで最初に箒で飛んだとき」
     へぇ、そんな可愛い時が玲王にもあったんだと「それっていつ?」と聞けば「五歳だったかな」と言われて度肝を抜かれた。
    「……お前と会って、毎日が楽しいよ。学校に行ったらもっと楽しいかな」
    「俺なんかよりもすごい人がたくさんいるよ」
    「お前レベルの天才、そういねーって!」
     凪自身、玲王が自分にここまで興味を持ってくれるのは今玲王の近くにいるのが自分だからで、自分よりすごい人ができたら玲王は離れてしまうのではないかと思った。そんな思考に至る自分にちょっと驚いてもいた。
    「レオはなんで俺に構うの?」
    「俺の夢は世界一偉大な魔法使いだって言ったろ? この世界に俺の名を残したい。だって、魔法使いになるならテッペン目指さなきゃ勿体無いだろ?」
     意外と体育会系の答えに凪は一つも共感できなかった。
    「で、今はお前と二人でテッペンとるって夢に変わったわけ。俺と並べるのはお前しかいないって今は本気で思ってる。早く俺がいるところまで来いよ。とりあえず在学中にお前と箒蹴球クディッチのW杯カップ優勝がマストかな〜」
    「え、俺やらないよ?」
     凪はずっと玲王の練習を見てはいるものの、興味がないのでルールもうろ覚えだ。競技の説明を求められたとして、玲王が最初に言ったラグビーとサッカーの融合スポーツと今でも答える。
    「俺のボディガードにしても生っ白いし、少しは動け」
    「守られる気もないくせに……」
    「お前、最近箒で手ぇ抜いてるの分かってんだからな?」
    「なんのこと〜」
     凪が玲王を理解するように、玲王も凪のことを把握し始めていた。特にこの御影玲王という男は齢十二にして達観し、常に高みを目指し、そのための手段は選ばない。
     玲王は御影の父親から昨晩話があると呼び出され、こう告げられている。
    「今は凪誠士郎と一緒にあることがお前にとって必要ならいい。だが、凪誠士郎という人物を心底信用したわけではない。魔法使いの実力など在学中に分かる。上手く利用しなさい」と。
     自分玲王のことも、一つのステータスぐらいにしか思っていないだろう台詞だと玲王は思った。父親のような人を駒の一つにしか思わないような人間にはなりたくない、という反骨精神も持ち合わせていた。
    「……魔法なんてさ、使わねーとなんの意味もねぇからな?」
     そう言って並んで座っていた凪の胸の前に手を差し出す。握手を求められた凪はおずおずと玲王に求められるまま二人は手のひらを合わせた。夕日の生暖かい色が二人を包む。
    「なーぎ」
     凪をまっすぐ見つめる瞳は夕陽に照らされて宝石のようにキラキラと光って吸い込まれそうに澄んでいた。二人の掌が離れた、その瞬間だった。ドン、と玲王は凪を突き飛ばした。凪は反動で体勢が崩れたが構っていられなかった。隣に座っていた人がいなくなってしまったのだから。
    「俺を捕まえろ」
     そう言って、玲王は屋根の下へ自ら真っ逆さまに落ちた。ヒュッ、と凪の喉が咄嗟に鳴るのが分かった。スローモーションのように玲王が背中から落ちていくのを確認した瞬間、凪は箒に跨っていた。物の落下スピードを上回る速度で手を伸ばして玲王を追いかける。今まで感じたことのない風を顔面に感じた。
     届け届け届け──!
     自分が地面に突っ込む勢いで直角に凪は急降下した。凪が必死な形相でいるのに、玲王は涼しい顔で凪へ手を伸ばしもしない。凪は玲王の腰辺りを抱き抱えるようにして捕まえるしかなかった。十五メートルくらいの距離は本当に一瞬だった。
     玲王を抱えたまま箒を降りるなんて技術もなく二人とも落ちると凪が諦めかけ覚悟したとき、玲王の胸辺りから光が生まれた。
    「Wingardim Leviosa」
     玲王の庭の草がさわさわと靡くなか、二人は布団の上に座るようにふわりと地に降り立った。凪は玲王の腰辺りに抱きついたまま離さない。
    「……な? お前はやっぱシーカーだって言ったろ?」
     玲王は自ら落下したときの、凪が必死な形相で追ってきた顔を一生忘れたくないと思った。凪は絶対自分に追いつくだろうという賭けに勝ったのだ。
    「スニッチとは全然違うし」
    「まぁ、それはそう!」
    「……レオがこんなに馬鹿だと思わなかった」
    「知らなかったか? 俺は欲しいと思った物は全部手に入れる主義なんだよ」
     夕日は地平線に沈みかけ、わずかな洛陽が二人を薄暗く照らした。玲王には採算があったが、勿論最悪の事態を想定しなかったわけでもない。現に地に落ちる前に杖を取り出して対処できた。
    「……レオは学校なんて行かなくていーよ。それ以上優秀になってどうするの」
    「だから、その名声と地位を将来手に入れるために行くんだって」
     やっと顔をあげた凪は自分でも驚いていた。こんなに死ぬ気で何かをしたことは生まれて初めてで、動悸は止まらないし、咄嗟のこととはいえ、凪自身も間に合うかはわからなかった。要は生まれて初めて不安で、生まれて初めて無我夢中になった体験だった。
    「……もぉ、レオやだ」
    「ごめんて。でも信じてたぜ、相棒パートナー!」
     芸ができた犬を褒めるように玲王は凪を褒めて撫でたが、凪は誓ったのだ。御影玲王はとんでもない男で、欲しい物のためなら何をしでかすか分からない。玲王を守るために、自分は隣にいよう、と。
    「もう絶対こんな無茶しないで」
    「じゃあ、なぎ! 箒蹴球クディッチやろーぜ!」
     屈託なく笑う玲王に、凪はもう折れるしかないと悟ったのである。
     
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    mugyu1219

    PROGRESS「言ってはいけないあの日」の話。
    エピ凪を読んで「玲王を救済しなければ!!」と魔法学校編に絡ませて勢いで書いてしまいました。
    この二人は一話目ですでに付き合っているのでどう足掻いても恋人なのですが、付き合ったの六年生なので、めんroのときは両片思いしてました。
    クディッチの話はここまで詳しく書く予定なかったけど二人の未来のためには書いて良かったかもしれないです。
    MAGIC is LIGHT 【救済編】 一度、玲王を酷く傷つけてしまったことがある。
     そのことを、悔やんでも悔やんでも、ずっと玲王の心には残ったままなのだろう。
     昔を知るチームメイトはことも無さげに言った。
    「お前たちって、一回大喧嘩したことなかった? 全然喋ってなかった時期あったろ」
     うん、とだけ言ってすぐに口を噤んだ。人から『喧嘩』と言われて、「ああ、ああいうのが喧嘩というのか」と思った。だって、生まれて初めての友達が玲王で、喧嘩したのも初めてだった。
     俺は今でも、それを悔やんでいる。
     
     ⌘
     
     今年の箒蹴球W杯で、在籍中から活躍する魔法学校生徒の中でも注目すべき選手がいる。まずは、魔法学校一年生から箒蹴球チームにスカウトされ入団している凪誠士郎選手と御影玲王選手だ。この二人の登場はまさに箒蹴球界に超新生ダブルエース現る!! という見出しで日刊予言者新聞を騒がせたことで覚えている読者も多いのではないだろうか。若干十二歳で彗星の如く現れた二人ですが、魔法学校一年生で箒蹴球チームに選ばれるのは数百年に一度逸材、それが一気に二人も!
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