Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    702_ay

    DC(赤安)、呪術(五夏)の二次創作同人サークル『702』のアカウントです。
    マシュマロ»http://goo.gl/ceMTQa /
    WEB拍手≫ http://goo.gl/6ueeZP /
    杏樹(@xxanjyuxx)*ゆず(@_yu_zu)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    702_ay

    ☆quiet follow

    <4/9 Small b@tch 2fingers>
    【共通お題ペーパー】「君は何も知らなくていい」
    ライバボです。

    ##赤安

     スナイパーの本分は的に命中させることだ。的が何であれ、それ以上もそれ以下もない。それはわかっている。わかっているが、機械のように命令された通りに引き金を引くことだけが任務だったならば、どれだけ簡単だっただろうか。ただ、役目を全うする駒として何も考えずに済みたいのだが、そうもいっていられない時はあって。
    「今日の任務は面倒だったな」
     今回も、が正確か。組織の任務で面倒ではなかった任務なんてひとつもない。
     ふうと小さく息を吐き出した。立派な仮面とスーツに身を包み、ターゲットに近づく。多少のボディタッチはご愛嬌のようなものだ。この時点で面倒極まりない。
     事前に背格好は伝えられていたが、人相で判断ができないとなると多少の苦労を伴った。とはいえ、抜け目のない女のおかげで仮面があろうとターゲットを捕捉することはできたが。
    ――仮面?
    ――ええ。粋でしょ
    ――どこがだ
     呼び出しに素直に従ったのは失敗したなと後悔しても遅い。直通の電話なんて滅多にない相手からの呼び出しなど面倒事以外の何物でもないだろうと予想していたが、その予想はいい意味で裏切られた。
     こういう役目は女のお気に入りのバーボンが請け負うことが多く、自分にお鉢が回ってくることは少ない。少ないどころではなく極稀だと言い切ってもいいくらいだ。適材適所への配置もできないほど、組織は人手不足なのだろうかと眉を寄せた。どう考えても役不足だ。相手の機嫌を取るなんて面倒なことはしたくないし、お門違いな役どころ。それとも無益な殺しをせずに済むと喜ぶべきところなのか。
    ――嫌ね。そんなに殺したいの?
     内心を見透かした声。演技がかった態度で野蛮だと喉の奥でおかしそうに、それでいて心底呆れたとして息を吐き出された。ずいぶんと器用なことだ。そこはハリウッド女優の演技を直に見られたと賞賛すべきなのかもしれないが、鼻にかかった様な態度を取られるのは面白くないのでこちらも片眉を僅かにあげた程度のリアクションですませる。
     そもそも、そんなつもりはないと言いたいところだが、この女にとってこちらの否定なんて意味をなさない。自分で決めたことが第一で、それ以外のシナリオは御用ではないタイプだ。
    ――身元を隠すにはうってつけじゃない
     何がとは言わずに話を続けられる。
     やはり来るべきではなかった。心底面倒で退屈な時間の始まり。ベルモットのオモチャとなるのが決定した瞬間だった。
    ――仮面を外して正体を明かすことも稀にあるんでしょうけど……彼らは身元を隠したがるわ。それに知らないほうがロマンティックだと思わない? あの時のあの人はどんな顔でどんなバックグラウンドを持っているんだろうか、って想像が膨らむでしょう?
     試されている。そう察することは息をするように簡単だ。言葉遊びのつもりなのかもしれないが、時々鋭い所を突いてくるため無駄話は極力避けたい。組織の人間と深く関わってデメリットこそあれど、メリットはなく。
     ライとしては必要最低限の言葉で済ませるのがベストになる。そもそも、これのどこがロマンティックなのか。まったくもって理解ができない。
    ――悪趣味だな
    ――あら。貴方だってそうじゃない。人は誰しも仮面をつけて生きているのよ。でもね。そこにさらに仮面を重ねると、偽りの自分を隠せる。そうして真の自分になれるわ
     じろりと凄みを増した瞳を向けたがベルモットは口角を器用に持ち上げたままだ。愉快そうに歪められている口元は挑発している。
    ――どこへ行っても特別扱い。そんな人間ばかりだと本音で接してくれる相手に会いたくなるものよ。地位も素性も関係ない、ね
     仮面をつけることでむしろ素顔を知ることができる。
     ベルモットの持論で言うなら、そういう事だ。着飾ったものすべてを排除して、個人となった時にどれだけ魅力的でいられるのか。ベルモットと違い『ライ』には社会的地位はない。『ライ』がつけている仮面は犯罪組織に属するスナイパーだけ。本来の身分を考慮すると話は変わってくるかもしれないが、組織の人間としてはさして隠さなくてはならない地位も素性も存在していない。その点、ベルモットは世界的な女優という色眼鏡が存在するのだろう。そういう意味ではどこに行こうが人々の注目の的になる。
     仮面をつけ、人々の視線から逃げたくなる事があるのかもしれない。そんな繊細な女なのかという疑問が付きまとって離れることはないが。
     仮面が人の心を開放する。嘘や欲望からも解放され、すべてをさらけ出すなら情報を得るにはうってつけということになる。パーティの主催が世間からも信頼されているところなら、特に心は軽くなり。
    目の前でおかしそうに笑う女に、了承を得られることなく面倒事が始まったと思わざるを得なかった。
    ――硬く考えないで、単なるゲームみたいなものよ。でも私の価値観と貴方の価値観は一生平行線でしょうね
    「ち、匂いが残ってやがる」
     未だに纏わりついている甘い香りに眉が寄ってしまう。これから向かう場所は嫌でも鼻の利く男たちがいる場所だ。余計な勘繰りをされるのは面倒なため、どうにかしたいところだがまるで執念でもあるかのように匂いが消える気配はない。匂いが移ったのではなく、練り込まれた気分だ。
     ベルモットがバーボンでなくライを選んだ理由はすぐにわかった。単純にターゲットの好みの問題だ。それはいい。あの男ならば、たとえ好みのタイプではなくともその気にさせることは容易いだろうが、簡単に進める道があるならそれを選ぶのは不思議なことでもない。
     きつい香水をつけた女の耳元で甘い言葉を数回囁き、腰を抱くだけで勝手にその気になっているのだから、女の貞操を疑いたくもなる。何しろ、婚約者がいる相手だ。いくら顔を隠す仮面があるとはいえ、軽薄すぎるだろう。恋人以外と関係を持つなんてあり得ないといった純情さは持ち合わせていないが、思わず婚約者に同情してしまう。
     人生はいくつもの仮面をかぶり過ごしている。だからこそ仮面をつけたパーティは一周回って本当の自分を曝け出せる、なんて常人では理解のできない持論を展開し、都合のいい相手を探す時間。生産性なんて言葉からは程遠い。
     百戦錬磨のバーボンほどではなくとも、数少ない言葉で効果的に相手に迫る。今日は顔合わせだけ。今後どのようなメリットがあるかはわからないが、少し調べただけでベルモットの依頼を抜きにしても使えそうなカードだったのは確かだ。
    ――ご褒美がお預けだってわかったら、なんとしてもその褒美を得ようとリターンは大きくなるのよ
     まどろっこしいことをすると思ったが、女の駒として動くことを求められている任務では、しぶしぶだろうとベルモットの指示に従うしかない。男女の駆け引きを前面に出すのは嫌いだ。感情的になった人間の言動は常軌を逸脱する場合が多く、何かと面倒事が増えるから。
     ワイングラスを優雅に傾けるも、こんな場所では質の良いワインでさえ、味の劣る安物に感じるのは自分だけだろうか。スーパーやコンビニで売っているワンコインの物と大差なく感じる。これがまだしばらく続くとわかっていれば、憂鬱でしかない。
     明日以降のことは今は目を瞑っておこう。考えるだけ時間の無駄だ。好きでは無いが、なりように任せるしかない。
     蓄積されたストレス解消と香水の匂いを消すために煙草を存分に吸う。二時間弱ほどで箱の半分は空になってしまった。ヘビースモーカーだとしてもひどすぎる。すぱすぱと煙の中で生活しているかのように纏わりつかせたことで、幾分かはマシになった。
     エレベーターのないアパートはほとんどが空室になっている。一応、二つ隣りに年配の男性が住んでいるものの、ここに住み始めてからは一度だけ会ったきりで、それ以来、出会ってもいない。
     建て付けの悪いドアの前に立つと中から人の気配がした。薄い扉はプライバシーもクソもない。ドアを開けると、予想通りの男たちがにこやかに談笑している。詮索するのは野暮な上、興味もないが、聞いてもいないのに話してきた髭面の男曰く、バディとして組むにあたり意気投合したとのことだ。どうでもいい話なのに妙に気に障ったのは、もちろん伝えていない。
     ライから見ても二人の息は合っている。
     人の感情を読むのに長け、情報収集に定評があるバーボンと、スナイプ能力もあり、臨機応変な対応もできるスコッチ。種類の異なる笑みを浮かべる二人だが、どちらも腹の底が読めない所はコードネーム持ちの人間だと思わせられる。
    「スコッチは周りを気にし過ぎだ」
    「えー。そんなことないと思うけど。だって、もしもなんかあったら、俺は何よりもお前を取るし」
    「そこは自分を取れよ」
    「価値観の違いだろ。俺にとってはバーボン以上のものはないよ」
    「酔いすぎだ。そんな安い台詞で僕を口説けると思わないでください」
    「あはは! んー、たとえばさ。ライは大切な物は宝物とかお姫様みたいに扱うと思うよ。俺と似て」
    「は? 嘘だろ」
    「いやいや、俺の目は確かだから! 絶対! 合ってるって!!」
     突然自分の名前が聞こえてきて、思わず眉を寄せてしまった。今は共に生活することが多い。自然と話題に出されても不思議ではないのは確かだ。確かだが、スコッチならまだしもバーボンが自分のことを話題に出すとは考え難い。何かにつけて、突っかかってくるのだ。それはもう、どんないちゃもんをつけたいのかと聞きたくなるくらいには。
    「何の話だ?」
    「お、ライ! おつー!」
     視線の先の二人は呑気に晩酌をしていた。組織に属しており、コードネームを持っている以上、向上心はあるはずだ。足を引っ張り合ってもおかしくないというのに、この瞬間だけを見れば仲のいい二人だろう。バーボンとスコッチは組織で出会ってバディを組んだとは思えない空気感がある。一朝一夕ではできるとは思えない。
     へらりと笑ったスコッチが手をゆらゆらと振ってくる。いつもより顔に赤みがさしていることからも、酔っていると教えられる。どれだけ飲んだのか。珍しい。こんな風になっているのは初めて見るが、対応しているバーボンは慣れた様子だ。なんだか羨ましい。
    (羨ましい……?)
     誰に対して、だろうか。スコッチに対してだろうと、バーボンに対してだろうと、このタイミングで思うとは笑えたものではない。それなのにバーボンに諭されながらグラスに手を伸ばしては、けたけた笑っている男に胸の奥がむずむずする。
    「えー、ライ気になっちゃう系なの?」
     今日は本当によく面倒事に巻き込まれる。
     酔っ払いの戯言だ。聞き流すのが吉だとわかっているのに、妙に気になる言い方に抗えなかった。
     スコッチのこういう所が苦手だ。バーボンとは違った雰囲気で相手の心の内をざわつかせ、内情を吐露させようとするところが。
    「自分のいない所で自分の名前が聞こえたら誰でも気になるだろ」
     壁に背を預け、ポケットに無造作に突っ込んでいた煙草を取り出しくわえる。慣れた反応だ。不躾な問答も気にされることもない。そのくらいには心が許されているということか。それはそれでざわつかさせられる。感情を消すようにマッチを擦ればリンの香りが。そうしてたちまち、煙草の香りが狭い室内を漂い始める。
     バーボンは何か言いたそうな顔をしたが、煙草を吸うのはこちらの自由だ。スコッチの前に数本折れ曲がって死骸のようになっている吸い殻が乗っている灰皿を奪い取った。そのまま紫煙を吹かせる。
    「絶対興味ないでしょ。嫌がらせですか」
    「何か言ったか」
    「いーえ、別に」
    「で、俺がどうした」
     わかりやすく肩をすくめて明後日の方向を向くバーボン。話をする価値はないと言ったところか。いつものことなので気にすることもなく話を促せば、スコッチとバーボンは互いの顔を見合わせていた。あれだけ人を話題に出しておいて、話にくいということだろうか。身構えるべき内容かと思っていると、予想外な回答がされた。
    「人の価値観の話」
     聞き返さなかったのは褒めてもらいたいくらいだ。どんな会話をすればそんな話題になるのか謎だが、これで話題はわかった。先ほど聞こえてきたのは二人、いやスコッチが考える『ライ』の評価だろう。こうなると、バーボンの評価が気になるところ。そして、二人が出した結論も。
    「ホー。で、結論は?」
    「内緒」
    「おい」
    「だって言ったら面白くないじゃん。俺たちの想像だし。大丈夫、悪いようには言ってないから」
     むしろ、俺はいいように言ったと思うけど。
     答え合わせがしたいわけじゃないから、と言い切るスコッチは本当に言う気がないようだ。中途半端に止められた話題は喉に小骨が引っかかったようにすっきりしない。思わせぶりなスコッチの態度も相まって。だから、この男たちは苦手なのだ。意図せずともこうして心をかき回してくる。厄介で迷惑この上ない。
    「勝手に酒のつまみにされて、教えないとはいい度胸じゃないか」
    「しつこいですね」
    「俺がおまえの話をしたら怒るくせに、不公平だろ」
    「小さな男だな」
     ヒートアップしそうな言い合いに、まぁまぁ、と間に入ってくる男の姿はいつも通りだ。よくあるやり取り。変わらない姿。いつまで続くか分かったものではないが、ずっと続いてもいいと思うような。
     価値観なんて人の数ほどある。それこそ、ベルモットに誰もが仮面をつけて生きていると言われた。そしてスコッチは大切なものを宝物のように扱うと言っていた。
     自分にはそんな他人に対して思いやるような価値観はない。ないはずだが。



     パン!
     ビルを駆け上がってくる音に気を取られ、注意がそれたのは事実だ。一瞬のすきを突かれ銃を奪われるとは情けないが、相手も国を背負って潜入してきた優秀な捜査官だ。スコッチが守りたかったものがあの時は明確だったわけではないが。
     ただ、それがひとつの分岐点であり、要素となったのだけは確かだった。
     男がただのモノとなった瞬間に現れた姿に、胸が軋んだ。
    ーー人は誰しも仮面をつけて生きているのよ
     女の声が耳の奥で蘇って反響する。
     嘘で塗り固めた素性。ライは組織の人間として冷徹でなければならない。それなのに、スコッチの裏の世界には似つかわしくない笑みが思い浮かんでしまう。感情を上手く殺せない。深入りしすぎた。わかっている。勝手に人の心に踏み込んでくる面倒な男が、いなくなったのだ。ただそれだけのはずなのに。
     空色の瞳がひび割れるようだった。スコッチの前では年相応の人間のように表情豊かな男の感情が爆発寸前のところで押し止められている。
     互いに仮面を。組織の人間としての仮面を被った瞬間。偽りの感情を声に乗せて。
    「裏切りには……制裁をもって答える……だったよな?」
     絶望に近い顔をした男の顔が今でも忘れられない。

    【君は何も知らなくていい】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭💯😍👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏😭😭👏👏👏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works