ホラー日記2●月●日
食べられる雑草を教えてくれた獣人の先輩が、なんだか様子がおかしかったので声をかけた。
いつもお世話をしている先輩の様子がおかしいんだって。
その時はそうなのかーって思っただけだけど、何となく気になったので覚えておこうと思う。
●月◎日
お使い先の植物園で寝ているライオンさんを見かけた。
綺麗なお姉さんに膝枕なんかされちゃって、いいご身分だなぁおい。
男子校に恋人を呼び込むとか、なかなかの度胸だと思った。
●月〇日
お掃除に行った植物園でまたこの間のライオンさんが寝てた。今日も恋人さんと一緒なのか、と思ったら、ハイエナパイセンが駆け寄ってきたので、あ、あの先輩が噂の、って思った。
気が付いたら恋人さんはいなくなってたので、もしかして秘密のなんちゃらってやつ?
●月△日
ハイエナパイセンの顔色が悪いので、ライオンさんに声をかけに行くことにした。
いつも恋人と一緒でいいですね、って言ったら、なんかぼんやりした様子で「そうだろう?」なんて返されたけど、仲介のハイエナ先輩が真っ青な顔になっちゃったからあわてて保健室に連れていくことになっちゃってあんまりお話聞けなかった。
コイバナとか聞きたかったな、残念。
●月▲日
ライオン先輩のとこにいつもいる女の人が教室にいた。新任の先生かなんかだったのかな。
●月△日
今日はライオン先輩がぐっすり眠ってるのに恋人さんがいないから、これ幸いと寝顔を拝見しに行った。いや、めちゃくちゃ顔がいいんだよ。王子様だっていうし当然かな。
ちょっと妬ましくなったので、おでこに手持ちの塩を積んでやった。起きないのが悪いよね。
体を起こした時の顔を見られないのが残念だった。
●月▲日
昨日の夜、部屋に誰かが訪ねてきたみたいなんだけど、寝ぼけてたから枕元にあった何かを力いっぱいぶつけてしまった覚えしかない。
グリムが偶然作ったピンクの岩塩がなくなってたのは多分気のせい。
気のせいってことにしておいて。
●月◇日
ライオン先輩、最近恋人さんと一緒にいないな、って思ったら、ハイエナパイセンが無くしたはずの岩塩(一回り小さい姿)持って寮に訪ねてきた。
見覚えは?っていうからグリムが作って私が持ってたものだと答えたら、なんか泣きそうな顔してめっちゃお高そうなお肉をプレゼントしてくれた。
なにがなんだかわからなかったけど、岩塩を削ってステーキにしたよ。美味しかった。
え、これっスか? 聞いてくださいよジャック君。もうほんと、めっちゃくちゃしんどかったんスから。
●月の頭、そうそう、なんかめちゃくちゃレオナさんの実家から色んな荷物が箱積みできて騒ぎになったあの頃なんスけどね。
レオナさんが、おかしなことを言いだしたんスよ。
「毎日、昨日の夢の続きの夢を見る」って。
子供のころにそういうのってあったでしょ、だからはじめは笑って聞いてたんス。可愛いとこあるんだな―くらいなもんで。
初めに気持ち悪いな、って思ったのは、その夢の中に出てくるっていう女を名前で呼び始めた頃かな。や、あの人、自分が認めた人間じゃなきゃわりと扱い雑でしょ? なのに夢の中の人物をちゃんと名前呼びっスよ、おっかしいでしょ。
そんでね、そう、あの頃のあの人、普段からよく寝る人だったけど、常に眠そうってか、ぼんやりとするようになって。ほら、起こしても起きないってジャック君も言ってたでしょ。そんでこれなんかヤバイんじゃ、って思い始めたんスよ。
スラムでもね、あったんスよ。眠り病。あ、ジャック君はよその出身だから知らないか。夕焼けの草原の一部で、眠ったまま目が覚めないで衰弱死してくっていう、怖い病気が流行ったことがあったんス。まぁ、オレらがまだうんと小さいころだったから詳しいことは俺も知らねぇんスけど。
本気でヤバいなって思ったのは、レオナさんが「アイツに会いに行く」って言いだした時かな。そうそう、寝る前に。何を贈ったら喜ぶか、なんてらしくもないこと言ってて、あ、ヤバイって。背中から尻尾までぞわーってしましたもん。
誰に相談していいかもわかんなくてオロオロしてたら、オンボロ寮の、あのコ。うん、そのコがなんか話聞いてくれたんスよ。
何をしてもらうつもりだったわけでもないんスけどね、なんかもう誰でもいいから吐き出したかったってーか……そんな顔されても、この寮で誰かに弱みを見せるとか、普通はできないもんでしょ、ね。
で、決定的だったのはその監督生君と一緒にレオナさんに会いに行った時なんすけど、あの子レオナさんに、「いつも恋人と一緒でいいね」なんて言ったんス。
そうっす、この男子校で、女と一緒に居られてうらやましいって、ごく普通に言い出して! しかもレオナさん、そうだろうってまんざらでもない感じなんスよ、もうオレの方が頭おかしくなったかと思って!
わけわかんないまんま保健室でベッドに押し込まれて、そこで、オレまで変な夢見て……うん、なんか女が出てきて邪魔すんなって絡まれるんスよね、今思い出してもきんもち悪いっつか。
もうレオナさんのお世話とかすんの辞めようかなーって思ってたんスけどね、なんかレオナさん、オデコに変ないたずらされてた日があったんスね。
体起こした時にばさーって口に入ったらしくて、「しょっぱ!!」って叫んでて。そ、塩、デコに積まれてたみたいで。正直死ぬほど笑ったっス。
でもね、その日から、レオナさんがふと正気に戻ったっつか……夢の中の女の話を、しなくなったんス。ほんと、いきなり。
あれ、って思ってたら、その日の晩かな。レオナさんは早々にベッドに転がっちゃったんで、部屋で洗濯物たたんでたんスけど、そしたらいきなりガッシャーーン!!ってすんごい音がして。
あ、ジャック君までそんな顔します? 誰に訊いても、そんな音はしてないっていうんスよね、本気で耳がキーンってなるくらいすんごい音だったのに。
で、そんな音がしたらレオナさんが起きてるかと思って振り返ったら、ふっつーに寝てて、そんなんまたヤバイやつかなって思うでしょ?
もう半泣きで駆けよったんスけど、そしたら、これが。小物入れ……っすかね、中は空っぽ。や、宝石とかついてるお高そうなやつなんで、俺は一度も触ってないっスよ。こればっかりはばーちゃんに誓ってもいいっス。
うん、これにね、なんかこぶし大の石みたいのがめり込んでたんスよね。
あはは、そうそう、この凹んでるとこ。ピンク色のね、あとで聞いたら、監督生君が無くしたグリム君作の岩塩だったって。
なんでそれが、って思うでしょ? 外から飛んでくるにしたって、あの日、監督生君がうちの寮にいたわけないし。犯人探し? したっすよ、いろんな奴に訊いてたでしょ、あのころ。
でも結局ね、何が何だかわかんないけど、とにかくその日以来、レオナさんは夢の続きを見なくなったし、ぼんやりもしなくなったんスよね。
で、この小物入れ、レオナさんは部屋に持ち込んだ覚えはないそうなんス。
そうなんスよ、結構前からあった気がするんスけど、俺もいつくらいからそこにあったのか覚えてないんス、こんな派手なもんなのに。金ぴかでお高そうなのに!
いらないからやる、って今日渡されて、なんか気味が悪かったんでサムさんのとこに売りに行ったら、まさかの買取拒否で、学園長にでも持って行けって言われちゃって。
初めてっスよ、サムさんに買取拒否されたのなんて。いい金になると思ったのになー。ま、明日にでも届けに行こうかなって。
あー、ちょっと、一瞬、スラムに送ってやろうとも思ったんすけど、何となく気持ち悪いんで、素直にサムさんの言うこときいておくつもりっス。
いやもうほんと、こういうわけわかんないのは勘弁してほしいっスよ。腹いせにレオナさんの財布でうまい肉たらふく買ってやったんで、ジャック君も一緒に焼き肉でも……お、参加っすね、よっしゃ荷物持ちゲットー!