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    huwakira

    @huwakira

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    huwakira

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    白い部屋はお嫌いですか ご都合○○、ってのはオタクをやってればみんな一度は履修してるものだと思う、
     某御刀の世界での短刀詐欺短刀の謎の薬に真っ白爺の悪戯、某鬼を狩る世界の鬼の特殊能力。様々なソシャゲで謳われる転送事故に頭を打っての入れ替わり、ともすればいやそうはならんやろ、なアレコレも、だってそういうものなんだとさくしゃが言うのならばありになる。
     まさに、神の視点にのみ都合のいい魔法の呪文。
     私だって御多分に漏れず、えぇ、様々なジャンルを渡り歩いては、そのご都合を美味しくいただいてきた自覚はある。

     で、今私がいる世界で言うならば、それは「魔法薬」であったり「ユニーク魔法」であったりするのだろう。
     一応、理論もあれば法則もある力ではあるみたいだけど、何もわからない上に使えもしない私にしてみたら、それはまさに物語でつづられていた不思議ぱぅわぁでしかない。
     こんなこと言いな、できたらいいな、と思わず歌ってしまうアレコレを、私は完全に外側からの観客視点で、悠々自適に楽しんでいた。
     楽しんでいた、はず、だった。


     ある日目が覚めたら真っ白い部屋の中。
     うん、これ某SNSで百万回は見た。むしろ自分でも書いた。美味しくいただいてきた。
     だけど、いざ自分で経験してみるとこれほどむかつくこともないんだな、と、大変嬉しくない気付きを得ることになった。
     普段、べこべこな上にあちこちばねの飛び出たかったいベッドのうえにぺらっぺらの煎餅布団で寝ている私にとって、マブに誘われての他寮でのお泊りは、数少ない安眠タイム。それなのに、目が覚めたら床に放り投げられているとはどういうことだ。
     しかも一緒にいたはずのマブの姿も、私のお腹を枕にぷぅぷぅ寝息を立ててた相棒もどこにもいないというのはさすがに難易度がナイトメアすぎんか。

    「お題、系ではなさそうかな……白い部屋はいいけどせめてベッドくらいは用意しておけよ適当すぎんだろこの部屋……」

     天井も壁も床も、全部が白一色。照明器具はどこにもついているようには見えないけれど、不思議と視界は早朝程度には明るい感じ。
     ぱっと見だけど形は長方形。どこかが出っ張っていたりへこんだりもしてない、ついでに扉などの出入り口も見当たらない、本当にただただ白いだけの大体6畳くらいの無の空間だった。
     服装は記憶にある部屋着代わりのスペード印のおさがりジャージ。ただし、腕にはめていたはずの学園長からの支給品である「魔力を感知する腕輪」はご丁寧に外されているようだ。
     立ち上がってみれば、天井までの高さは普通の部屋よりは低いだろうか。思い切りジャンプしたらどうにか指がかすめそうな高さだった。
     試しにぐるっと壁をたたきながら部屋を一周してみたけど、特に変わったこと、気づいたことはなし。床にも隙間や段差どころか爪が引っかかるところすらなくて四つん這いになってることにむなしさすらあった。

    「うーーん……できることがいきなり尽きたんだが……」

     ぱんぱん、と手を打ってみて、音が異様に響かないことに気づいたけど、目新しいことと言ったらそれくらいだろうか。

    「あれかな、誰もいない状態で5感をいくつか封じてやると人間数時間で発狂するっていうしそれ狙い? したらこの部屋を外から監視してるのがいてもおかしくないけど……」

     ぶつぶつと口に出すのは、音がなさ過ぎて不安が膨らみ始めてるからだった。
     大丈夫、もし自分がいなくなっているのだとしたら、友人たちも先輩方も先生も、きっと誰かが探してくれてるはず。
     自分にそう言い聞かせつつ、何回目かの柏手を打った時だった。

    「……おぉ、変化キタコレ」

     カタン、という、初めて聞く自分がたてる以外の音がして、ひらりと目の前に落ちてきた白い小さな紙。
     慌てて拾い上げてみれば、そこには「誰を選ぶ?」とだけが書かれていた。

    「……? パートナーを選べってことか?」

     ぺ、と裏返してみれば、下の方にやたらと小さな文字で、しかも薄い黄色のインクという嫌がらせのようなそれで追加情報が書かれていた。

    「君と交換、ってふっっざけんな!! 選んだら今度はその人が被害者になるってことじゃん!!」

     却下!!、と叫んで、八つ当たりも兼ねてメモをぐしゃりと丸めて放り投げる。
     ぺしょん、とほとんど音にもならずに壁にぶつかってころころと転がるメモ用紙を見るともなく眺めつつ、大きくため息を一つついた。
     またも振出しに戻る、かと思ったんだけど……。

    「……あれ、ころがって、る?」

     壁に跳ね返ってころころしていたメモ用紙。重さもないしほんの数回転がればいい程度の、ちゃんと丸くまとめたわけでもないそれが、わずかだけれど、動いている、ような。
     ほとんど反射的にもう一度床に転がり、動いているめみょうのあたりに舐めて濡らした指をかざしてみたら、ビンゴだ!

    「風!! 動いてる!!」

     爪が引っかかる隙間さえなかったはずの床と壁、だけど考えてみたらその境目はちゃんと調べただろうか。
     大慌てで指をあててずりずりと動いていけば、一か所だけ、ほんの少しだけ空気が動いてる箇所、つまり隙間が空いてるところが10センチほどあって、なんかもうそれを認識しただけで涙が出そうになった。

    「えーと、どうしたらいいんだ、メモでも突っ込んでみるか? あ、駄目だ、クシャクシャすぎて入っていかない……んぎぃいい、えーと、えーと」

     爪がわずかに突っ込める程度の狭く細いその隙間。メモが綺麗なままだったら探れたかもしれないのに、短気を起こした数分前の自分を全力で殴りたい。 

    「ああーーー何なの、何のための穴なの、せめてなんかリアクション!!」

     その叫びが聞こえたのかどうか、しばらくの沈黙の後、すき間からつ、と覗いたのは、青い紙のはじっこだった。

    「……ぐすっ……」

     そろそろ、と爪の先でその紙を引き出すと、さっきの白い紙よりちょっと厚手で、ぺらりとめくってみるとそこにはまたさっきと同じ字体で「一番頭のいい人は?」

    「え、これ、知り合いの中で、ってこと……?」

     ふ、と頭に思い浮かべたのは、それほど親しくはないけれど、二つ名もちの天才寮長だった。
     や、某赤の女王様とか深海の商人とかも頭がいいのは知ってるんだけど! でもなんかこう、勉強ができる、というよりは回転が速い? 物事への対処、というところで考えたら、どうしてもネコ科の王子様とか炎の天才さんとかに分がある気がするんだよね。

    「あ、裏側。さっきみたいに変な罠があったらやば、い……」

     裏側には、紙とほとんど同じ色のペンで小さく書かれた一言「ご案内」

    「あーーーー!? 待って待って何も考えてないです誰も思い浮かべてないですーーーー!?」

     ぶわり、と目を開けていられないほどの強い風と共に、どさり、と重い何かが床に打ち付けられた音が、した。
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