花のような男だと思った。摘めばそれだけで萎れてしまうような儚い男だと思った。
だからか、歪に歪みその赤い手は、心底そうっとその体を抱き寄せている。恭しげで、優しく、割れる宝石を扱うようなその手は、けれども当の体の主が見ることはない。その双眸は深い赤色に沈み、何者をも映さない。一見哀れにすら思えるその瞳を、けれども紅色はそう認識しなかった。美しいと思った。瑞々しい血の流れる心臓のような色だ。人間たちが謳う宝石の美しさとは、この赤い眼のことを言うのだろう。なるほどこれであれば、己の手中に収めんと躍起になるのも頷ける。
「ふふっ」ふいに見つめていた赤の瞳が細められる「くすぐったい」
それもそのはずで。塩、と呼ばれる男には、紅衣の男から伸びる白い蔦が伸びていた。白い蝶を伴う蔦は、いつもなら紅色の力を知らしめる脅威となるものだ。けれども今ばかりは……この美しく儚い白い男に触れる今ばかりは、その凶暴さの一切を拭い捨てている。そうっと、さも割れ物に触れるかのような慎重さで白い肌に、その唇に触れる。途方もない愛欲を示すその動きは、けれども見えない彼にとってはくすぐったいものだったのだろう。微笑む唇を今一度蔦で撫でてやれば、くすくすと愛らしい声がいっそうこぼれ落ちる。
「それ、どうやってるんだい?」
探すように、白い男の手が擡げられる。視界がないためにゆらりとうろつくその手を取ってやりたいと、紅衣の男は思った。革とカバーをベルトで巻き付けた、かつて狩人であった時分を忘れられない手。愛おしい手だ。けれども、男は手を、伸びかけた蔦を下ろした。触れれば壊れてしまいそうだと、錯覚でしかないことを思ったのだ。自分の髪に、耳に触れる手をそのまま受け入れ続ける。視えないというのに、その哀れさを厭わず優しく微笑む眼差しは、やはり心底愛おしい。
だから彼は、優しい沈黙を選ぶ。
「……秘密だ」