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    kurautu

    Mマス関連の小説をマイペースに上げていきます

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    kurautu

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    診断メーカーより:くらうつの雨想さんは、「朝のゲームセンター」で登場人物が「思い出す」、「ミルク」という単語を使ったお話を考えて下さい。
    https://shindanmaker.com/28927

    #雨想
    fleetingThing

    朝のゲームセンター 思い出す ミルク 僕たちの足元に伸びる光は柔らかく色づいた白で、僕はミルク味のキャンディを思い出した。雨彦さんが覗き込んでいるその機械はUFOのような形をしている。透明な丸いドームの中で色とりどりのお菓子がゆっくりと回っていた。まだ街は目を覚ましていない。朝の眠たげな光の中で鮮やかなその色は目に眩しい。

    「幼き日、銀の硬貨を夢に換えー。懐かしいねー」
    「そうだな。……いや、俺は初めてかもしれないな」

     意外だとは思わなかった。ゲームセンターにいる雨彦さんはどうにもうまく想像ができない。軽やかすぎる音も、点滅する強い光も、ケースに詰め込まれたぬいぐるみたちも、雨彦さんには似合わない。このゲームセンターにはそのどれもがなかった。聞こえるのは目の前の機械が立てる微かな駆動音だけで、光はガラスの向こうから差し込む朝日だけで、ここで手に入れられるものは、どうやらこの中にあるお菓子だけのようだった。
     雨彦さんはコインを投入口に入れる。軽快な音を立てて、雨彦さんの手元に数字が浮かぶ。

    「このボタンを押せばいいのか?」
    「そうだよー。アームで掬って、掬ったものを台の上に落とすだけだよー」
    「ああ、それで押し出されたやつが落ちてくるってわけか」

     なるほど、と呟いた雨彦さんは回るお菓子たちへと視線を向けた。キャンディと、ラムネと、チョコレート。雨彦さんの手が動いた。滑るように伸びたアームがお菓子の海を捉える。お菓子が減っている所を狙うと掬いやすいという話を僕はしなかったけれど、雨彦さんは気が付いたみたいだ。さすが、と思ってしまうのが少し悔しい。
     掬い上げられたお菓子はアームの上でじっと待っていた。落とすタイミングを狙う雨彦さんの呼吸の音が聞こえる。真剣な表情だ。僕もなんだか緊張してきてしまった。雨彦さんがボタンを押した。転がり落ちたお菓子たちがぶつかりあう。おしくらまんじゅうみたいだ、と思ったのは、どこか雪の朝のような空気がここに漂っているからかもしれない。

    「お」

     押し出されたお菓子がいくつか取り出し口へと落ちてきた。子供が遊ぶ事を前提としている機械は雨彦さんにとっては背が低すぎる。それでも雨彦さんは器用に屈んで取り出し口へと手を入れた。

    「取れたぜ」

     大きな手のひらの上に収まった色とりどりのお菓子は、カラフルなセロハンやキラキラと光る包み紙に覆われていた。まやかしのその色も、朝の柔らかな光の中では宝石のようだ。

    「どれがいい?」
    「くれるのー?」
    「全部は食べきれないからな」
    「ありがとうー。手のひらがパレットごとくに彩られー。どれにしようかなー」

     雨彦さんの手のひらの上で彷徨った僕の指は、緑色のセロハンに包まれたラムネを選んだ。セロハンの端を軽く引く。ラムネは逆上がりをするようにくるりと回る。隙間から覗くチョークのような乾いた白に懐かしさを覚えた。口に入れれば甘さだけを残してあっという間に溶けていく。雨彦さんは透明な袋に入ったキャンディーを片手で取り上げると、端に噛み付くようにして器用に袋を開けた。その中身を口へと滑らせる。コロ、とささやかな音が鳴る。

    「うまいな」
    「うん」

     雨彦さんはまたお菓子の乗ったままの手を僕に向けて差し出した。もう一つどうぞ、という事らしい。今度は金貨の形をしたチョコを選んだ。いつかの映画の撮影を思い出す。あの時宝箱に入っていたのも同じようなチョコだった。メッキよりももっと柔らかな金色はあっさりと剥がれる。齧ればチョコは簡単に割れる。平たくなった断面を見ながら、このドームの中は意外と冷えているのかもしれないと思った。スノードームを思い浮かべたけれど、その中に雪は降っていなかった。ただ、お菓子が静かに回り続けている。それだけだった。

    「北村」

     チョコを食べ終えた僕に向かって、また雨彦さんの手が差し出される。広い手のひらの中に一つ残された、キラキラと光る赤色のハート。ハートの形をしたチョコレート。

    「僕はもうもらったから、雨彦さんが食べなよー」
    「飴をもらったんでね。味が混ざっちまう」

     差し出す事に慣れている人だった。こういう言い訳を用意して、それをごく自然に持ち出してくる。それはうらやましかったり、嬉しかったりもしたけれど、今はもどかしいと思った。欲しがってほしい。欲しがってほしいも何も、そもそも雨彦さんが手に入れたものだけれど。

    「もらってほしい」

     そう言って雨彦さんは微笑んだ。初めて好きだと打ち明けられた時の事を思い出した。あの時は夜だったから、雨彦さんの表情は見えなかった。でも、きっとこんな顔をしていたんだろう。

    「……そこまで言うならー」

     僕は雨彦さんの手からハートを取り上げた。すぐに食べてしまうのは惜しかった。天井に向けて翳しては、角度を変えながら眺める。僕たちの命の象徴と同じ形をしたそれは不思議と温かいような気がした。もらってほしい。聞いたばかりの雨彦さんの声が蘇る。僕にはもったいないほどの気持ちを詰め込んだ声。包み紙を剥がそうとした指先は動かなかった。

    「後で」

     雨彦さんが僕を見た。キャンディーを入れた右の頬が少しだけ膨らんでいる。

    「分けて食べようよ。一緒にねー」
    「割っちまうのかい?」
    「心臓は、四つの部屋でできておりー。そもそも一つじゃないと思うんだよねー」
    「はは、違いないな。……それなら、後でいただくとしようか」

     そろそろ行くか、と雨彦さんはゆっくりと歩き出した。隣に並んで歩いていく。ガラス張りの扉の向こうで何かが音を立てていた。目覚まし時計の音だった。もう起きなくちゃ。
     雨彦さんが扉を開けた。その途端に光が強さを増した。その眩しさに目を閉じる。次に目を開けたその時に、このささやかな約束を覚えていられますように。

    (END)
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    kurautu

    DONE2020年4月頃の話。こちらの世界と同じ事が起きています。
    REBOOT 部屋はもうすっかりキレイになっていた。まるで雨彦さんが掃除をしてくれたみたいに。テレビもつけずに、スマホを手に取る事もせずに、僕は畳の上に転がって天井を眺めていた。少しだけ開けた窓からは爽やかな風が流れ込んでくる。今すぐ電車に飛び乗って、あてもなくふらりと、どこかへ。そんな気分になる季節だった。それが叶うだけの時間もあった。だけど、できなかった。目に見えないそれはどこを漂っているのかなんてわからないのだから。
     大学の授業は休講になった。決まっていた仕事も軒並み延期か、中止になった。予定していたライブも……やりたい、だなんて、言えるはずがない。レッスンすらできずに僕たちはそれぞれの場所にいた。こうなる前に、最後に丸一日家から出なかったのはいつだっただろう。何をしようかと楽しみにしていたあの時の気持ちは今の僕の中にはなかった。読みたい本はたくさんあるけれど、観たい映画もあるけれど、今はそれを心から楽しめる自信はない。こんな気持ちで触れるのはどうしても気が進まない。そうやってたくさんの選択肢を潰した結果、僕はこうして何もせずに転がっていた。時間が過ぎていく。焦るというよりももっとぼんやりとした、けれど大きな何かが体ごと押さえつけているようだった。
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    kurautu

    DONE王子様としての一歩目の話です。みのりさん誕生日おめでとう!
    おうじさまのはじまり 足の裏に伝わるのは硬い床の冷たさだ。大きな窓から降り注ぐ光は明るいけれど、広々としたこの場所の空気を温めるのには時間がかかる。開場して人が集まれば消えてしまう温度を存分に味わう事ができるのは、出演者である俺たちの特権だ。俺たちといっても、今ここにいるのは俺だけだけれど。
     夢の中だった。裸足で歩いている俺も、スタッフさんの声一つ聞こえないこの場所も、ありえないのだと知っている。それならばいっそ、この空間を楽しむだけだ。願えば床を一蹴りするだけで簡単に飛べそうだけれど、俺はそれを選ばなかった。それよりもここを歩いていたかった。
     穏やかな日差しの中に並ぶフラワースタンドを一つ一つ眺めながら歩いていく。夢の中のフラワースタンドたちは、俺が目を覚ました世界のどこにもない。だからこそ目に焼き付けたい。作り出しているのは俺の記憶だとしても、それを作り上げているのは今までに触れた花たちだ。もらった花、贈った花、誰かが贈るための手伝いをした花。花の中には俺たちの名前も、俺の名前も掲げられていた。それを当たり前のように思い描けるほどに、たくさんの気持ちを受け取ってきた。手を伸ばして花に触れれば、水を含んだ冷たさが伝わってくる。大事な舞台を前にした緊張と高揚をそっと鎮めてくれるような温度だ。
    1937

    kurautu

    DONE一週間ドロライさんよりお題「クリスマス」お借りしました!
    雨とクリスマス 初めての恋にあたふたしてほしい
    雨は 冷たい雨が凍りついて、白く儚い雪へと変わる。そんなことは都合よく起きなかった。僕はコンビニの狭い屋根の下で、雑誌コーナーを背中に貼り付けながら落ちてくる雨を見上げていた。
     初めてのクリスマスだ。雨彦さんと僕がいわゆる恋人同士という関係になってから。だからといって浮かれるつもりなんてなかったけれど、なんとなく僕たちは今日の夜に会う約束をしたし、他の予定で上書きをする事もなかった。少しだけ先に仕事が終わった僕はこうして雨彦さんを待っている。寒空の下で。空いた手をポケットへと入れた。手袋は昨日着たコートのポケットの中で留守番をしている。
     傘を差して、街路樹に取り付けられたささやかなイルミネーションの下を通り過ぎていく人たちは、この日のために用意したのかもしれないコートやマフラーで着飾っていた。雨を避けている僕よりもずっと暖かそうに見えた。視線を僕の足元へと移すと、いつものスニーカーが目に映る。僕たちがこれから行こうとしているのは、雨彦さんお気に入りの和食屋さんだ。クリスマスらしくたまには洋食もいいかもしれない、なんて昨日までは考えていたけれど、冬の雨の冷たさの前には温かいうどんや熱々のおでんの方が魅力的に思えてしまったのだから仕方がない。
    1915

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