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    huwakira

    @huwakira

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    huwakira

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    ディアソのNOT監督生

    小市民モブは引きこもりたい 吾輩はオタクである。
     漫画を愛し、アニメを吸って、ソシャゲを嗜み、推しのためにATMになることに己の人生をかけて生きてきた生粋のオタクである。
     そんな吾輩、現在本気で死にかけている。主に心が。

    「なんっで既知転……」

     目が覚めたらド派手なビラビラ服着て棺桶に詰め込まれてましたうぇーい!
     ツイステじゃねぇかよ!! しぶで!! 百万回見た!!!!

     まさか狸呼ばわりの猫型のアレが棺桶を開けたりしねぇだろうなと戦々恐々としながら時間が過ぎるのを待ってたんだけど、普通に時間宣言とともに蓋ぱっかんして鏡の前に呼ばれ、さくっと組み分け……じゃなかった寮分けされて列に並ばされた。
     鏡曰く

    「汝の魂は……ディアソムニア!!」

     なんっっっっで!?
     全7寮のうちこれほどまでにありえないとこもないだろうなに考えてんのこの鏡不良品かな?!
     何しろこちとら3代どころか5代遡っても高貴な血なんて一滴も入っていないような生粋の庶民。
     当の本人もごく当たり前にそれを甘受してきた小心者の小市民ぞ?!

    「うわぁ……もうやだ絶対引きこもる……誰とも出会わず生きていきたい」
    『え、わかる』

     ふらふらヨタヨタと指示された新入生の待機場所に向かう途中、思わずぼやいた一言に、なぜか背後上空から同意があったのが本日のハイライト。



    どうも、生粋の庶民、小心者の小市民モブです。
     現在私、そろそろ限界を迎えようとしております。
     いやもうだってさぁ!!
     このディアソムニア寮は、人間ならばいわゆるおぼっちゃま、青い血の流れる方々が当たり前にその義務を果たしてるような場所。それだけでも肩身が死ぬほど狭いのに、癒しのもふもふ獣人は極端に少なく、特に突出して多いのが、妖精の皆さんな訳です。
     年齢的にはそれほど飛び抜けて年上だったりする長命種は流石に少ないけれど、とにかく魔力やら体力やら種族的な丈夫さやらが、人間のそれとはかけ離れてるわけで。
     そんな中に魔力も平均体力は底辺、所作はモロ庶民のそれ、しかも日本人ゆえめちゃくちゃ若く見える、なんて毛色の違う雑種が混ざったらどうなるか。

    「もうやだ、お菓子もおもちゃもいらないしそんな大事大事によちよちされなくても普通に生きていけるから構わないでぇ……(震え声)」

     そう、全力で幼児扱いされるんだよ!!
     ただでさえ異世界から転がり込んでるせいで知識も常識もあやふやで、割と世間知らずムーヴをかました自覚はあるけども!
     それでいて一応IT世代だから普通にスマホもPCも使えるってことで、そういったことが苦手な妖精の皆さんのサポートを全力でしちゃったのもいけなかった。
     いつの間にやら寮を上げてすっかり「うちの可愛い孫」扱いになってて、廊下を歩けば抱え上げられ食事をすればアーンを強要され、教科書はふりがなが振られ甘いお菓子を常に差し出され、挙句ガラガラでんでん太鼓であやされそうになるとはどう言うことかな?!
     目を離したらすぐにでも死んでしまうとばかりに24時間体制でお世話されて、コミュ障で一人の時間を大事にするオタクは既にSAN値はマイナスだよこん畜生。

    「せめてお菓子が口に合うならば色々振り切っちゃうこともできたのに……」

     仕送りなんてないから寮に内緒で全力で掛け持ちバイトマンしてる(多分バレたら過保護が加速する)身ゆえ、食べ物はなんだかんだありがたいものではあるんだけどさ。
     こちらのお菓子はいわゆる海外のそれなもんだから、とにかく甘くてくどくて油分過多な上量が多い。日本のお菓子メーカーさんがどれほど優秀だったのかがよくわかる雑な味なんだよなぁ……。

    「えぇん……お饅頭……イチゴ大福……抹茶アイス食べたいでござるぅ……」

     以前はおばあちゃんの味かっこ笑とか馬鹿にしてたはずの、今となっては恋しいばかりの和菓子をあれこれ思い浮かべながら、今日も今日とて甘ったるいだけのチョコレートバーをしがんでたらば。

    「あの……副寮長、何をされてるんですか……?」
    「ん? おお、おぬしか。何、少々夜食でもと思ってな!」

     なんということでしょう。
     ツイステの世界でも特に悪名高い、かのリリア・ヴァンルージュ氏のデスポイズンクッキングにかち合ってしまいましたよじーーーざす!!

    「あの、それ、抹茶、ですよね……なんで7缶もあるんですか……?」
    「おぉ、これを知っておるのか! これはな、栄養価も高く香りもよいということで、たっぷり練り込んでやろうと思ったのじゃよ!」

     何の粉かはわからないけど白い粉末ボウルに半分に対して、ミニ缶とはいえ7缶全部入れる気だったの? ついでに抹茶以外にも、ほうれん草(生)とか葉も落としてないパイナップル丸一個とか、そこに並んでるつやつやピンクのレバーは何に使うおつもりなんです?!
     せっかくお抹茶に出会えたのにぃいい!!!!

    「……抹茶はカフェインが強いので、夜にたくさん食べると眠れなくなります、よ」
    「なんと、そうじゃったのか!? それは夜食には向かんのぅ、残念じゃ」

     大変残念そうに眉をハの字にしてるリリア先輩はそれはそれは麗しいけど、ほんと、ヤバい気配しかないんだけども正気だろうかこのヒト(暴言)

    「あの、もし、よければなんですが。その、私にもお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」
    「おぉ、そういえばおぬしも料理をたしなむのであったか。もちろんじゃ、ともに作ろうぞ!」

     お金を節約するために、無料で食べられない分はあれこれ自分で食材を買ってきて作ったりもしているから一応経験はそれなりにある。それらを妖精さんおじいちゃんたちに振舞ったりというのもリリア先輩の耳に入っているようだ。

    「夜食だとあんまりこってりしてない、材料3つか4つくらいのシンプルなのがいいですよ」
    「む、それではつまらんと思うんじゃがのぉ」
    「たっぷり具材を使うあれこれは、それこそがっつり食べたい時がいいですよ、きっと」

     シンプルなのがいい、でなぜパインとレバーを手に取ったんだこのおじいちゃんは!!
     あれこれ必死でごまかしつつ、どうにかこうにか作り上げたのは抹茶入りのパンケーキ。せっかくなんで少量香りづけに使おう、と小さじを渡したはずが危うく一缶ひっくり返されそうになったのはどうにか阻止した。パインは朝食の時のデザート、レバーはパンに塗るパテにしましょうなんて提案しつつ、隙あらば変なスパイスを足そうとしてくるリリア先輩の魔の手をかいくぐって、積みに積んだり15枚。

    「ふふ、ほんのり緑が綺麗じゃのう。よい匂いじゃ」
    「どなたに差し入れかは存じあげませんが、きっと喜んでくれますよ」

     シルバー君なんだろうな、なんてほっこりしながらカトラリーと取り皿、バターケースとチョコシロップのボトルをお盆にのせる。あんこがあればよかったのになー。

    「うむ、マレウスが待っておるでな、急ぎ持っていくことにしよう」
    「待って待って王族に献上するようなお品じゃないです先輩」

     次の瞬間聞こえてきた名前に、思わず真顔になったし息継ぎを忘れた。
     え、まじで? ツノ太郎パイセン用だったの? わりと適当に生地作って焼いちゃったんだけど?!

    「ふふ、もしよければおぬしも一緒にどうじゃ、よい茶葉があるのじゃが」
    「ひぃ オソレオオイノデ ゴエンリョ サセテクダサイ」
    「そう言うでない、ほれ、行くぞ」
    「ぎゃああああ待って小さいのに力強い抱っこ怖い怖いお盆浮いてる待ってぇええ?!」

     結局そのあと、きっちりしっかり深夜の寮長室に放り込まれたモブは、リリア先輩に手ずからお茶を淹れていただき、無心でパンケーキを半分ほど口にしたところで限界を迎えた。
     うん、ツノ太郎にあの麗しいお顔で美味しい、って微笑まれて脳みそパーンってした。
     気が付いたら自室のベッドの中で、夢かな、って思ったのに枕もとにきっちりお二方連名のメッセージカードがおかれていてまた気が遠くなったよほんとに。
     しかも、ふらふらしながらそれでもどうにかたどり着いた食堂で、キラキラの銀髪が朝の光にけぶる様な超絶美少年に声をかけられ、挙句頭を下げられちゃったりしたもんだから、今日は一日使い物にならない自信がある。

    「昨晩は、おや……じゃない、リリア先輩が世話になった。作ってもらったパンケーキ、俺も朝食に食べたが本当に美味しかった。心より感謝する」
    「ヒェ……オ、オキニナサラズ」

     こっそり小声で「リリア先輩の料理は何があっても口にしてはならない」「まさかちゃんと食べられるものが出てくると思わなかった」などと付け足され、私ってばどんな顔してたのか自分でもわからんのです顔が近い。

    「マレウス様も、今度はゆっくり話がしたいと仰っていた。よければまた参加してくれると嬉しい」
    「ビャッ?! キ、キカイガアレバ?!」

     どうか勘弁してください!!
     わぁああん、お願いだからひっそり静かに引きこもらせてぇえええ!!!



     さて、その後。
     心からの願いもむなしく、それからもちょくちょくリリア先輩とキッチンで遭遇することになり、しかもなんでか私の言うことは素直に聞いてくれる所為かわりと食べられるレベルのご飯が完成するということで各所から物凄く感謝されたりする羽目になったり。
     2年になって入学してきたセベク君に全力で突っかかられた後その事実を知った彼に土下座され、若様のために!とことあるごとに掻っ攫われてキッチンに放り込まれることになったり。
     いっそ開き直ってやらかしてしまえと、どうせ届かないことを前提に全力で作ったお茶会の招待状をなぜか無事にツノ太郎に手渡すことができてしまったせいで、花咲き乱れる晴天が一週間続くことに恐れおののいたり。
     リリア先輩に分けてもらった抹茶で抹茶アイスを作ったらツノ太郎の味覚にクリティカルヒットしちゃったらしく、毎日のように作ってくれとおねだりが来るようになってしまったり……!!
     そんなこんなでいつの間にやら「副寮長補佐」なんて言う肩書がついちゃって、いろんな場面で巻き込まれることになったりするんだけど。

     あぁ、いつになったら引きこもれるのかなぁ……。
     私はしがないモブなんだけどなぁ……。
     おそら、きれい。





    「リリア、アレを茨の谷に連れて帰りたい」
    「ふむ、よいのではないか?」

     う、なんか急に寒気が?!






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