ほら、穴。 柔らかな光の気配。暗闇に小さな白色の点があらわれる。しばしの間目を凝らしているとみるみるうちにそれは広がりを見せ、一閃を描き、やがて膨張した。暗闇から転じて辺り一帯が真っ白に明滅し、乱反射する光の眩しさにまぶたをしばたかせる。すると睫毛の隙間から、見慣れた部屋の天井がぼんやりと見え始めた。幾度か瞬きを繰り返していると徐々に空間の輪郭が浮かび上がる。朝を告げる鳥たちの、ちいさな囀りが窓の隙間から耳に届く。目が覚めたことと眠っていたこと。その両方をカインは同時に認識した。
起き上がろうと身を捩らせると、体の節々が軋むような鈍い痛みを発し、思わず呻き声が漏れる。背中の硬い感触に、どうやら床で眠っていたらしいことが分かり、けれども幸いと言っていいのか、床板ではなく体はカーペットの上に乗っていたようであった。
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