愛のあいさつ ウルマンから二体目となる仙霊を引き取ったのは、数日前に遡る。
ふよふよとしたゼリーのような透き通った球体は、パイモンと同じく空中を自由に動きまわっていた。エネルギーが不足していると存在が消えそうなほど霞んでしまっていたが、空が補給を手伝うと、ウルマンが集めている古鉄銭が埋もれた場所をいくつも探し当てては、不思議な鳴き声をあげて、空の周囲を得意げに飛び回っていた。
そうして過ごすうちウルマンが示す地図全てを探索し終えると、古鉄銭を集めてくれたお礼だと言って、特殊な瓶ごと仙霊を渡されたのである。
「今度の仙霊は緑色なんだね」
スメールの探索で共に行動していたアルベドが、空の周辺を漂う球体を目にすると「綺麗な色だね」と穏やかに微笑んだ。褒められた言葉がわかったのか、それともただの気分なのか、緑色はアルベドの頬に数回頬擦りをしてから、アルベドの肩口に落ち着いた。
「うん。なんだかこう……目があったような気がして」
ただの感覚でしかないが瓶の中から「選んでほしい」と訴えられているような圧を感じ、ここで選ばなかったら後々夢に見そうだな……と思った空は、ウルマンが並べた瓶のうち、緑色が入ったものを手に取った。中から出して散策すると、木々の近くで立ち止まったとき、喜ぶように泳いで見せるのが面白かったりする。
「そういえば、以前には別の仙霊を連れていなかった?」
「いるよ、ピンク色の仙霊」
以前にも似たような流れで仙霊を引き取っていた空は、仲良くなってくれるといいなと思いつつ、先輩に当たる一体目の仙霊――ピンク色をした球体を外に出した。
耳のような触角のような部分をぴこぴこさせて、ピンクの仙霊は空の周囲をくるりと回った。そして緑色の別個体を見つけると、ぴたりと一時停止した後で、そろそろ近づいていく。
「ふふ、仲良くできそうかな?」
「してくれるといいんだけどなあ」
アルベドの近くで緑の仙霊はたじろぐように震えたが、ピンク色の球体が頬を寄せるようにくっつくと、不可思議な声をあげてくるりと宙を泳いだ。その後、緑色も同じように寄り添って、耳のような部分を忙しなく折ったり立てたり繰り返している。
仙霊たちの挨拶を見届けたアルベドは、「これなら大丈夫そうだ」とそれぞれの個体を見つめ、満足げに微笑んだ。空もつられて安堵の息をこぼし、そうだねと笑う。
「仙霊同士にしかわからない言葉で喋ったのかな」
「鳴き声がそれに当たるかもしれないね。それか……」
何か考えたそぶりのアルベドに首を傾げていると、きょとりとした空の頬へアルベドが静かに頬を寄せてくる。それはつい先ほど、仙霊たちがかわした挨拶とよく似た動きだった。
柔らかでなめらかなアルベドの肌は、湿地帯を進んでいたせいか、いつもより水分の多い質感となっていた。ぴたりと吸着してくる感覚に、くすぐったさと、ほんの少し照れ臭さを覚えてしまう。
「アルベド?」
「言語がなかったとしても、こうしたら好意を伝えられると、彼らは理解していたのかもしれないね」
張り付く頬と頬に、互いの熱がゆっくりと集まっていくのを感じる。離れるタイミングが空にはわからず、それを見越しているのか、アルベドもすり寄せた頬を離す様子は見られない。
恥ずかしげもなくいきなりこんなことして。心臓に悪いんだけどなと思いながらも結局、喜びがいつも勝るのだ。
もうちょっとだけこのままでもいいかなと、空からもアルベドの頬に擦り寄ると、二体の仙霊は見本にでもなろうとしているのか、二人と同じく寄り添ったまま、ご機嫌な声で歌っていた。