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    wtiaiiaio

    @wtiaiiaio
    ワールドトリガーの作品置場です。完成したものはpixivにも掲載します。
    ワの幽白パロは7月中に完成させたいです。

    閲覧、絵文字等々ありがとうございます。とても励みになります。
    忙しかったり忙しくなかったりするので浮上したりしなかったりしますが元気です。花粉にめげず頑張りましょう~よろしくお願いします~。

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    購買の話その7。3ーCに謝る水上、隠岐におつかい終了を知らせる水上、漆間が水上より先に購買に着く理由とは。3ーCのくだりはナレーションベースで、隠岐とは一応会話をしています。次回は不良と漆間と水上との何がしかを書く予定です。よろしくお願いします~。

    ##小説
    #水上、隠岐、3-C

    六月のパン食い競争 その7 翌日。水上は、春巻きパンをめぐる近頃の振るまいについて反省の弁を述べた。

    「ま、そういうこともあるだろ」

     穂刈が発した言葉はそれだけだった。それどころか、自分はいいから影浦の方へいけとアドバイスされる。なんでも、水上の愚痴と食レポに毎度つきあわされ、影浦は食傷気味とのことである。実のところ、ここ最近の水上の昼休みの食事相手──すなわちその世話役は、影浦1人に任せきりの状態だった。

     昼休み、穂刈はもっぱら自隊のミーティングで席を外していたのだ。荒船隊は、史上初・前代未聞のスナイパー3人体制でこのたび新たなスタートを切った。ポジションを変更したばかりの荒船は、追いつけ追い越せで訓練場にこもる日々を送っていた。
     彼の通う進学校では、本校に先んじて期末試験がおこなわれる。月末に向けそろそろ勉強に集中したい頃ではあるが、ランク戦は学生の都合などお構いなしに開催される。多忙を極める荒船は、やむを得ず昼休みに隊員と電話をつなぎ、ランク戦の対策を練っていたのであった。
     そんなわけで、穂刈が昼に留守がちなのは仕方のないことだったが、影浦にかかる負担を彼なりに気に掛けているのだった。

     くだんの影浦には、「ワケわかんねーこと言ってねーで課題うつさせろ」と流された。実家がお好み焼き屋の彼からすれば、死んだ顔で飯を食う水上の姿は、到底受け入れがたいものだったに違いない。今日まで大して怒りもせずよく来てくれたものだと、水上は内心感謝する(実際には怒られたことがあったが、水上はものまねが似てなかったことを怒られたと勘違いしているためノーカンである)。
     寛容な態度でいてくれたことに礼を言いたかったが、終わった話をむし返すことを影浦は好まない。だがそんな思いの変遷すらサイドエフェクトの前では筒抜けで、「言いたいことがあんならハッキリ言え」と促されてしまう。いま一度礼を述べた水上は、今後しばらく影浦の課題を積極的に見ることを約束、しれっと話に混ざってきた穂刈にも、同様の協力をする運びとなったのだった。

     最後に村上にも謝罪したところ、逆に"ここ最近の非礼"をわびられた。なんでも、1週間ほど前に水上に隠れて春巻きパンを食べてしまったのだという。そんな些細な出来事が彼を苦しめていたと知り、水上はあらためて申し訳なく思う。

     そもそも村上は、『金的事件』の翌日から「購買」と聞くだけで笑いが止まらない症状に見舞われていた。無論、誰かのように大笑いするわけではない。「購買」というフレーズを耳にした瞬間、無言で口角を上げたまま彼の時だけが止まってしまう。いわば気遣いの塊のような笑い方であった。
     ここ数日は、水上と顔を合わせるなり「あの、俺、そのっ……」と何かを言いかけ、「……すまない! 本当に俺は、俺は……どうしようもないやつなんだっ……!」と立ち去る、そんな言動が加わっていた。いつの間にか、村上だけ別の場所で昼を食べるのが当たり前になっていた。

     少女漫画ともおぼしき謎のやり取りに、村上の説明を受けようやく合点がいった水上である。客を迎えるホテルマンばりのお辞儀を連発され、本当に村上という男は隠し事のできないイイやつなのだと知った。この件に関しては水上もなんだか肩の荷が下りた気がして、自分がまいた種ではあるが、謝ってよかったと心の底から思えたのだった。



     昼休み。水上は移動教室の帰りがけに2年A組に立ち寄ると、おつかい業務の終了を告げた。

    「これでおれもお役御免ですか、意外と早かったなあ」

     ゆるやかな笑みまじりにつぶやいた隠岐は、水上にこのたびの成果を尋ねる。

    「先輩、あれからちょっとは春巻きパン食べられました? おれがおつかい行った時は、1個も買えませんでしたけど……」
    「まあ、0勝7敗1分けってところやな」

     1分けって、どういうことやろ。隠岐は疑問に思ったが、面倒な気配がしたので聞かなかった。事実、1分けとは「漆間に春巻きパンをゆずられ買わなかったこと」なので、聞かなくて正解だったかもしれない。

    「にしても、先輩結構たまごパン食べたんちゃいます? ほら、おれが2回連続でたまごパン3つ買ってったこと、あるやないですか」

     3つどころか4つ食べたこともあったが、水上は言わなかった。本日この後も昼の争奪戦がひかえており、極力話題を長引かせたくなかったのだ。
     結局のところ、影浦は水上の愚痴にキレることはあれ、パンの買い方に苦言をていすることはなかった。その結果、「春巻きパンがなければたまごパンを買い占める」という愚行は、後輩2人を巻き込み粛々しゅくしゅくと続けられてきた。海に頼んだ分と自分で買った分も合わせれば、水上は8日間で計13個もたまごパンを食べていた。
     漆間は既にパンを買い終えているかもしれない──そんな懸念がチラつきつつも、それはそれとして、念には念を入れて、たまごパンを買いあさる日々を送っていたのだった。

    「でも良かったですわ。 これでおれも、先輩に気兼ねなく春巻きパン買えますし」
     ちっともそう思ってなさそうな顔で隠岐が言う。

    「なんでやねん」

     ふっと笑って水上は、なかば条件反射的に腕をふり上げた。しかしそのツッコむための右腕は、行き場を失ったかのようにななめ45度の角度で不自然に止まる。隠岐の背後の教室から、どうにも熱い視線を感じたのだ。見れば隠岐のクラスメートと思われる女子3人組が、こちらの様子を伺いながら、何やらヒソヒソ話している。その表情は一様に険しい。

    「はは……ドーモ」

     水上は愛想笑いをうかべ、ツッコミ代わりに隠岐の肩にひじを乗せる。ついでもう片方の手をひらひらと振り、"後輩に暴力をふるう意思はない"ことをアピールして見せた。おかしなうわさがこれ以上広まるのはごめんだった。

    「先輩どうしたんです? いきなり手ぇなんか振って。……ああ、マリオかあ」

     水上の動作が細井に向けられたものと勘違いした隠岐は、観衆の後方にすわる自隊のオペレーターに笑顔で手をふった。なんとなく室内がソワソワした雰囲気に変わったが、よくあることなので細井も水上も気にしない。ひかえめに手を上げてみせた彼女の顔には、「用が済んだならはよ帰り」と書いてある。クールな対応の中に、多少の気はずかしさも混ざっているのだと知っている。水上は、去り際に本当に細井に手をふると教室を後にした。

     それにしても──階段を下りながら水上は考える。同級生には一世一代の詫びを軽く流された。パシったはずの後輩は、小言の一つも言わずに任務終了を受け入れた。ボーダーの連中ときたら、どいつもこいつも大人なやつばかりだ。穂刈や影浦が己に対して若干の後ろめたさを抱えているとはつゆ知らず、他郷で仲間にめぐまれた幸運を、じんわりとかみしめるのであった。



     水上が階段を下りきると、ちょうど目の前の廊下を2年生の行列が通っていく。体育終わりとみられる集団の中には若村と三浦もいて、目があった水上に「お疲れ様です」と会釈する。後輩たちは元気があり余っているらしい。その姿が見えなくなってなお、弾んだ声が聞こえてくる。

    「ろっくん、お昼は購買行くの?」
    「ああ」
    「いいなあ。おれは今日も弁当だよ」
    「……でもなあ、ここんところ、たまごパンが売りきれ続きで買えねえんだよ。なんでだろ」

     身に覚えがあり過ぎる水上は、若村のぼやきは聞こえなかったことにした。


     気がつけば2年男子の列は途絶えつつあった。廊下に出ようと思った矢先、水上の目があの男の姿をとらえる。男子集団の最後尾と、これまた体育終わりと思われる女子集団との間にはぽっかり空間が空いていた。制服に身をつつみ1人で道をいく漆間の姿が、やけに浮いて見える。

    (──そうか。あいつ、一緒に行動するやつがおらんのか)

     水上はここにきてようやく理解した。漆間が自分より先に購買につくのは、常に単独行動だからだ。水上は委員会がない時だって、友人と授業の感想をいいあったり、みんなからパンの注文をとったりしていた。その点漆間は、授業が終わればすぐに教室を出て、一目散に購買に向かうことができる。教室を出るまえに時間を消費している水上と人付き合いに縛られない漆間とでは、そもそも昼休みのスタートが違ったのだ。

     女子生徒たちが歩く様をぼんやりと見つめていた水上は、今日も春巻きパンを食べられなかった。
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    DONE購買の話その4。
    (本文サンプル)単話で読めてボケも多めで読みやすいので、全体の雰囲気をつかみたいという方はこちらの話をまずご覧ください。気に入ったら1話~よろしくお願いします!

    おつかいを頼みたい水上vs絶対に断りたい隠岐、先輩思いの海、容赦なくツッコむ影浦。次回は王子に収穫された水上が当真とパン屋に行きます。※6月という設定上、隠岐の年齢が16歳です。

    よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競争 その4先輩の電話にはもう出んと決めた 水上は電話帳からターゲットの名前を早々に探し出すと、スマートフォンの通話ボタンを押した。

    『……隠岐です。ごめんなさい、いま電話に出られません。御用のある方は、ピーっと発信音が鳴った後に』
    「そういう茶番はええから」
    『あれれ、バレてもうた』
    「まず着信7回で留守電につながるのがおかしい。普通6回とか8回とか、キリのいい数字に設定するやろ」
    『たしかに』

     のっけからボケてきた後輩に、手慣れた様子でしゃきしゃきとツッコんでいく。
     留守電につながるタイミングは人によってまちまちで、気づいたら電話代が発生していることもざらだ。通話する際、自然とコール音を数えるのがくせになった。無料通話アプリの使用がメインになったいまも、このくせは水上の中に残っているのだった。
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    DONE購買の話その10。ふたたび窮地に陥る水上、自販機の佐鳥、ずっと話してる水上と漆間、ゾエに信用されていない水上、漆間とクラスメート。ちょっとしんみりするけど基本ワイワイ話してる。※水上が説教くさいです。青春の気配がする。

    (衣替えの時期を間違えて認識していたため、まとめてアップする時に服装ちょこっと修正すると思います)

    次回エピローグで終わります。よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競争 その10功労者たち 幸せな日々は長くは続かなかった。在庫が増えその後どうなったかといえば、水上はふたたび春巻きパンにありつけない日々を送っていた。

     話は少しさかのぼる。北添が初めてその存在を知ったのは、おつかい帰りの隠岐に出くわした時だった。なんでも購買に春巻きパンなるものが売っているらしい。3年B組に避難してきた村上に詳細を尋ねれば、「水上がいかに春巻きパンに夢中か」という話を昼休みいっぱい語ってくれた。元より春巻き好きの北添は、翌日から親の弁当をことわり購買に通いつめた。パンの在庫が少なく一向に食べることはできなかったが。そして先週火曜、行動力の塊たる北添は、ついに春巻きパンの増産交渉に踏み切った──。
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    DONE購買の話その11(完結)。自販機の嵐山、むせる水上、あわてる六田、水上と3Cと購買。閲覧ありがとうございました!!
    また、連載中に反応くださった方もありがとうございます。わりとくじけそうな時もあったのですが、めちゃくちゃ励みになりました。

    どんな話か気になるけど全文だと長すぎるよ~という方は、購買の話その4を読んでもらえるとどんな話かつかみやすいかと思います。よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競走 その11(完結)六田さんはへこたれない 生徒会選挙をつつがなく終えた7月のある日、水上は体育館横にある自動販売機の前でたたずんでいた。『三門の名産みかんソーダ』を手に取り、すぐそばの花壇に腰をおろす。
     缶を開けようとしたところで気配を感じた。──嵐山だ。自販機の側面に描かれた、等身大の嵐山と目があった。さわやかな笑みを浮かべた三門のヒーローは、両手に武器をかまえ、腰を落として臨戦態勢をとっている。
     手ハートにウインクだった佐鳥のそれと比べると、なんだかえらく方向性が違いやしないだろうか。とはいえ、これは隊の仲間たちに渡すいい土産話になりそうだという予感がする。会話のネタストックに熱心な水上は、ふたたび自販機の前まで来ると、スマートフォンのカメラを起動した。
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    DONE購買の話その9。 春巻きパンを取ったどーする水上、購買店員が語るカゲ、購買で掛け合い漫才する天羽&海。【がっつりモブ店員視点の章あり。店員からみたカゲの性格・購買の歴史など】

    ※『影浦くんの友達』と『とつげき!一高購買部』は読み飛ばしても大丈夫な作りになっています。

    次回は漆間さんと水上がいっぱいしゃべります。よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競争 その9棚から春巻き なじみの購買、にぎわう生徒たち、窓からのぞく見なれた裏庭──いつもと同じ昼休み、なんてことない日だと思っていた。いま、この瞬間までは。

     水上は購買陳列棚の前で立ち尽くしていた。上から2段目の一番右端のプレートには、丸っこい文字で「春巻きパン」と書いてある。いつもと変わらぬ風景だ。ただ一つ違うのは、ここ1カ月間欲してやまなかった物が、目の前にあるということだ。黄金色に光り輝くそれが、5つも、ある。そもそも春巻きパンは、ふだん2つしか在庫を置いていないのである。それがどういうわけだか5つもあるではないか。

    (まままま、まさか、分、身……!? ──んなわけないやろ)

     突拍子がないわりに弱すぎるボケに、セルフツッコミをする。一人漫才をすることで平常心を保とうとしているのだ。水上とて18歳、まだまだ青い高校生である。突然ふってわいた幸運を、目の前の現実を、すぐに受け入れることができない。
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    DONE水上と漆間が購買のパンをめぐりすったもんだする話その1~3。作品全体の傾向としては前半ギャグ、中盤しんみり、最終的に青春ぽい仕上がりとなっています。【※水上が公衆の面前で金的される場面があります】なんでもどんと来いな方、良かったら読んでください。

    ・金的から始まるパン抗争
    ・穂刈は見た!
    ・敏志、教頭に怒られる

    ※2013年の設定です。25巻までの情報で書いています。
    よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競争 その1~3漆間、襲来 12時50分、水上敏志は猛スピードで廊下を歩いていた。あくまで"廊下を走らない体"を装っているのは、ここが学校であり、彼が三門市立第一高校の一生徒にすぎないからだ。ボーダー隊員の肩書はいまは通用しない。廊下を走っても怒られないのは有事の時だけだろう──などと考えつつ、1階最奥の購買部をめざす。これは4時間目の授業が終わったあとの日課であり、彼は日々の昼食をここで調達している。

     ガラガラ、ダンッ。

     勢いよく戸を開け放つと、思いのほか大きな音が響いた。室内には20名ほど先客がおり、その目が一斉に水上の方を向く。「すんません」と小声でわびつつ猫背気味に入室すると、さっそく中央のガラスケースを注視する。
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    DONE購買の話その6。王子・当真・水上のパン屋紀行。和気あいあいな3人。宿題に取り組む当真に奇跡が起きる──? またまたしんみり。ボーダーと弁当と家族関係・水上の過去などやっぱり捏造多数。王子→当真の呼び方も捏造しています。

    次回は3-Cに謝罪する水上と漆間関係を書く予定です。よろしくお願いします~。
    六月のパン食い競争 その6店の名は「獲物がかからないなら、こちらから狩りに行こうじゃないか」

     放課後、王子の発案で購買運営元のパン屋へおもむくことになった。学校で春巻きパンが買えないなら店まで行って買えばいい。そういうことである。
     宿題を教わりたいという当真を昇降口で拾い、自転車をこぐこと20分。飲食店街から続く道を一本曲がった先に、その店はある。
     点在するアイボリーの家々に混じってたたずむ、薄茶色の二階建て。店舗兼住宅と思われるそれは、どちらかといえば一般住宅に似たデザインだ。入り口横には『焼きたて』ののぼり旗が立っており、手前の小さなブラックボードにはパンとコーヒーの絵が描いてある。

     それにしても、商売をするにはいささか主張が乏しいのではないか。要は地味、それが商いの町で育った水上の感想だった。だが、周囲の建物と調和した淡いレンガの壁を見つめていると、昼に見た女性店員のおだやかな笑顔を思い出す。これはこれであの人らしい店やなと、水上は考え直した。
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