Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    namo_kabe_sysy

    @namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌻 ⛅ 🔶 💚
    POIPOI 132

    namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow

    稲妻イベントでのアル空妄想 すけべに入る前段階、ベドくんがもやもやする話。

    #アル空
    nullAndVoid

    テリトリーの外側容彩祭に招かれたアルベドは、吟遊詩人やクレーを伴ってモンドから渡航して稲妻に降り立った。初めて訪れる異国への期待を表現するにはクレーの方が表情豊かではあったが、アルベドも内心、普段と全く異なる環境で絵画の機会を得られたことに胸が躍っていた。
    出迎えてくれた案内役は、パイモンと旅人である空だった。はしゃぐクレーや吟遊詩人たちと共に導かれ会場までを歩いていると、道中で空を見かけた稲妻の住民たちが時折声をかけてきた。
    「よお旅人の兄ちゃん、今日はえらく大所帯じゃねえか! こっちじゃあんまり見ない格好の奴らばっかりだが、知り合いか?」
    「うん、彼らは容彩祭で招かれたモンドからの客人だよ」
    「オイラたち、この祭りの間は稲妻にきたみんなを案内してやるんだ!」
    「へえーそうだったのかぁ、忙しくなりそうだな。ま、休憩するならまた屋台にでも行こうぜ! 俺が奢ってやるよ」
    そう言って空の肩を叩く快活に笑う大柄な男がいたと思えば、
    「あっ、旅人のお兄さん! もしかして容彩祭で何かするのかい? もし娯楽小説を出すなら、ぜひ私にも売ってちょうだいね」
    「いや、俺は作品を出すとかはしなくて……今回各国から来てくれた客人を案内したり、手伝ったりするのが仕事だから」
    「あらそうなの? あなたの冒険譚ならいくらでも楽しめそうなのに残念だわ」
    「そんなに言うなら今度オイラから聞かせてやるよ! ふふん、なんたって、オイラが一番旅人のことを近くで見てきたからなっ!」
    「ふふっそれもいいわね! それじゃあ、お祭りが落ち着いた頃、またお話しできるのを楽しみにしているわ」
    黒髪を一つにまとめ、たおやかに微笑む女もいた。
    「……随分、いろんな人たちと交流があるんだね」
    空の後を歩いていたアルベドがこぼすと、「そうかな?」ときょとりとした顔を返される。
    「あんまり意識してなかったなあ。多分、この国の在り方が変化してきたことも関係してるんだろうけど。……この離島は、俺たちが最初に来た場所でさ。訪れたばかりの時は割とトラブルが多かったんだけど、それもだいぶ落ち着いたせいかな。時々気性の荒い人はいるけど、基本的にはいい人が多いと思うよ」
    「……そう」
    次の言葉を探すも、うまく繋げられない。微妙な空気を生んでしまったと気づいたアルベドだったが、やや前方を歩いていたクレーの呼びかけで沈黙は終わり、そのまま少女に引っ張られるようにして会場までの石段を駆けて行った。

    会場に入ってからの時間はあっという間に経過していった。
    一枚目の絵でモデルとなったウェンティが、倉庫から小説が盗まれた事件に関与しているかもしれないという疑いもかけられたが、それは二日目に訪れた(実際にはアルベドたちよりも前に稲妻に来ていた)行秋が晴らしてくれた。
    彼が吐露するように謀ったのはアルベドだったが、思いのほか精神に打撃を与えてしまったようで「はあ……まさかこんなことになるとは……」と、弱点を露呈したことで落ち込む行秋に、寄り添った空が「元気出して」と励ます姿を見ることになった。
    「サインも大切だけど、もっと大事なのは小説そのものな訳だし……それに、行秋一人で抱えなくても、編集の人たちだってバックアップしてくれたじゃない?」
    「そうだぞ行秋、修行はちょっと大変かもしれないけど、お前ならきっとできるってオイラは信じてるぞ!」
    「ありがとう二人とも……アルベドもすまない、ややこしいことに巻き込んでしまって」
    「そんなこと思っていないよ。ボクのことは気にしなくていい」
    申し訳なさそうにする青髪の作家と、そんな彼を励ます空を見つめながら、アルベドの心少し遠い場所に浮かんだ。
    稲妻に訪れてからというもの、空の周囲にいる人間の数が多いことが気になってしまう。
    その光景を見るのはモンドでもあったはずだ。だというのに、この地で遭遇する空と周囲の人間模様を目の当たりにすると、どうにも落ち着かなくなってしまう。
    彼が街の人間から信頼を寄せられる人物であることを、アルベドは既に知っている。それはアルベドが属する西風騎士団の面々も同じだった。モンドが抱えていた問題を解決に導いた実績は、ジンやリサ、ガイアたちも一目置くもので、高い評価をされていることも承知している。
    それらの事情を知りながら、しかしこれまでその事実を悲観したことはなかったし、むしろ誇りにさえ思っていたのに。
    この地に来る前は璃月で活躍してきた彼だ。そんな中で出会った一人が行秋なのだろう。ならば二人に親交があるのは別段珍しいことではないし、むしろ自然な流れだ。
    しかし、どうしても全てを飲み込めない自分がいることに、アルベドは戸惑っていた。それは、空とアルベドの関係がただの友人ではなく恋人同士であることが起因しているのかもしれないとは、片隅でぼんやりと手がかりを握っている。
    モンドという国であれば、彼がさまざまな人物と関係を構築していくことになんの憂いもなかったというのに。
    「(――ボクの知らない土地。その地で暮らす人の中に、空は容易に溶け込める)」
    それは空の特技であるとも言えた。パイモンという相棒がいることも手伝って、馴染むことはそこまで大きな壁になっていないのだろう。モンドでも披露してくれた彼の一つの側面。そのことはアルベドも受け止めているはずだった。
    それが、今はこんなに心許無くさせている。
    「アルベド? どうかした?」
    料理が減っていないけどと尋ねてくれる空に曖昧な笑みを返して、なんでもないよと首を振った。

    その日の夜。客たちの心地よい喧騒で賑わう烏有亭の二階、その個室にある窓の近くに寄りかかって、アルベドは一人酒を舐めていた。
    窓枠の外には、月明かりと舞い散る桃色の花弁が美しく映えていた。この景色を絵にしたら、控えめながらも眩さが宿る思い出の一枚として残すことができるだろうと思った。
    しかし、この時のアルベドにはスケッチブックを開く気分にはなれなかった。ざわついたままの心情を持て余して、手元にある酒を飲み進めては物思いに耽っていた。

    今夜は行秋とウェンティ、パイモン、空と食事をしていた。カウンターに並び、空とパイモンを中央にして過ごした時間はとても充実していた。
    テーブルには稲妻の特産品を材料にした天ぷらや串焼き、ライスに生魚をのせた寿司が並べられた。昨夜とは違う逸品ばかりで、アルベドは興味深く箸を進めていた。
    実際に食してみると、食感や味の組み合わせに驚きもあったが、これといって不得意なメニューはなく、出されたものはすべて完食していた。あまり量が食べられないことはすでに店主へ伝えてあったため、アルベドの皿には他の面々よりもやや少なめに盛られた料理が出されていた。
    日中に違和感を覚えていた行秋と空の距離に一人気まずい思いをしていたが、会話を重ねるうちに、行秋が小説に対してこだわっていることや、これまでアルベドが描いた挿絵の感想を直接聞いていると、想像の中にしかいなかった行秋が、より優雅に動くようになった。
    スケッチしたものを現実に落とし込むのと似た感覚だった。細部を実写から補うことで、彼への理解をより深めることができたことは幸運だった。
    しかしそれは同時に、空が行秋と共にしていた旅のことも、より豊かに想像できるとも言えた。
    璃月や稲妻で出会った様々な人物のことを、以前空に語ってもらったことがある。それはアルベドが望んで話してもらったことだった。空との間にある想いの形が同じであるとわかった日から、アルベドは空に関することはなんでも知りたがった。どんな些細なことでも、それとは反対に壮大な話でも「聞かせてほしい」と空に頼んでは、彼が織ってきた物語をじっくり味わっていた。
    あの頃はもっと純粋な気持ちで飲み込めていたのに。今この瞬間にも、行秋たちが語る璃月での話が、ひどく遠い場所で交わされる秘密の会話のようにも聞こえて、だんだんと居心地悪く感じてしまう。
    しかしその感情は表面には出さず、宴はどんどん盛り上がっていった。昨日と同じ飲みっぷりを披露するウェンティには、店主は気前良く、稲妻の地でしか飲めない希少な酒を提供してくれた。
    「おや、これは初めて見る銘柄だねえ?」
    「昨日は切らせていたんだが、今日は入荷できてな。ちょっと癖はあるが、どんな料理とも相性がいい酒だ。気にいると思うから飲んでみてくれ」
    言いながら店主はウェンティとアルベドの前にお猪口を置き、透明な冷酒を注いでいった。ウェンティだけではなくアルベドにも振る舞われるとは思わず、遠慮するタイミングを逸してしまう。その気配を感じたのか、店主はカラカラ笑って「お客さんも飲めるクチだろう?」と楽しげだった。
    「食事もそうだけれど、そこまで量を摂取できるほどでは……」
    「えー? でも昨日、僕と同じくらい飲んでなかった?」
    「ペースを合わせていたのは確かだ。でも、総量はそこまで多くはないよ」
    「そうだったの? なんだかうまく乗せられちゃったなあ」
    まあ飲めればなんでもいいけどね、とウェンティは上機嫌に振る舞われた酒を煽った。アルベドも続いて飲み進めていく。店主の言葉通り、最初はやや癖がある飲み口ではあったものの、つまみとなる料理と一緒に含むとあまり気にならなくなった。思っていたよりもスイスイ飲めてしまって、最初の酒瓶が空になるのに大した時間は掛からなかった。
    それからしばらく歓談した後。
    前日も浴びるように飲んで眠ってしまったというのに、それを過ちとはまるで思っていないのか、吟遊詩人は今夜も同じ立ち回りをして、カウンターテーブルで満足そうな顔をして眠っている。店主も店員もこれについては咎めることもなく、どころか「容彩祭の大切なゲストですから」「お気になさらず!」と、申し訳ないほどに好感触な接客を受けていた。
    幸せそうに眠りこけるウェンティと、仕方なさそうにそばについてくれるパイモンを横目に、アルベドは彼が残した酒瓶を拝借する。それから空たちに向かって、「少し風に当たってくる」と告げてから階段を上がって二階の個室へと入った。

    それがおよそ十五分前のこと。手元には冷酒の入ったお猪口。その透明な水面に、ぼんやりとした作り物の顔が写りこんでいる。
    「…………」
    放たれた窓から入る夜風が心地いい。火照った身体を緩やかに冷ましてくれる感覚に、目を細めてからまた酒を煽る。アルコールを分解する能力はそこそこにある方で、それは今夜のような場面においてはとても助けられることを、アルベドはこの時初めて知った。
    空になった陶器の中に、再び酒を注ぐ。瓶の中身はもう後二、三口も飲めば終わってしまうほどしか残っていない。瓶底からわずか数センチしかない水嵩に息をついて、これが終わったらいい加減皆のところへ戻ろうと決めた。
    今頃空は行秋と楽しく会話に花を咲かせているのだろうか。パイモンも二人の楽しさに釣られて輪に加わっているかもしれない。店主は人がいいし、聞き上手でもある。きっと、賑やかな時間が過ぎているのだろう。旅人である空の紡ぐ物語に耳を傾けては、各国を渡り歩いた彼に好感を持ったり、もっと聞かせてほしいとせがんだりする可能性だってある。行秋もそうだ。アルベドと同じく久方ぶりに会ったのなら、積もる話もあるだろう。ならばきっと、聞きたいことも語りたいこともあるに違いない。
    ならばそれらは優先されてしかるべきだ。恋人という肩書きを振り翳して、遮るようなことはただの愚かな行為と言える。静観して、自らもその輪の中で同じ温度を共有するべきだと、わかっていたはずだった。
    それができずに、こうして一人、その輪の中から抜け出した。
    「……空」
    思わず口にしてしまった名前。ここにいるはずのない大切な人の名前。
    「なあに、アルベド」
    それを、その名を持つ本人に拾われて、アルベドは声のした方へ勢いよく顔を上げた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭👏😭🙏💯👏👏👏👍👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works