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    Iz_Mas_x

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    女体化魏嬰ちゃん、藍湛視点の途中経過です。

    【ワンクッション】

    魏無羨が女体化しています。
    女体化に合わせて色々と捏造しています。
    苦手な方はご注意ください。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #MDZS
    #忘羨
    WangXian
    #女体化
    feminization

    献舎されて蘇った魏無羨が、何故か女性だった話 第六.五話 中篇 今日もまた、宿全体に結界を施す。離れている間に彼の身に災いが起こらぬように。妖術で操られた者や邪祟が、彼に近付くことが出来ぬように。
     今の彼の魂は非常に不安定だ。前世で乱葬崗に落とされ、邪なものに蝕まれた彼の魂は、随分と傷付いている。そして、献舎により現世に蘇って尚、彼の魂は陰気に蝕まれたままなのだ。
     その陰気に引き寄せられるように、大小様々な妖魔鬼怪の類が彼に近付いて来る。勿論、彼ほどの腕ならば脅威にはならないことは藍忘機も解っている。それでも、心配なのだ。彼に害をもたらす可能性があるならば、全て排除したい。
     もう二度と、何者にも彼を毛筋ほども傷付けることのないように、一番近くで守る存在で在りたい。その想いから、せめて自分が宿を離れている間は、こうして結界を張ることで体調の優れない彼が、少しでも安らかに過ごせれば良いと願わずにはいられなかった。

     通りに出て、まだ話を聞いていない店は何処だったかと見渡せば、大小様々な店が目に飛び込んでくる。そこで藍忘機は、情報を得ようと話し掛けた人々がどういった店の者であったか、見ていなかったことに気付いた。
     それでは、相手も心を聞いて話をしてはくれないだろう。幾ら上辺ばかり真似たところで、相手を見ていなければ魏無羨のようにはいかないのも当然のことだった。
     ふと目に付いた看板に誘われて、藍忘機は店内に入ってゆく。にこやかに出迎えてくれた店主に藍忘機は何とか歩み寄ろうと、酒好きの人に贈るにはどの酒が良いのか訊ねた。
     店主は親切に、相手の性別や年齢、どんな銘柄の酒を好むのかを聞いてきて、藍忘機がそれに一つずつ答えると、それならばやはり天子笑が喜ばれるだろうと教えてくれた。
     酒のことはからきしの藍忘機には理解が及ばなかったが、それでも店主は解りやすく丁寧に答えてくれた。天子笑にも等級があり、いつも買っていた最高級のものよりも安く、一般に流通したものが魏無羨の好みに合うことまで教えてくれたのだ。
     藍忘機は丁寧に礼を述べ、天子笑を買い、怪異が起こっていないか訊ねれば、店主は自分は知らないがこの先の小間物屋の女店主が何か言っていたと教えてくれた。再び礼を述べた藍忘機は、小間物屋を訪れたのだった。

     小間物屋の女店主に、やはり会話の取っ掛かりにと許嫁に何か贈り物がしたいと相談すると、彼女は大層親身に相談に乗ってくれた。恋愛に疎い藍忘機は、許嫁である魏無羨の好みを訊かれても殆ど答えられなかった。
     だが、あまり華やかな装飾は好まないこと、彼の容姿など少ない情報を元に、店主は華美ではないが美しい細工が施された簪を幾つか選んで見せてくれた。その中から藍忘機が選んだのは、魏無羨の豊かな黒髪に映える繊細な細工の物だった。
     この簪を差した魏無羨を想像し、藍忘機は何時になく心が浮き立つのを感じた。ついでとばかりに、このところ顔色が優れない彼の為に、白粉と紅まで買ってしまうくらいには浮かれていた。
     彼は何故か、魏無羨だと気付かれていないと思っている。そして、魏無羨であることを気付かれたくないと思っている節もある。その為、藍忘機は彼から告げられるまでは気付いていない振りを貫く積もりでいる。
     それでも、この想いまでは無いことには出来ない。彼の帰還をどれほど待ち望んでいたか、もう二度と手放す積もりの無いことも、一生涯傍に居て守り通すと、婚姻が自分が心からの願いであると伝われば良い。
     藍忘機は、受け取った簪を懐へとしまい込んだ。
     それから、怪異について訊ねると、彼女の妹が嫁いだ清河で人喰い砦と呼ばれる、一度ひとたび足を踏み入れると例外なく怪物に喰われてしまう恐ろしい場所があるのだと言う。彼女の口振りから眉唾物だとは思ったが、此処でも藍忘機は丁重に礼を述べて店を後にしたのだった。

     ◇

     その後も藍忘機は、目に付いた店がある度に商品を求めては話を聞いたが、有益な情報は得られなかった。だが、乾坤袖にしまった彼へのささやかな贈り物の数々に、藍忘機はとても満足していた。
     どの品も全て、彼の為になる物ばかり選んだ。これで彼が少しでも心安らかに療養してくれれば良いと、心からそう願った。
     藍思追の乳母だった彼女から授かった、ちょっとした贈り物も喜ばれるという言葉は、藍忘機にも覚えがあった。百鳳山の巻狩で入場の際に彼がくれた花を、藍忘機は今も大切に手元に置いている。
     彼に花を貰って、本当は嬉しかった。だから、魏無羨にも自分と同じ喜びを味わって欲しかった。だが、贈り物を目にした彼の表情が徐々に翳り、困惑が色が濃くなってゆく様を目の当たりにして、藍忘機がまた失敗したのだと悟った。
     どうしたら彼は喜んでくれるのだろうか。花を受け取った時のような、胸の奥から湧き上がる温もりを彼にも感じて欲しい。その想いから思わず口を衝いて出た「君の好みを教えてほしい」という言葉は、彼の逆鱗に触れたようだった。
     本当に好きなのかと気持ちを疑られ、すぐさま愛していると答えたが、彼は「どうだか」と鼻で嗤った。それは自己満足だと、更には辟易するとも言われ、彼の気持ちに関係なく愛でたいだけならば壺でも磨いていろとまで言われた。
     喜んで欲しいと、彼の為になると、勝手に思い込んでいたが、確かに彼は何一つ望んでなどいなかった。また彼に自分の独り善がりな想いを押し付けてしまった。また彼に不快な思いをさせてしまった。もう、共に居ることは許されないだろう。
     だが、それだけは無理だ。二度と彼を手離すことなど出来ない。例え嫌われ憎まれたとしても、自分は魏無羨が離れてゆくことを認められない。こんなに蔑んだ眼差しを向けられて尚、彼の視界に入ることに愚かな自分は喜びを感じているのだ。
     彼に一人になりたいから着いて来るなと言われても、形振り構わず追い縋ることしか出来ない。魏無羨が離れてゆくと思うだけで、もう呼吸が苦しくなり指先が冷たくなり震えが止まらなくなる。
     そして、彼の放った言葉に心臓が凍てつき、鼓動を止めた。

    「鳥籠の中に押し込められて、一体何処に行けるって言うんだ? 俺の羽はあんたが捥もいだんだろう!」

     宿に張った結界のことだと直ぐに解った。彼の安寧の為と思いながらも、自由を愛する風のような彼が何処へも行けないようにと思わなかった訳ではない。
     自由な彼を愛している。彼の望むままにさせたい。それは本心だ。だが、実際に行動に移すのは無理だ。どうあっても彼を手離せない。天真爛漫な彼が心のままに振る舞う姿を見ていたい。そう、自分の目の届く場所という、極限られた範囲でしか自分はそれを許容出来ないのだ。

     行かないで。私の傍に居て。もう君の居ない生は耐えられない。私を捨てるなら、いっその事殺してこの苦しみから解放して欲しい。

     そんな想いは喉に貼り付き、何一つ言葉にならなかった。全身から力が抜け落ち、立ち上がることはおろか、手を伸ばすことすら敵わなかった。去りゆく彼の背をただ見送る他なかった藍忘機は、声もなくその場に泣き崩れた。
     彼の意を無視した自業自得だと解っていても、引き裂かれた胸の痛みに蹲ることしか出来ない。魏無羨を二度も失った今となっては、もう何もかもがどうでも良いと思えてくる。このまま呼吸も鼓動も止まれば良い。
     気付けば手には避塵が握られていた。これで首を断ち切ればと誘惑に駆られる。だが、もしそんな話が彼の耳に入れば、責任感の強い彼はずっとそのことで自身を責め続けるだろう。
     自分の存在が彼の心に残ることは魅力的だが、そんな負の感情で彼の心を縛るなど、藍忘機の意に反している。そして、幾ら二子とは言え姑蘇藍氏直系の者が自死などすれば、家名にも傷を付けることになる。
     ならば、自分はどうすれば良いのだろうか。閉関し、霊脈を封じ、辟穀し、命が尽きるその瞬間まで、彼にあんな思いをさせた自身を罰し続けることしか出来ないのだろうか。最期の刻まで未練がましく彼を想い続けることが、果たして罰になるのだろうか。
     愚かな自分に相応しい罰を考えなくてはいけない。何年経とうとも反省もせずに同じ過ちを繰り返し、身勝手でおぞましい執着に身を焦がす自身に相応しい厳しい罰を。
     戒鞭よりももっとずっと痛みが続くものが良い。仙師は長い生を約束されている。その間、ずっと痛みに苛まれていなければ、愚かな自分は直ぐに煩悩に身を委ねてしまうに違いないから。凌遅刑のような残酷な罰であればある程都合が良い。
     罪の意識から自身を罰する思考に囚われていると、不意に肩を叩かれた。

    「ただいま」

     その声に弾かれたように面を上げると、其処には困惑の表情を浮かべた魏無羨がいた。彼が此処に戻る筈などないのだというのに、自分はまた都合の良い夢を見ているのだろうか。
     しかし、夢ならば彼の姿が莫玄羽である筈がない。藍忘機が添い遂げたかったのは、あの頃の魏無羨なのだから。目の前の女性からは花のような芳香に混じり、甘酸っぱい汗の香りもする。よく見れば、ほんのりと額に汗が滲んでいる。
     夢ではないのだと気付いたものの、藍忘機は現実として受け入れられずにいた。あれだけ怒っていた魏無羨が、果たして自分が居る此処へ戻って来るだろうか。もしかして、忘れ物でも取りに戻ったのだろうか。
     だが、この人は今「ただいま」と言わなかったか。帰ってきてくれたのだろうか。あんな嫌な思いをさせた、こんな男の居る場所へ。嗚呼、そうだ。魏無羨という男はそういう懐の深い男だったのだと思い出した。
     それならば、自分には真っ先にやらねばならぬことがあるではないか。

    「……済まない…………」

     謝罪の言葉を告げたものの、藍忘機は彼からの返答が恐ろしくなり、視線を再び床に戻してしまう。瞬きをする程の僅かな時間しか経っていないというのに、この沈黙の間に堪えきれず、藍忘機は彼が何か言う前に絞り出すように次の言葉を紡いだ。

    「君の望む罰を受ける」

     だから許して欲しいと、浅ましい願いを乗せたその言葉を、彼はどう受け止めただろうか。反省していないではないかと怒っただろうか。それとも、もう何を言っても無駄だと呆れ果てただろうか。死刑宣告を受ける犯罪者の心地で裁きを待っていると、魏無羨は意外なことを口にした。

    「わかった。謝罪は受け入れる。俺も言い過ぎたから謝る。この通りだ、許してくれ」

     何と彼は謝罪を受け入れてくれたばかりか、自らも膝を付いて謝罪すると言うではないか。藍忘機は慌てて「何故、君が謝るの?」と彼を立たせようとしたが、その手を虚空で止めた。また軽率に彼に触れて、同じ過ちを犯す積もりか。
     触れる積もりはないと彼に伝わるように諸手を引いて肩の高さに掲げれば、何故か彼は弾けるように大笑いを始めたではないか。涙まで流し笑い転げる彼の姿に、怒りが頂点に達して気でも触れたかと心配になった。
     漸く笑いが収まったのか彼は拳で眦を乱暴に拭うと、胡座をかいて藍忘機と向き合った。そして、腹を割って話し合い、互いに理解を深め会って知己から始めようと提案してきた。
     予想だにしなかった流れに戸惑いつつも、再びやり直す機会を与えられたのだと、藍忘機の心にじわりと希望の光が灯る。魏無羨は自身に取って、希望の光そのものだ。安堵のあまり弛緩していると、彼はさながら花が綻ぶような笑みを浮かべた。
     素直な所が凄く可愛いと瞳を輝かせながら言う彼に、藍忘機は不思議な感慨を覚える。どう贔屓目に見ても、無愛想な自分より今も昔も魏無羨のほうが可愛らしいに決まっている。それなのに、自分を見て可愛いと繰り返す彼は満たされた笑みを浮かべていて。
     先程まで絶望の真っ只中に居たというのに、揺蕩たゆたうぬるま湯のように心地良い。揶揄からかわないで欲しいと口にすれば、彼は小さな掌を頬に添えて行儀の悪さを窘めたかと思えば、すぐさま頬の感触を夢中で伝えてくる。
     こんなふうに親しく触れられることなど、幼い頃に母にされて以来ついぞなかった藍忘機は、漸く気付いたのだった。魏無羨が仕掛けてくる悪戯の数々が、亡き母を思い起こさせるのだと。
     胸の内の柔らかな所にしまい込んでいた、甘えを許してくれる唯一の存在だった母を思い出してしまうから、彼に出会った頃の自分は戸惑い、心乱されることを恐れて彼を遠ざけようとしていたのだと。
     幾ら同じ女性とは言え、莫玄羽と母の見た目はさほど似ていない。男だった魏無羨とてそれは同じこと。けれど、こうして親しげに触れて甘やかそうとしてくれる、その心地良さは紛れもなく母と共に過ごしたあの僅かな時間と似ていると思えた。
     だから、この後に彼がくれた言葉も、自分を甘やかす為のものだったのだと解っていた。

    「あんたは可愛くて素直で良い奴だ。こんなに美人ちゃんなのに、それを鼻にかけることもしないし、藍二公子なのに逢乱必出を今も続けている。そんなあんたと知己になれるなら俺は幸せ者だ。だから、俺の前では可愛いあんたのままで居てくれよな」

     解ってはいたが、素直に受け入れるほど恥知らずにはなれなかった。
     可愛げもなければ素直でも良い奴でもないのだから。人に関心がないから見た目の美醜にもまるで興味がないだけだ。逢乱必出も、魏無羨の遺した何かを知る手掛かりになればと下心があった。
     常に正道を進む崇高な魏無羨に、そのように思ってもらえる男ではないのだ。申し訳なさから胸は潰れるように痛み、双眸からは熱い雫が後から後から湧き出てくる。
     こんなふうに突然泣いたりしたら、心根の優しい魏無羨は驚いているだろうと思うが、涙は止まらなかった。どうしたと問われても言葉は出ず、幼子のようにかぶりを振ることしか出来ない。
     藍忘機が落ち着くまでの間、彼はずっと頭を撫でて甘やかしてくれた。その優しさが、藍忘機には有り難くもあり、同時に辛かった。

    「私は君にそんなふうに言ってもらえる善良な者ではない。いつも自分のことばかり優先して、相手の望むことなど考えも及ばない。兄上のように笑みで相手を安心させることもできず、理解の及ばないことは相手の事情など考えもせずに正論をぶつけて追い詰めるような最低の男なのだ」

     自分は彼が一番辛かった時に救いの手を差し伸べず、邪道に走ったことを責めるだけだった。未だに、修為の高かった彼が何故、鬼道を選んだのかは判らないままだが、彼のことだ。何か理由があった筈なのに、それを聞こうともしなかった。
     何と傲慢だったのだろう。己の所業を思い出しただけで、この身は震えが止まらなくなる。自分の頬を優しく包み込んでくれたままの魏無羨は、懺悔を聞きながら時に神妙な顔を、時に不可解な顔をしたが、最後には柔らかな笑みを浮かべた。

    「確かにあんたは思ったことが顔に出にくい所はあるが、それが何だって言うんだ? この何日か一緒に居ただけの俺だって、あんたが恥ずかしがりのかわい子ちゃんだって解ったんだぞ」
    「それに、沢蕪君の笑顔だって、あれはあれで中々恐ろしい時だってあるんだぞ! あんたも覚えてるだろう? 朝餉の前の、あの有無を言わせないって顔! 思い出しただけで寒気がする! それなら俺は、あんたの鉄面皮のほうがずっといい。俺好みの美人ちゃんだからな! あんたはもっと、その顔を有効に使うべきだ」

     性格に難があることは否定しないが、感情が乗ることのないこの顔の造形をここまで褒められるのも正直微妙な気持ちになる。それでも、彼のきらきらした表情は、本心からそう思っているのだと伝わって来る。
     彼がこの顔を好ましく思ってくれているのならば、もう少し愛想笑いでもしたほうが良いのだろうか。上手く笑える自信は全くないのだが。そんなどうでも良いことを真剣に悩んでいると、自分を励まそうとしたのであろう魏無羨が、有り得ないことを口にしたのだった。

    「あんたは藍氏の家訓である雅正そのもの、規範となる立派な仙師だ。藍先生や沢蕪君だって、あんたを誇ることはあっても恥じることなどある筈がない」

     背に刻まれた戒鞭の理由を知らぬ彼が、本心からそう思ってくれていることは解った。だが、それだけは絶対に有り得ぬことだと、藍忘機は知っているのだ。
     こんな自分を認め、高く評価してくれていた三十三名の先輩方全員に重傷を負わせ、叔父と兄をも失望させたのだ。あの時、もっと上手く立ち回り叔父と兄を説得出来ていれば、魏無羨も死ぬことはなかったかも知れないと言うのに。

    「違うのだ……私はそんなに立派な者ではないのだ…………君にそんなふうに言ってもらえる立場に居ないのだ……」

     愚かで浅ましく、我欲にまみれた最低の人間なのだ。やはり、自分のような者が傍に居ては、彼をまた追い詰めてしまうかも知れない。期せずして彼に仇なすことが恐ろしいのに、離れることが出来ないのだ。
     頬を濡らし彼に詫びることしか出来ぬ身でありながら、こんなにも魏無羨を求めている。彼を幸せにすることも出来ぬ癖に、独占欲だけは人一倍強いのだ。いっそのことこのまま彼を連れ去り、誰にも知られない場所へ隠してしまえたらと思った。だが。
     自分を頑固だと言った彼が、本当は嫌いなのかと、仲良くなりたくないのかと言い出した為に、大いに慌てふためいたのだった。違う、そうではないと必死に言い募るが、彼は嫌われて当然などと悲しいことを言うものだから、四千条にも及ぶ家規が頭の中から消し飛んだ。

    「そんなことはない! 君はいつも正しい。君は……あんな迫害を受けて良い人ではない──」

     つい声を荒らげてそう言ってしまい、しまったと思った時は後の祭りだった。彼が魏無羨だと知っていることを彼に伝わってしまったと、失意から目を閉じようとしたその時、魏無羨は意外なことを訊ねてきたのだった。

    「じゃあ、俺のこと好き?」
    「愛している」

     即答だった。魏無羨を愛している。それだけが藍忘機の中にある真実なのだから。彼がしてくれるのと同じように、そっと頬を両手で包み込んだ。

    「こんなにも心動かされるのは君だけ。君は私の全て。二度と手離したりしない」

     こんなふうに想いを寄せるのは一生涯通して、否、仮に幾たび生まれ変わったとしても魏無羨唯一人しか居ない。それなのに、彼はそれならば安心だと言いながら、そのかんばせに僅かな憂いを乗せた。
     すぐに作り笑いに上書きされたその表情が忘れられず、藍忘機は自分に話せない憂いが彼の心を占めていることを悲しんだ。それでも、今は彼が言いたくないことなのだと己を納得させると、彼への贈り物について話し始めたのだった。
     時折相槌を打ちながら、最後まで話を聞いてくれた魏無羨は、先に理由を訊ねるべきだったと再び頭を下げた。そして、外食がしたいと愛らしくねだって見せた。
     気を遣われたのだとすぐに解ったが、それでも彼とて何日か振りのきちんとした外出だ。藍忘機は首肯すると直ぐに支度を始めた。
     彼は絵心もあると思っていたが、どうやら化粧に関しては門外漢だったようで、その腕前は表現に困るものだった。見様見真似で彼に薄化粧を施し、つい興に乗り髪も編み込み、贈った簪もちゃっかり添えた。
     姑蘇藍氏の純白の校服に身を包んだ彼は、何処からどう見ても藍氏の公女だ。身幅を合わせた校服は楚々とした印象を与えるが、豊かな胸と細くくびれた腰から張り出した尻への稜線が強調され、藍忘機は鼓動が速くなるのを感じていた。

     ◇

     彼と連れ立ち町を歩くと、当然のことながら彼は衆目を大いに集めた。美しい容姿に控えめな仕草は、老若男女を問わず理想の女性像である。恐らくは藍二公子と周知された自分の立場を慮ってのことだと思うと、嬉しくもあるが無理をさせていないかと心配にもなる。
     せめて先程の礼に思い切り甘やかそうと、声を掛けてきた店主の誘いに乗り、其処此処の店を覗き、彼に勧めるが決まって彼は控えめに首を横に振るばかりだ。
     遠慮している訳ではなさそうなので、藍忘機も特に気にせず次の品をまた勧めることを繰り返した。勿論、彼の好みを調査する為だ。そのうち、控えめに袖を引かれて何事かと振り返れば、身長差のお陰で上目遣いになった魏無羨が視界に飛び込んできた。
     余りの愛らしさに正体をなくした藍忘機は、ふらふらと彼に顔を寄せた。空腹を訴える彼もまた愛らしく、相好を緩めると藍忘機は思い出の中の夷陵の町の食事処を選んだのだった。
     個室を希望し、食事が運ばれてきた所で個室全体に防音の結界を施した。魏無羨は漸くいつもの眩しい笑みを浮かべ、酒杯に注いだ酒を一気に呷り、とんでもないことを口走った。

    「っあーっ! 生き返るーっ!」

     確かに彼は生き返った人間だ。正確には献舎で蘇った、だが。そんなに堂々と言って良い内容なのだろうか。彼はそのことを隠していた筈なのだが。彼の顔を見れば、特に意味のない言葉だったようでキョトンとしている。藍忘機は彼の迂闊さに肩を落としたのだった。
     向かいに座った魏無羨は、美味しそうに食事をする。雲深不知処の薄味に慣れた藍忘機にはどれも刺激の強い味付けだったが、それだけでも心が満たされる光景だった。
     暫くは機嫌良く料理や酒に舌鼓を打っていた魏無羨だったが、徐々にその顔色が優れなくなっていった。何処か体調が悪いのだろう。隣に座り横になるよう促せば、彼は珍しく素直に従った。本当に体調が優れないのだろう。
     ゆっくりと頭を撫でてやると、彼は直ぐに気を失ってしまった。しきりに江厭離を呼び、ひとりぼっちで寂しいと零れ落ちた言葉に、藍忘機はギュッと彼を強く抱き締めたのだった。

     《続》
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