狐が出るか妖が出るかからんころん、からんころん
足元の地面がからからと笑う、踵はころんと不思議な音を鳴らし、この場所が夢の中だということを告げる
「……ここ、どこだろう」
藤丸立香は迷子になっていた、自分の夢の中で迷子になっていた。真っ暗闇のはずなのに自分の輪郭はくっきりと見えて、それ以外が何も見えないし何も聞こえない……閉じ込められてしまったとしてももっと視界はあるはずだ、なのになんにも見えない……なんだろう、これ?
よくある事なのだが、改めて認識するとおかしなものだ。自分が見ているはずの夢の中で、迷子になるなんて……
からんころん、からんころん
何かが前から近づいてくる、不思議と怖い雰囲気はない…自分にとって都合のいい夢だからだろうか
近づいてきたそれは人型だった…長身の誰か、黒い狐のお面を顔に貼り付けて麻の葉柄の黒の浴衣に身を包んだ……えっ、あれ?
「…………セイバー?」
「ふッ…………あぁ、気がついたか、マスター」
「…よかったー!私の知ってる人がいた!ねぇ、ここどこか知らない?……って、私の夢の中なのにおかしいよね
「いいや、君は何も間違っていないさ」
「間違ってない…?おかしくないじゃなくて?」
「あぁ、間違ってないとも……さぁ、奥に行こうか、お手をどうぞ?我がマスター」
「んッ、あ、ありがとう……」
スっと出された彼の手を取る……こんなに冷たかったっけ?と思うほどに、まるで氷のように彼の手が冷えていた。普段なら陽の光のように暖かなはずなのに、夢だからかなぁ……不思議の国のアリスみたい、全てがあべこべになっていて、それでいて正しいような…少しだけワクワクしながら、手を引かれ歩んでいく
しばらくすると開けた場所に出た
そこでは縁日が開かれていた…自分の故郷でもよく夏場に見かけた、晴れやかなお祭りが。懐かしさが胸に込み上げてきて少し泣きそうになったが、空気がひんやりとしていたおかげなのか涙は出なかった
「……わぁ!お祭り!」
「あぁ、祭りだな…ところで、君はこれから予定はあるかな?」
「えっ?うーん、多分ない……よ?」
「そうかそうか、では向かおうか、あちらへ」
「……???」